異世界メカニカル~~メカオタク少年、ファンタジー世界で最強メカ軍団を作る~~
@yuuki009
第1話 物語のプロローグ
『メカ』、『機械』、『マシーン』。
それらは文明社会を支えている重要な存在と言っても過言ではないと俺は思っている。
家電までもがネットに繋がる現代において、機械無しで生きられる人間が一体何人いるだろう?
車、スマホ、パソコン。電車に飛行機。更には家電などなど。近代の文明発展は技術の発展と綿密に関係していると俺は考えている。一昔前なら遠く離れた異国の人間と会話することなんてありえなかった。それを可能にしたのが、機械たちとそれに関わる技術の存在だ。
もはや人の生活はPCやスマホを始めとした機械たちの存在無しには成り立たないと言ってもいいかもしれない。
更に彼らの存在は現実だけではない。空想の世界においても、人々の生活を彩っていた。
誰もがアニメの中のロボットに憧れを抱く。強大な敵と激しい戦闘を繰り広げるロボットたちに興奮する。
現実で人々を支え、空想の世界で人々に夢を届ける。こんな存在、他にあるか?って俺は思っていた。
俺はそんな機械たちが好きだった。人の世を支える機械も、人に夢を与えるロボットたちも。
俺は、機械たちが大好きだった。
~~~~
ここは、とある世界。文明レベルは俺の知る限り中世前後。ただし魔法と言う超常の力が存在したり、魔物と呼ばれる人を襲う化け物や、俺の知る普通の人間以外にもエルフやドワーフと言った様々な人型種族が生きている。
俺がよく知る『ファンタジー世界』のド定番を絵にかいたような世界だ。
そんな俺の名は『ニクス』。このファンタジー世界ではよくある、人口100人程度の小さな農村で暮らす少年だ。
だが俺には、ちょっとした力と秘密があった。
~~~~
農村の朝は早い。何しろ物によっては早朝に収穫をしなければならないからだ。
「ほらニクスッ!朝よ起きなさいっ!」
「う~~んっ」
朝っぱらから母さんに叩き起こされ、同じく叩き起こされた親父や兄貴たちと一緒に顔を洗うと朝食を軽く済ませ、母さんに見送られながら家を出て、村にある共用倉庫に向かった。
「お~、おはようさん」
「あぁおじさんおはよ~~」
道中で何人もの人たちと合流し、共用倉庫に向かう。で、たどり着いた場所にあったのはごく普通の納屋だ。ただし、その入り口には、農村の納屋には不釣り合いな大きな錠前で鍵がされていた。
そんな納屋の前には俺たちよりも先に来ていたおっちゃん達がたむろしていた。
「おっ、お~いニクスが来たぞ~!」
「おぉ来たかニクスッ!」
「待ってたぞっ」
「ふぁ~。みんなおはよ~」
まだ少し眠いせいか、欠伸をしながら皆に挨拶をしつつ、俺は懐から鍵を取り出した。
なぜ村長でもない、まして子供の俺が共用倉庫の鍵を持っているのか?その理由は簡単だ。それは中にある『物』が、俺にしか起動できないからだ。
俺は鍵を開けて扉を開いた。錠前を適当な所に置き、俺は薄暗い中へと足を踏み入れ、『あるもの』の前まで歩み寄る。
それは、このファンタジー世界には不釣り合いな鉄でできた箱だった。だがただの箱じゃない。箱の前面、その一角にディスプレイが埋め込まれており、そこに俺の右手を触れさせる。すると……。
≪指紋認証確認、農作業用パワードスーツ、ナンバー1起動≫
電子音声よりアナウンスが流れ、ディスプレイから手を離すと画面には箱の中で充電中だった『農業用パワードスーツ』の状況が映し出された。バッテリーの充電状況。腕の筋力を増強するアクチュエーターに異常が無いか等々。色んな情報が表示される。
「ナンバー1,起動確認、よしっ、各部問題なしっ」
ディスプレイに向かって指さし確認で問題がない事を確認すると、箱型の待機ボックスの側面にあったレバーを押し上げた。俺がボックスの前から退くと、箱の前面が上にゆっくりと跳ね上がるようにして開き、更に中に格納されれいたパワードスーツが押し出されてくる。
