05

 ユンファの返事を待たずに玲へと号令を飛ばす。ペアを組むようになってから2年余り。玲本人の経験はまだまだ未熟といえるレベルだが、俺とのコンビネーションは流石になれたものだ。

 俺の突入のタイミングにあわせ相手の脚部を狙っての一撃。防ぎづらいが避けやすい脚部への攻撃を行えばそこに生じるのは大抵、回避運動だ。

 そのタイミングで俺が切り込むのが基本パターンだが、


『また突っ込むだけじゃ同じことの繰り返しだぞ!』


 ウィルの言う通り、ただ突っ込んで切り結ぶだけでは先ほどと変わらず、相手の速度に押されてしまうのは目に見えている。

 だからこその、


「アンブッシュアーマーパージ!」


 ぐっと膝を曲げたい状態で加速していた【伏虎】が突如ボン!という破裂音と共に煙に包まれる。

 ガンガンと重量感のある金属音が響き渡った次の瞬間には、その煙の奥から機装が一機、文字通り跳躍してきた。

 黄色と黒の細身のシルエット。

 右手には大降りの高周波ブレードを携え、左腕は肩口から切り落とされている。

 それは紛れも無く、【伏虎】だ。

 特徴とも言えた茶色の装甲は全て排除されており、ほぼむき出しになった機体には申し訳程度に黒の装甲が配置され、黄色の機体にコントラストを与えている。

 【伏虎】の行った跳躍はまさに人の跳躍のそれと同様で、緩やかな放物線を描き青の機装へと踊りかかる!

 機装はそれなりに重量のある物だ。故に人型を取っていたとしても取れない行動というものがある。大きな跳躍もその一つだ。

 サイドステップ程度の跳躍であればよほどの重量級でなければ問題なく行えるが、今【伏虎】が行ったような、まさに跳躍と呼べる程の長距離は機体重量の問題で行えないというのが一般的だ。

 つまり、跳躍により上から切りつけられるという経験が一般的には無いということ。

 それはAIとっては


「わからんだろうな!」


 自分が分からないことに対して、人は何も考えなくとも咄嗟に行動を行う事ができる。人によっては回避しようとしたり、迎撃しようとしたりと色々だろうが、今自分が出来ることに対してあたりをつけ、必要な選択肢を極力少なくしてから選択に移る。

 無意識のうちにそのような取捨選択をすることが出来るのが人の強みだ。

 一方のAIはどうだろうか。うちのサクラもそうだが、現在の状況に対し、無限の選択肢を与えてしまう。一度経験しているものであれば対応ルーチンとして確立させ、すばやく選択を行う事が出来るだろうが、しかしこのように経験をしていない場合はそうはいかない。

 全ての選択肢、そう、たとえば攻撃を受けるべきか、受けざるべきか、そんな、人であれば選択肢として上げるわけが無い行動パターンですら選択肢として候補に上げてしまう。

 たとえそれが一瞬のうちに演算されることだとしても、その一瞬の間というのが戦場において致命的な隙を発生させる事もある。

 それがつまり、


「こういうことになる!」


 自分を守ろうとするように上げた相手の左腕へ、跳躍共に振り上げた高周波ブレードを叩き込む!

 肘の部分へと着弾したブレードはスパッと肘から先を切り飛ばした。

 ザザーッと土煙を上げながら着地。アーマーがなくなったことにより可動範囲が大きく広がった膝をぐっとまげて衝撃を緩和させる。

 それに伴いモニターの左下、機体ダメージを現すアイコンの脚部が黄色く点灯した。


『クロイツ様。先ほどの跳躍で脚部への過負荷が認められます。損傷率27%。機動制御に支障なしと判断します』

『カズ兄!やっぱり【猛虎】スタイルは機体への負荷が高すぎるさ!』


 サクラとユンファからの報告を受けながら、


(やっぱキツイか)


 と、この機装について思い起こす。

 ビゼン製陸戦機装【伏虎】。

 本来の名前はビゼン製陸戦機装【猛虎】。

 本来のこの機装はアーマーをつけてない軽量機として開発されたものだ。

 重力制御装置の小型化に成功し、機動性が飛躍的に向上したキサラギインダストリィ製の機装に対抗するための案として、各装甲、耐久性を極限まで削り高い機動性を確保することを目的とした機装だ。装甲を極限まで減らし、可動部を可能な限り広げたことで自由な挙動を取らせることが可能になり、近接戦闘での戦闘力を飛躍的に向上させることが出来る、といわれていた。

 だがしかし、その突出した機動性の代償として、あまりの耐久性の無さに各関節部が実際の戦闘に耐えることが出来なかった。

 故にロールアウト直前に改修を加え、重装備機装としてロールアウトしたらしい。

 こいつはその時の改修で根本からの改修ではなく外部アーマーの装着で逃げた稀有な機体のようだ。

 実際に【猛虎】モードで戦闘を行うのは初めてだが、この柔軟性は機装とは思えないほどやわらかく扱いやすいが、しかし噂どおりの脆さだ。

 機体を慣性に任せて流しながらブレードローラーによる超信地旋回で振り返るが、その間も脚部へのダメージ表示は点灯しっぱなしだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る