04

 突然頭に響いてきたユンファの声。

 その声になんとか反応して、持ち上げていた左腕でディオの右腕を自分の右側に受け流す様に横から払った。それに合わせて自分の体の右側を後ろに回して、左半身になる。

 ゆっくりとディオの腕が私の右側に逸れていく中で、突然右肩に衝撃が来た。


(うくっ!)


 確かに避けるタイミングは遅かったと思うけど、よけきれない程じゃなかったはず。

 それに右肩に感じる痛みは殴られた時の痛みというよりも、切り傷のような、そんな痛みだ。


『右肩部ノ装甲損傷ヲ確認。触覚リンク30%カット。損傷軽微。戦闘継続ニ支障ナシ』


 アンジェリカの声が響いて、左肩の痛みがスッと引いてきた。どうやら機装の傷を痛みと感じる割合を減らしてくれたみたい。そのせいか少し右肩から先の感覚があやふやな感じになった。

 ディオと私とお互いに移動しながらの攻防だったせいもあって、すれ違う様にお互いに距離を取った。左半身から勢いを殺さずにくるりと反転すると、私の後ろにすれ違っていったディオの機装の右手からあるものが出ているのが見えた。


(パイル?)


 機装の掌から【水破】の口径と同じくらいの金属製の杭が突き出ていた。

 さっき私の右肩を切り裂いていったのは多分あれだろう。


『内蔵式のパイルバンカーだぁ?ユンお前良くわかったな』

『バカアフロ、忘れたのさ?残っていた痕跡のうち高周波ブレードの痕跡が残っていた方はキサラギのタイプXだった。だとすれば残ったもう片方の痕跡はあいつの物って事になるさね。あの機装の外装にはパイルバンカーは見当たらなかった、となれば内蔵兵器って事になるさ。で、パイルを仕込んでおくのに一番便利なのは…腕の中って事さね』


 ユンファの説明を聞きながら、私は切り裂かれた右肩へと視線を向ける。右腕の動きには違和感はないけれど、パイルが触れた場所の装甲は深々を抉られて中の配線が少し見えている。元々装甲の薄い【空牙】だから仕方ないとはいえ、やっぱり威力だけは十分に持っている武器だと改めて感じる。

 前にカズマが言っていたけれど、通常ならばパイルバンカーなんて実用性はほとんど無い武器だ。貫通攻撃なら銃器でいいし、ピンポイントで頭部やコックピット、動力部を撃ちぬかないと効果的じゃない。

 けど、極近距離から放たれるパイルは機装そのものの速度と合わさって威力だけは確かに高いんだ。ユンファの警告が無ければ、ディオのパイルは私の腕を突き破ってコックピットまで到達していただろう。そう考えた時、少しだけ背筋に寒気を感じた。

 本当ならこういう攻撃には遠くから射撃で応戦するか、相手の攻撃にスピードを載せないようにこちらも機動するのがセオリーのはず。ただ、今の私にはどちらも出来ない。


『ふん、良くそんな状態の機装で避けられたね。でも次は外さないよ!』


 お互いに距離を取る形になって、離れた場所に居るディオの機装がパイルを腕にしまうのが見えた。再び加速からのパイルを放ってくるんだろう。それに対して、私はできることは殆ど無い。機動力もなく、射撃武器も使えない。手元にあるのは自衛にも使えないような小型のナイフだけ。どうにかして相手の機動力を奪えればいいんだけど…。

 そうやって考えているうちに予想通り、ディオは再び真っ直ぐにこちらに加速してきた。

 慌てて迎撃態勢を取るけれど、そこから先の打開策が思いつかない。


『玲!前に教えただろう!機装のオートバランサーの事を思い出せ!』


 どうしようかと困っているところで、カズマからの通信が入る。

 オートバランサー?確かそれって…そうか!今の私はD.F.C.Sで機装を動かしている。

 ということはつまり!。


『何を言っているのか分からないですけど、そんな機体で何かできるとでも!』


 今度は先程よりもさらに加速度が高いようで、重力制御にも関わらず機装の後ろには砂埃が舞い上がっている。

 私はさっきとは違い、がっしりと両足を地につけて、ディオを迎撃する態勢を取る。右手に持っていたナイフを左手に持ち替え逆手に持つ。ナイフを持った左側を僅かに前に出した半身の状態。


『これで終わりだ!』


 高速で接近したディオはまた同じように右手の掌打を打ち付けてきた。カズマの声が無ければ私はまた同じようにパイルを避けるだけの行動になってしまっただろうけど、今は違う!

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