このボックスに収められているパワードスーツは、背中にバッテリーを装備しそこから四肢に沿うように腕部と脚力を強化するパーツを装備する、という形になっている。このパワードスーツを装着する事で、装着者は野菜でいっぱいの重い木箱を楽々運んだり、長時間の立ち仕事や屈んだ状態での仕事でも足腰に負担を掛ける事無く、農作業が出来る。
「よぉしっ!んじゃ早速っ!」
すると親父が近づいてきて、宙に浮くパワードスーツに背中を預けるように寄り掛かった。すると、箱の中から無数の機械式アームが伸びてきて、親父の背中や腕、足なんかにパワードスーツを装着していく。
≪装着完了。固定ロック解除します≫
電子音声が響くと共に、パワードスーツを固定していたロックが解除。更にこれを合図としてパワードスーツのバッテリーがONになり、起動状態を示すために各部に緑色のラインが走った。
「うん、起動に問題なし。良いよ親父」
「おうっ!んじゃお先にっ!」
満面の笑みを浮かべながら親父はパワードスーツを纏い倉庫を出ていく。
「クッソ~、良いよなぁダンの奴、いつも1番乗りだぜ」
「まぁそういうなよ。何しろこの装備を作ったのが実の息子だってんだからなぁ」
入口辺りでたむろしているおっちゃん達の会話が聞こえてくる。が、特に気にせず俺は次々とボックスのディスプレイに触れ、指紋認証でパワードスーツを起動していく。
パワードスーツが起動すると、おっちゃん達が我先にとスーツを纏い、倉庫を出ていく。今ではすっかり皆パワードスーツを頼りにしている。これを作ったばかりの頃は皆懐疑的だったのになぁ。まぁそれだけ時間が流れたってことか。
なんて感傷に浸っていたが、いけねっ!俺も早く行かないとっ!俺は最後に残っていた1機のパワードスーツを起動すると、それを装着して畑に向かった。
俺が足早に畑に向かうと、既にみんな農作業に入っていた。そんな中でパワードスーツを纏った親父やおっちゃん達は、他の人が採取した野菜が満載の木箱を運んでいる。
「いやぁ、このぱわーどすーつって奴のおかげで日々の農作業が楽でいいねぇ」
「あぁ全くだ。前までだったらこのクソ重い荷物を汗水流してぜぇぜぇ言いながら必死に運んでた所だ。それがこんな軽々と運べるんだから、まったくニクスには頭が上がらねぇぜ」
「そうだなぁ」
パワードスーツを纏ったおっちゃん達2人が雑談しつつ笑いながら軽い足取りで木箱を運んでいる。
あれがパワードスーツの導入前だったら、こうは行かない。さっきおっちゃん達が話していたように、野菜を満載した木箱は重たい上に、何度も往復して運ばなければならず、かなりの重労働を強いられる。それ故に腰をやってしまう人も以前は一定数居た。が、それもパワードスーツ導入前の話。
「お~いニクスッ!何やってるんだ手伝えよ~!」
「あっ!悪い親父っ!今行くっ!」
作業をしていた親父に呼ばれ、俺も親父や兄貴たちと一緒になって仕事を始めた。
パワードスーツとは、人の動作を機械的に補助し、肉体的負担や作業効率を上げるための道具と言って良い。
実際、俺がこの村でパワードスーツを生み出した後と前では、皆の様子が違う。以前だったら、朝っぱらから大量の汗を流し、重い荷物を運んで腰を痛め、痛みで表情を歪めながらも作業をする羽目になっていた。
が、パワードスーツのおかげでそれも無くなった。皆作業が楽になり、パワードスーツのおかげで作業効率も上がり作業時間の退縮にもつながっている。更に腰への負担を最小限にすることで、作業中のぎっくり腰や腰痛の予防にもつながっている。これこそまさに偉大なる道具、人類の英知のなせる業だ。
何てことを考えながら、俺も親父たちを手伝っていた。しばらくすると。
「よぉし、今日はこれくらいで良いだろう」
「「「へ~~い」」」
無事作業が終了した。以前だったらまだ作業をしていただろうが、今となってはそれも無い。自分で作っておいてなんだが、本当にパワードスーツ様様だ。
