04
『カズマ、ダメ、当たらない』
普段であれば初撃、万が一外したとしても二撃目程度で撃破しているはずだというのに、いつまで経っても撃墜どころか掠りさえもできない相手に焦っているのだろう。
インカムから聞こえてくる声は珍しく苛立ちを含む音色をしていた。
玲の射撃の腕は決して悪くは無い。ただでさえ足場が安定しない上空から、大口径のライフルにて狙撃を行うのだ、悪いはずは無い。
だがしかし、やはり経験の浅さはこういったときに顕著に出る。玲の射撃のタイミングや癖などは既に相手に読まれてしまっていると見ていい。
「玲、これから前に出る。援護、頼むぞ」
『わかった』
こういった状況におかれた時、まずは落ち着くことが最重要だ。しかし今ひとつ経験の浅い玲では自ら行動を考えつつ冷静さを保つ事は難しいだろう。
だからあえてこちらから選択肢を狭めてやる。
俺が前に出ると宣言すれば玲は俺への誤射を避けるために積極的な攻撃には移れなくなる。逆を言えば一旦落ち着くだけの余裕が取れるということだ。
正直言えば俺としても少し様子を見ておきたい所ではあるのだが、状況がそれを許してはくれなさそうだ。
こちらが相手に向かって加速したのを確認すれば、相手も同じくこちらへ加速。
加速の初動は重力制御に負けていないブレードローラー式だが、相手の重力制御装置もかなりの出力を持っているようで、負けず劣らずの加速力を見せた。
「ぐっ!」
急激に掛かるGに胸を押され一瞬肺の空気が押し出される。本来急加速にはこうした肉体への負荷が掛かるのだが、これが無いというのがどれだけのメリットになっているというのか。
瞬時に交差するお互いの機装。相手が振りかぶったブレードを切り払うと先ほどと同じようにお互いが離れていく軌道を描く。そしてまたもや青の機装はその軌道に急制動をかけ、さらに此方のサイドへと回り込むよう動きを加えた。
早くも先ほど切り上げによって打ち払った防御を可能性の一つとして考慮したようだ。
このまま走り抜けてしまうのも一つの手ではあるが、そうした場合戦闘がどんどんと長引いてしまう可能性が高い。
戦闘が長引くということはそれだけ相手に経験値をつませてしまうということにつながり、更にはこちらは生身の人間だ。コンバットハイによる集中力の持続にも限界がある。
できる限り迅速に撃破してしまう必要性があるのだ。
「なめるなよ!」
サイドからの斬撃に対しその場で急回転。ギャリッ!と乾いた砂をかみ締めてブレードローラーが左右逆方向へと周り相手の横移動に何とか追いつく。
ギイィィィィン!
お互いの刃がお互いの刃を切り崩そうとする鬩ぎ合いの音を響かせながら相手の刃を防ぎきり、しかし相手の攻撃はまだ終わらない。
青の機装は更に速度をあげ此方の側面を切り刻もうと高速機動に磨きをかけてきた。
兎も角相手の機動制御は常人のそれを逸脱している速度を維持している。
ブレードローラーによる超信地旋回を活用した旋回を行っているにも関わらず、外円を回っている相手についていけなくなりつつある。
くるくると、まるで手をつなぎ踊るように青と茶色の機装がその場でステップをふみならず。
右に、右に、右に、右に。時折左を織り交ぜて、回る回る、機装が回る。
舞い上がる粉塵が二機の機装を隠してゆきながら、回る回る、機装が回る。
しかしその演舞も終焉を迎える。
時が経てば経つ程加速していく重力制御が一定以上の速度を限界に速度を上げられないブレードローラーを突き放していく形で、徐々にリズムが狂い始める。
つなぎあっていた手はゆっくりと離れていき、ついには内側の茶色が伸ばした手を、青色がするりとすり抜けた。
「ぐあっ!」
『カズマ!』
玲の叫びと共に、最初は左側からガンッ!という衝撃が来た。続いて襲ってきたのはふわりとした浮遊感。そして最後に、機装全体を揺さぶる衝撃がコックピットに訪れた。
ズシャァァと大きな音を立てているところを見ると地に伏せているらしい。
【伏虎】が地に伏せるとは洒落が聞いているじゃないか。
「損傷…くそっ、左腕もって行かれたか」
どうやら高速回転中に左腕を欠落したため、バランスを崩し回転したまま倒れこんだようだ。幸いだったのはこの転倒によって相手との距離が取れたことだろう。
モニタにはブレードを振り上げた姿の青の機装が目に付いた。
転倒によるダメージは皆無のようで、完全に片腕を奪われただけのようだ。
ガウゥゥン!
ダウンしてしまっている此方のカバーとしてか、玲が援護射撃を行ってくれているが、俺の目から見ても狙いは定まっていないようだ。
俺が前に出ることで彼女の焦りを緩和する予定だったというのに、ざまぁ無いな。
『クロイツ!ちゃんと成仏したか!?』
「勝手に殺すな。左腕は持っていかれたがまだ動ける」
派手に転倒した所為かきつく締め付けられたベルトで胸部が軽く痣になってそうだが、特に俺自身へのダメージは無い。こういったとき機装のありがたみを感じる。
『おいディオてめぇ、ウチの予備の武器貸してやっから援護くらいしやがれ』
『無茶言わないでくださいよ。戦闘用じゃないって言ってるじゃないですか』
玲が時間を稼いでいる間に【伏虎】を起き上がらせ、各部機器のチェックをさくっと行う。モニタの左下、機体の損傷具合を表示した簡易アイコンでは左腕部が真っ赤に塗りつぶされているが、他はすべて青。特にこれといった損傷は見られないようだ。
これならアレが使えるか?
「騒いだところでどうにかなるわけでもないんだ、少し落ち着け。万策尽きたわけじゃない、焦る必要は無いさ。サクラ、悪いけど【伏虎】の機体ダメージモニタリング頼む」
『了解いたしました。現在【伏虎】の損傷率33%。左腕部のダメージ甚大ですが、その他損傷軽微。行動に支障はないと判断します』
『まさか…カズ兄アレ使うつもりなのさ!?流石にリスクが高すぎるさ!』
流石、【伏虎】のメンテナンスをほぼ一任しているだけはある。サクラに頼んだ事だけでこれから俺がやろうとしていることを察したようだ。
「時間内にかたを付ければ問題ない。玲、合わせろ!」
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