05
ディオの繰り出してきた右手を先ほどよりも早い段階でナイフを使って外側へと受け流す。私がナイフを使って受け流したのとほぼ同時に掌からパイルが突き出てくる。もう少し受け流しが遅かったらまた装甲を削られていたかもしれない。
『1発で終わりなはずが無いでしょう!』
ディオのその言葉どおり、先ほどは使わなかった左手が私の頭を狙って繰り出されていた。
(それは…こちらも同じ!)
言葉にならない声を上げながら、私はディオの繰り出してきた左手を右手を使って下から上に跳ね上げる。それと同時に、自分の左足をディオの右足を引っ掛けるように左前へとすべらせながら、上半身を屈めるようにしてディオの腕をくぐり抜ける。さらにディオの左手を跳ねあげた右手でディオの左肩を後ろに押すように動かした。
結果、ディオの右手側は勢いを殺されず前に出ようとする、けれど、その右足は私の左足で抑えられているので前に出られない。そしてその状態で左肩を後ろへと押されると…
『なっ!?』
足が固定されているのに、その方向に力が掛かるとどうなるか。前にも横にも勢いを逃がすことができなくて、結果、唯一曲げることができる膝がカクッと曲がり、背中から倒れていく事になる。
機装は二足歩行の巨大な物体。その形状は大なり小なり差はあるけど、ほぼ人型と言っていいと思う。けど、その機装を直立させるのは操縦者の技量だけでは難しい。私達も自分がどうやって立っているのかを常に意識して居るわけではないのだから。
そこで、機装のバランス保持を補助するシステムがオートバランサーと呼ばれるもの。
その元となっているのは勿論、人のバランス感覚だ。
つまり、そのオートバランサーを搭載している機装には人につかう投げの技術が有効だということ。さっきの動作もその一つ、カズマとの訓練がこんな場面で役に立つとは思ってもいなかった。
『ぐっ、はっ』
仰向けに倒された機体から、ディオのくぐもった声が聞こえてきた。
倒れた相手の両腕を地面に縫い付けるように両膝で抑えこんで、私はディオの機装にまたがるような態勢になる。
実際の人との戦闘の時はうつ伏せにしないと色々と危険なんだけど、この機装の場合は持っている武器は内蔵のパイルバンカーだけ。形状からして、パイルは腕の肘から先に格納されているようだし、肘の先を固定してしまえば攻撃する手段はなくなるはず。
『く、くそっ!こんな!』
両腕を抑えられているディオが必死に腕の拘束を解こうと動かしているけれど、いくら【空牙】が軽量な機装でも完全に押さえつけられた状態じゃ動かせない。
『随分綺麗に投げたもんだなぁおい。クロイツてめぇ、玲にどんな教育してやがんだ』
『単なるクロスコンバットの訓練だ。元々センスはあったんだろうけどな』
『それよりも早く動力部を潰しちゃうさね。また変なことされたらたまらないさ』
3人の通信を聞きながら、私は動力部を破壊しようと左手に持ったナイフを振り上げるのだけれど、そこで一つの問題に気づいた。
動力部がどこにあるのか分からない。
下手に攻撃をしてコックピットを貫いてしまうわけには行かない。
どうしようかとおどおどとしていると、私の様子にユンファが気づいてくれたみたいだ。
『玲、もしかして動力部が分からないんじゃないのさ?』
『あぁ、そーいやそうか、ちょっと待て、今スキャンして―』
『ふむ、どうやらここまでのようだね』
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