06
ウィルの言葉を遮る様にして、突然その声が聞こえてきた。
少し太めの男の人の声。カズマでもウィルでもないその声は、どこかで聞いたことがあるのだけれど、明確に思い出す事が出来ない。
私はその声の主を思い出す事ができなかったけれど、その声を知っている人が他にもいたようだ。
『その声…てめぇ、村岡じゃねぇか!』
そう叫ぶウィルの声で、私も思い出すことが出来た。せっかお姉ちゃんの場所を奪ったあの男、村岡の声だ。
『おっと、まだ覚えてくれているとは光栄だね、高橋君』
『ちっ、相変わらずだな、その上っ面だけの謙虚さ。反吐が出るぜ。てめぇ、あの時死んだんじゃなかったのかよ』
『勝手に殺されては困るよ。ちゃんと生きていたとも。最も、何処の誰かは死んでいて欲しかったようだがね?』
そうだ、2年前のあの日、実験施設が壊滅したあの日に村岡も死んだとされている。実際は死体は見つからずに行方不明扱いだったけど、多くの人はその場で死んだと思っているはずだ。
もし生きていたなら、キサラギに戻ってこないはずは無いのだし。
そう思っていた私の疑問に答えるように、一つの通信が割り込んできた。
『村岡…貴方、やはり生きていたのね。もう少ししっかりと探索をさせるべきだったわ』
通信に割り込んできたのは風華だ。その声は冷たい響きをもって、軽蔑と恨みを含んでいるように聞こえた。
『ふふ、お前の仕掛けた細工を私が見抜けないとでも?私は事前に脱出させて貰ったよ。源一郎が死んだのは想定外だったがね。まぁ、お前にとってはそれも想定内だったのかもしれないがな』
『なっ、にを言って…』
キサラギの社長としていつも堂々としている風華が言葉を詰まらせるのは珍しい気がする。
『ふん、まぁいい。それよりも、思ったよりも酷い状況じゃないか、D-00』
風華の事は本当にどうでもいいとでもいうように早々に話を打ち切った村岡の侮蔑を含んだ鋭い声がディオへと飛び、私の下にいる機装がビクッと震えた気がした。
『くっ、こ、これは…』
『まぁ戦果には期待はしていなかったが、その代わりに良いデータはとれた。よくやったと言っておこうか。ついでだ、もう一つ、データ収集をしてもらおうか』
『こ、この状況でどんなデータをとれっていうんだよ!』
『なに、お前は何もしなくていいのだよ。ただそこにいればいい。そう、単なる部品のようにね』
『な…何をいって…』
『玲急げ!早く動力部を破壊しろ!』
村岡とディオとの会話に割り込む様に、カズマの焦った声が聞こえてきた。
早く壊せって言われてもどこが動力部なのか分からないよ!
『フフッ、ハハハハ!流石に察しがいいようだな黒木一真!だがもう遅い!システムドミネイト起動!』
『何を…う、あ?な、なんだこれ…なんだよこれ!!』
村岡の声を皮切りに、今度は間違いなく、私の下の機装がガクンと大きく揺れ動いた。
同時にディオの焦った声が大きく響き渡る。
『うわああああ、なんなんだよ!ぼ、僕の中に入ってくるな!やめろ!やめろおお!』
『村岡!てめぇ何をしやがった!』
『何、部品を部品らしくしているだけのことだよ。感情のある部品というのも悪くないかと思っていたんだがな、どうにも不具合が多いようだ。やはり部品は部品らしく、素直に使われるべきだろう?』
『村岡貴様…やはり【鋼の子供達】を繰り返すつもりなのか!』
激高するカズマの声。カズマとは大分長い付き合いになったけど、コレほど怒っているカズマを見るのは初めてだ。
『繰り返す?違うな黒木一真。あの計画はまだ続いているのだよ』
私も前に聞かされた【鋼の子供達】の本当の目的。それは人の脳を生体パーツとして組み込み、AIによる自動制御を行う機装を開発すること。その主任を務めていた村岡が計画を続けるということはつまり…今のこの状況はディオを生体パーツとして組み込もうとしているということ?
『やめろ…やめろぉ…僕が…僕が消える…僕………僕って…なん、だ?』
『ウィル!まだか!』
『うるせぇ!サクラが動いてねぇんだ少し待て……玲!下腹部だ!』
(んっ!)
膝で相手の両腕を地面に貼り付けるようにしていた態勢だったので、機装の腹部は私の後ろの方にあることになる。つま先から足首にかけて力を入れて、立ち上がるようにして後ろへとスライド。
『僕…ぼ……ぼ、お、お、お……お、う、う、う、……あ、あ、あ、う、う…………』
もはや言葉にならないディオの喘ぎを聞きながら、素早く左手に持っていたナイフを下腹部の装甲の隙間から一気に突き刺した!
ガキン!という金属と金属がかち合った音が響きわたった直後、ディオの声がプツリと途切れ、私の下で小さく痙攣を起こすように動いていた赤の機装の動きが止まった。
『ふむ、もう少し時間を掛けてくれると有りがたかったのだがね…。まぁいい、人格消去と隷属プロセスのデータは回収できたか』
『村岡……貴様ぁぁぁぁぁ!!!』
『ふん。随分と嫌われたものだな。まぁいい。私の目的は果たせた。このへんで失礼することにしようか。また、会う事があるかもしれないな?黒木一真』
一方的にそう告げた村岡が通信を切断したようで、辺りが急に静かになる。
『その声…二度と聞きたくはなかったぜ、クソが』
ポツリと、吐き捨てるように呟いたウィルの声が、余計に大きく聞こえた。
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