その後、俺と親父はパワードスーツを倉庫のボックスへと戻す。ボックスに向かって背中を向けると、装着の時と逆の手順でアームがパワードスーツを回収。ボックスが閉まると同時に点検とバッテリー充電が始まる。
で、俺は一応全員分のパワードスーツが戻って来るまで倉庫の傍で待機していた。ちなみにパワードスーツの電力の元は、倉庫の裏に設置した太陽光発電のパネルだ。ここで太陽光エネルギーを吸収し、倉庫の中にある大容量の大型コンデンサに蓄電。もちろんソーラーパネルのエネルギー変換効率も『通常のソーラーパネル』より段違いだ。 そして、コンデンサに繋がったボックスを介して充電が行われるという訳だ。
そんな太陽光パネルの様子やコンデンサに蓄積されている電力量などを確認していると、最後のパワードスーツが戻って来た。
「ふぃ~、おぉニクス。悪いな待たせちまって」
「良いよ別に。これも俺の仕事だからね。それよりパワードスーツの方はどう?」
「何の問題もねぇぞ。むしろ問題一つ無くてちょっと怖いくらいだぜ」
「それは何より」
馴染みのおっちゃんの言葉に、誉め言葉と受け取って笑みを浮かべながらパワードスーツがボックスに戻ったのを確認。それを確認すると、上がっていたレバーを下ろしボックスの蓋を閉じた。
「にしても、ニクスはよくこんなの思いつくよなぁ。ニクスの『力』がすごいのは知ってるが、にしたってよくこんなの考え付くぜ。お前の頭の中どうなってんだ?」
「色々あってね。まぁ誉め言葉として受け取っておくよ」
おっちゃんの言葉に、俺は少しだけ言葉を濁した。周りのみんなが、俺に『特別な力』がある事は知っているが、もう一つ、俺には『秘密』があった。
「さっ、それよりほら出た出た。鍵閉めるからさ」
「へ~い」
俺はおっちゃんと共に倉庫を出ると、扉に錠前を掛け施錠する。これで朝の仕事は終了。俺は家に戻った。
そして午後に向けて休憩をしていた時、俺は親父と話をしていた。農家と言うのは基本的に何度も休憩をこなしながらほぼ丸1日、朝日が出て日が沈むまで働きっぱなしだが、それは特に忙しい収穫の時期の話。今はそうでもないし、何よりパワードスーツの導入で他所の村とウチの村じゃ作業効率が全然違う。なので忙しくない時の仕事は基本的に午前中で終わってしまう事も多い。
で、家のリビングで休憩しながら俺は親父と午後の話をしていた。
「親父、午後の作業はどうする?畑仕事は今朝ので終わりでしょ?」
「あぁ。今日の分は今朝ので終わったから、午後は少し畑を耕そうと思ってる。この前雨が降ったせいで使ってなかった所が雑草生えまくりになってたからな」
「あぁそういやそうだね。人手はいる?」
「いや、耕すだけだからそんなに人手は必要ないな。……ん?そういやニクス、お前昨日の夜『そろそろガードロボットの定期チェックが』、とか言ってなかったか?」
「あっ、そうだったっ」
そうだ親父に言われて思い出した。確かにそろそろやろうって思ってたんだ。
「思い出したみたいだな?んじゃニクスは午後はそっちで良いぞ。畑は俺やニック達でやっておくから」
「分かった」
と、いう事で午後から俺は親父たちと別行動だ。昼食の後、少し休憩して親父やニック兄貴らは農具を片手に畑へ。俺はというと、一旦部屋に戻り、木製の机の引き出しからある物を取り出した。
それは、はた目には『スマートウォッチ』にそっくりだった。俺はそれを左手首に装着する。すると合成樹脂で出来たベルトが自動的に巻き付き手首部分に固定される。このスマートウォッチモドキを俺は『コマンドウォッチ』と呼んでいる。
このコマンドウォッチは、村の各地に配置された『ガードロボット』と呼ばれるロボットの管理したり状況をチェックしたり、場合によっては指示を出すためのアイテムだ。
ガードロボット、というのは俺が村を守るために、パワードスーツなどを生み出したのと同じ『ある力』で生み出した物だ。
こういった山間部の農村となると、自衛力は決して高くない。男衆も居るとはいえ、戦闘経験は皆無の人が殆ど。かといってわざわざ自衛のために武装した人を配置する余裕もある訳じゃない。何か問題があれば、農具を武器に戦うのが関の山だ。
