03

 三人の通信を聞きながら、私は走り続ける。【空牙】の細い脚だと走るのは負担が掛かるんじゃないかと思っていたけれど、そんな様子は無い。試作機ということですごくお金が掛かっているのかもしれない。


『くそっ…まさかそんな手段があるなんて…でも、未完成で不具合だらけのシステムで勝てるとでも思っているのか!L-01!』


 標的をこちらに向けたディオの赤い機装がこちらに向けて加速してくる。ディオの機装を見る限りだと武装らしい物は見られないのだけれど、こちらへと加速してくるということは何かを隠し持っている可能性が高いのだと思う。

 近接武器として考えられるのは今私が持っているような小型のナイフが一番隠しやすいだろう。となると、偵察機としては少し大柄な胴体や脚部あたりの内部にアタッチメントがあるのかもしれない。ともかく、近づいてくるということは相手も射撃武器は持っていないということなんだろう。これなら私にも勝てる可能性がある!

 私も走りだしてはいるけれど、お互いの速度が違いすぎる。本当なら同じ速度で戦うのが一番いいのだけれど、機装で走っているだけだとそれだけの速さが出せない。

 そうはいっても立ち止まってるわけには行かない。相手の方が速度が早いし、何より重力制御が使えないから【空牙】の実力を発揮出来ていない。最高速度だけじゃなくて、その他の機動制御も本来の力を出し切れていないということ。勿論、それは反転や左右の動きにも関わってくる。

 立ち止まってしまうと、高速で動きまわる相手に振り向くことも難しくなってしまうかもしれない。

 ディオも私に向かってきていたから、相手との距離が狭まるまでに時間はそうかからなかった。

 私は走る足を止めず、走りながらディオへ一撃をいれようとナイフを軽く引く。

 対するディオは腰を少し低くし安定した姿勢で右腕を腰の辺りまで引いた。お互いに突きの一撃を入れるような姿勢。

 予想外だったのは、ディオが引いた右手に何も持っていないということだ。

 まさか本当に丸腰だっていうの?

 勿論加速していた勢いもあるのだから、例え拳だけだとしてもその衝撃はかなりの物になるとは思う。けれどその一撃は決して機装を大破できるものじゃない。

 私のナイフも決して決定力がある武器じゃないけれど、それでも機装の急所部分、例えば動力炉や…やるつもりはないけれどコックピットへの一撃であれば十分に戦闘不能に持っていける。

 それに対して機装の拳だけではどうやっても機装の装甲部を貫く事は出来ないと思う。

 そもそも、機装のマニピュレーターは人を掴むことすらできるくらい精密にできているものだったはず。それだけに耐久度は高くない。装甲部を殴りつけるなんてすれば逆に自分の手が大破してしまうのではないだろうか?

 それにディオの動きも正直言い動きだとは思えない。

 丸腰だったのは仕方ないとしても、正面から突っ込んで殴りつけるだけなんて。

 機動性はあちらの方が絶対に高いのだから、背後に回りこむとか色々できるはずだ。

 でも、それも仕方の無い事なのかもしれない。

 【プロジェクトMMM】もそうだったけれど、【鋼の子供達】もやはり軍用に開発していたところがある。【プロジェクトMMM】の方は仕方なく…という事だったみたいだけど、【鋼の子供達】の方は完全に軍用に開発していたらしい。

 それを示すように、【鋼の子供達】のテストパイロットに選ばれた子供達は、皆それぞれの役割を与えられそれに沿った教育をされていた。

 近接強襲のAナンバー。中距離砲撃のBナンバー。遠距離狙撃のCナンバー。そしてディオも所属していた電子戦のDナンバー。唯一例外として【プロジェクトMMM】から参加していた私はリンクテスト要員としてLナンバーを受けていた。

 それぞれが特化した教育を受けていたから、電子戦Dナンバー所属だったディオが近接戦闘が苦手であっても仕方ないところはある。

 これがあの頃の教練だったら仕方ない、でも良かった。でも今は実践だ。

 特にクロスレンジでの戦闘はその一撃一撃が必殺の威力を持った攻撃になるのだから、近接戦闘に慣れていないことは大きな弱点だ。

 機装の操縦だけで言えば私もそれほど経験があるわけじゃない。実際に機装で戦闘を始めたのはあの日から少したった頃からだから、実践ではまだ1年とちょっとしか乗っていないことになる。

 でも、生身での戦闘はずっとずっと前からカズマに訓練してもらっていた。それが今、D.F.C.Sのお陰で生きている!

 私とディオ、二機の機装が両方の拳が届く位置まで近づく。

 先に攻撃してきたのはディオだ。

 腰に引いていた手を真っ直ぐに私に突き出してきた。

 ディオが武器を持っていなかったらしいということも予想外だったけれど、更に予想外だったのは突き出してきたのは握りこぶしじゃなくて、掌…つまり掌打だったこと。

 確かに、手を握っていては叩きつけた衝撃でマニピュレーターが潰れてしまうかもしれない。けれど、掌打であれば叩きつけた衝撃は腕の装甲で支えきれる。

 けど、打撃であることには変わりない。コックピットへ直接攻撃を受けなければどうにでもなる!

 直感で、その掌打は左腕で受ける事にした。そのまま右手のナイフを頭へと突き刺すことができればディオの機装を半壊させることができると思ったからだ。

 その直感にしたがって、私は左腕を持ち上げた…その時、


『玲ダメさ!避けるさね!』

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