そんな自衛力を強化するために生み出したのが、ガードロボットだ。
コマンドウォッチの画面を右手の指先で軽く叩くと、空中にディスプレイが表示される。映し出されたのは、村の各地に配置しているガードロボットの状況だ。バッテリーの残量などが表示されているが、見た限りでは特に問題などは無く、エラーや故障の報告は上がっていない。
とはいえ、だ。こういうのは自分の目で見ないとな。という事で俺はコマンドウォッチを装備したまま家の外に向かって歩き出した。
「あっ」
そして外に出ようとした時、ふと気づいた事があった。そうだ、今朝は『ライガー』の顔見てないや、と。
ライガーとは、人ではないが俺たちの家族であり頼もしい仲間だ。特に急ぐ用事でもないし、俺は家を出ると、家のすぐ隣に立っていた納屋に向かった。納屋の扉は空いたままだった。さっき親父たちが出かけて行ったし、そのままになってるのか?相変わらず親父たちはその辺りの管理がずぼらなんだから全く。
なんて思いながら、空いている扉から中を覗き込む。普段ならライガーは入り口近くの藁の傍で寝ているのだが、いない。
「あれ?ライガー居ないなぁ」
別の場所にいるのか?と思って納屋の中を見回すが、いない。
「う~ん。どこ行ったんだ?あっ」
外に居るのか?と思い見回していると、ちょうど洗濯物を干している母さんを見つけた。もしかしたら知ってるかも?と思い俺は母さんに駆け寄った。
「ねぇ母さんっ、ライガー見てない?」
「あら?ライガーちゃん?あの子ならさっき森へ行くのを見かけたわよ?」
「森に?」
「えぇ。一応、暗くなる前には帰ってくるのよぉ、って声を掛けたから大丈夫だと思うけど」
「そっか」
母さんが声をかけてくれたみたいだし、なら大丈夫だろうと俺は判断した。ライガーもまた、俺がパワードスーツやガードロボットを生み出したのと同じ力で『創造』した存在だ。故に喋る事は出来ないが知性は人間と同等で人の言葉も理解できるようにしてある。だからこそ母さんの言った通り暗くなる前には帰ってくるだろう。
顔を見ておきたかったが居ないのなら仕方ない、という事で俺は改めて村の各地に設置されているガードロボットの所へと向かった。さっきコマンドウォッチで確認したようにウォッチで確認は出来るのだが、ガードロボットは俺が生み出した。
つまりあの子たちは『俺の子供』と言っても良い。ってか俺は実際そう思ってる。つまり俺は親だ。だからこそ親心としては、ウォッチで大丈夫だと分かっていても実際にその眼で確かめておきたいって事だ。
で、村の中を歩いていると。
「あら?こんにちはニクス君。今は一人?」
「あぁはい」
井戸端会議をしていたおばさん達に遭遇した。
「どこかに行くのかしら?」
「えぇちょっと。あちこちに配置したガードロボットの状況を確認しに行くんですよ。貴重な村の防衛戦力ですからね」
「成程ねぇ」
俺の話を聞くと、おばさん達は頷いた。
「それにしても、ニクス君にはホントに感謝してるわぁ」
「そうねぇ。ニクス君が作ってくれたあれ、パワードスーツ?だったかしら?あれのおかげで水汲みとか力仕事が大分楽になったからねぇ」
「そうそう。旦那たちも仕事が楽になったっていっつも言ってるわよねぇ」
おばさん達の感想は、俺にとっても嬉しい物だ。パワードスーツも俺の子供のような物。子供が褒められて嬉しくない親はいない。
「そう言っていただけると作った甲斐があります。皆の役に立てているのならあの子たちもきっと本望でしょうし」
「そうねぇ。それにしても、こうなってくると次の村長はニクス君かしら?」
「確かにっ。今の所ニクス君が一番の候補よねぇ~!」
「いやいや気が早いですよ。俺まだ14ですよ?」
なんて話を少ししていたのだけど、ってそうだったっ!
「あっ、そうだ俺ガードロボットのチェックに行くんだったっ!」
本来の目的すっかり忘れてたっ!
「じゃあ俺そろそろ失礼しますっ!」
「は~い、いつもありがとね~」
おばさん達に見送られながら、俺は足早にガードロボットのいる場所に向かって小走りで向かった。
少し歩いていると、たどり着いたのは村と外を隔てる木製の柵の近く。一見何の変哲もない地面だけど。
コマンドウォッチに触れてウィンドウを呼び出し、配置図をロード。村の地図が描かれ、各地に配置されたガードロボットの位置が赤い点で表示されていて、コマンドウォッチの持ち主、つまり俺は地図上に緑の点で表示されている。で、その緑の点から一番近い赤点が……。
「ここはナンバー3か。よしっ」
地図の赤い点をタッチすると、その点、つまりガードロボット・ナンバー3にコマンドウォッチ経由でアクセスできる。
「ガードロボットナンバー3にアクセス。臨時チェックを行うため、通常モードで起動。展開せよ」
コマンドウォッチを介しての音声コマンドを入力する。すると俺の傍の地面から突如として何かが撃ちあがった。地上から上空1メートルほどに撃ちあがったそれは、一言で言うと太く黒い柱だった。
が、次の瞬間にはその黒い柱の各部、折りたたまれていた部分が展開された。下部からは、X字を描くように四方へと展開される4本の脚。中央部分からは左右に展開されるマニュピレーター装備の一対の腕。そして最後に頭部の装甲がスライドして赤いカメラアイが展開され、そして落下してきたガードロボットが4つ足で地面に着地した。
≪ガードロボットナンバー3、起動シマシタ≫
すると赤いカメラアイが俺を見つめながら電子音声で答えた。これこそが俺の作った『AI搭載型自立式防衛ロボット』、ガードロボットだ。
普段は円柱の形をした待機モードで地中に潜んでいるが、その時でさえ常に振動センサーなどで村の外を警戒している。もし昼間にそのセンサーに反応があればコマンドウォッチを介して俺に報告を行うか、或いは内蔵されたスピーカーから電子音声によって村に警告をする。また、特定の時間、夜間などにセンサーに反応があった場合は、即座に地中より射出、変形して防衛モードに移行。場合によっては外敵へ警告を行ったり、実力行使で排除する事もある。
ガードロボットだけで撃退、もしくは追い返す事が出来れば良いが、脅威レベルが高いとAIが判断した場合は、内蔵されたスピーカーから大音量のサイレンを鳴らして村のみんなを叩き起こす事も可能だ。
ガードロボットの掌には放電機能が備わっており、言わば掌にスタンガンがあるような物だ。そのため放電による威圧や、スタンガンのように相手を高電圧の電流で痺れさせて行動不能に追い込む事が出来る優れものだ。
さて、そんなガードロボットの様子を伺うが、特に汚れていたり損傷している様子は無いな。ウォッチで確認するがナンバー3のバッテリー残量も問題なし。うん、これなら大丈夫だ。
「よしっ、チェック完了。ナンバー3へ音声コマンド入力」
俺がナンバー3に声を掛けると、『ピピッ』という音と共に俺を見上げるナンバー3。
「確認終了。待機モードに移行せよ」
≪了解。ガードロボットナンバー3、待機モードニ移行シマス≫
俺の指示を復唱したナンバー3は、再び飛び上がると空中で円柱形の待機モードに変形。さっき飛び出してきた穴にすっぽりと戻ってしまった。
「よしっ。じゃあ次だ」
それから俺は、あちこちで待機しているガードロボットたちの状況を見て回った。村自体はそこまで大きくないが、村から出て少し歩けばすぐ森だ。周囲を大自然に囲まれている上、ガードロボットが無ければ防衛設備なんて木製の柵程度だ。なのでガードロボットは1体1体の間隔を開けつつ、村を囲う円のように配置している。
そんなガードロボットを全機その眼で確認し終えると、俺は家に向かって歩き出した。全機問題なし。まぁ、本音を言うのならガードロボットたちの出番何て無い方が良い。だってあの子たちの出番があるって事は、平和じゃないって事だからな。それに、もし戦闘になって万が一破壊されでもしたら。
「ッ」
そう思うと背筋が震えた。うぅいかんいかん。嫌なイメージが脳裏に浮かんだ俺は、それを被り振るように首を左右に振った。
と、その時。
『ザッ』
「ん?」
何やら後ろで足音がした。なんだ?と思って振り返ると。
「あっ!ライガーッ!」
そこにいたのは、俺の家族でもあるライガーだった。
ライガー。その見た目を一言で表すのなら『鋼鉄のトラ』、『機械の体を持ったトラ』、『動物型ロボット』、『機械獣』って所だろう。
ライガーの見た目はロボットのトラだ。全身が強固な金属で出来ている文字通り鋼の肉体を持つトラ。元々はガードロボットで対処できない敵が現れた時のことを考えて作り出した、この村最強の存在だ。
そんなライガーは全身土や何やらで汚れ、口元には大きなイノシシを銜えていた。そして、まるで『褒めて~』と言わんばかりに多関節搭載の鋼鉄の尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「お~~ッ、ライガー森でイノシシ取ってきてくれたのかっ!助かるよ~!」
俺はライガーの元に駆け寄り、その鋼鉄の頭を撫でる。すると嬉しそうにライガーの尻尾がぶんぶんと左右に振られる。
そこからイノシシに視線を向けるが、首の辺りに大きな傷がありしかも濡れていた。って事は……。
「あっ!もしかして血抜きまでしてきてくれたのかっ!」
俺が問うとライガーは頷くように首を縦に振った。
「あ~もうほんとお前はなんて賢くていい子なんだ~!」
ホント、わが子ながら何て賢いんだっ!俺は笑みを浮かべながらライガーに抱き着きその頭を撫でまわす。するとライガーも、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っている。
ライガーは、俺が生み出したパワードスーツやガードロボットの兄弟だ。この世界には、『魔物』と呼ばれる怪物が存在している。最たる例は『ゴブリン』だ。俺の知る、ファンタジー世界の定番であり、人族にとっての脅威。
魔物の中にも強弱やランクと呼べる物がある。だからこそガードロボットで対処できないような強大な魔物が、万が一村を襲った時を考えてライガーを生み出した。
そしてライガーには、人間と同程度の知性と、考えられる限り最高のスペックを与えてある。
鎧たる表皮には高硬度の金属の積層装甲版を。骨格たるフレームも高い強度を持ち、動力源には超小型且つ大容量のバッテリーを搭載。尻尾の一部がソーラーパネルとしての役割を持っている他、生物に似た捕食機能も搭載している。なので人や動物のように獲物を食らう事でエネルギーを確保する事も可能。
武装としては両手両足の爪と口腔内部の牙に振動機能が搭載されていて、戦闘時にはこれを発振させて相手を切り裂くヴァイブレイションネイル、ヴァイブレイションファングとして機能する。レーダーも搭載していて、周囲の動きにも敏感だ。
まさしく俺が考えた最強の守護者であり、俺の最強の家族だ。
「よ~しライガーッ!家に帰るかっ!いや、いっそデッカイイノシシ狩ってきてくれたし、村のみんなでイノシシ鍋のパーティーでもやろうっ!」
俺の言葉にライガーは賛成ッ!と言わんばかりに頷く。
その後、イノシシを銜えたままのライガーと共に帰宅し、家族にイノシシを見せるととんとん拍子に話は進み、夕方になれば村の中央で大きな鍋にイノシシの肉や野菜を惜しみなく入れたイノシシ鍋で皆盛り上がった。
そして大人たちが酒で盛り上がっている中、俺は子供たちと遊ぶライガーを見守っていた。そんな中で。
「ねぇねぇっ!ニクス兄ちゃんってなんでこんなすごいの作れるのっ!?」
「ん?言ったでしょ?俺にはちょっとした力があるの」
「え~~!良いなぁ俺もそういう力欲しい~~!」
村の子の一人が俺の傍に来て少々駄々をこね始めた。まぁ俺が不思議な力を持ってたら、憧れの一つ持ってもおかしくはない。
「じゃあエルが大きくなったら、何か俺から一つプレゼントをするよ」
「えっ!ホントッ!?」
「あぁホントホント。だから大きくなったらこんな道具が欲しいってちゃんと考えといてね?」
「は~いっ!」
「あっ!エルだけずるい~!」
なんてやり取りをエルとしていると、更に他の子たちまで俺に群がってくる始末。『僕も僕もッ!』と声を荒らげる男の子も居れば、『私もっ!』と、予想外に手を上げて主張する女の子まで。
「分かった分かったっ!みんな大きくなってからねっ!」
ここは、こういう時の必殺文句を発動しとりあえず皆を宥める。と、その時。
「それにしてもさ~。どうしてニクス兄ちゃんってこんなすごいの考え付くの?」
ライガーの尻尾を追いかけていた一人の子が、俺に問いかけてきた。でも、その理由を俺は答える気にはなれなかった。だって、言った所で信じてもらえそうになかったから。
「ふふっ、それについては内緒」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそう語る中で、俺は思い出していた。
この世界には無い知識を持っている理由。俺には『前世』がある事。そして、この世界へと転生する事となり、神様に願ってチート能力、『
物語の始まりは、今から10年以上前にさかのぼる。
第1話 END
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