03
『カズ兄!あの機装何かおかしい!』
「あぁ、あれで正常だったら俺の中の人間という常識が崩れるところだ」
ユンファの言葉にうなづきながら、俺は相手の機装と距離を取る。こちらも近距離戦闘主体ではあるが、あの常軌を逸脱した機動を取り続けられると対応出来ない正直対応しきれなくなるだろう。一旦距離を置き、様子を見たい。
『カズ兄の常識とかどうでもいいさ。それよりもあの機装、あまりにも細すぎるさね』
『あぁん?どう言うことだ?』
細すぎる、というその言葉に俺と同じく疑問を抱いたらしいウィルが不機嫌そうな声を上げて問い詰める。どうもユンファが着てからというもの機嫌が悪いことが多くなった気がする。まぁ、理由は察しているのだけれど。
『機装の胴体部は動力部なんかがあるのと、パイロットが搭乗する関係上どうしてもある程度の大きさが必要になるのさ。でもあの機装は細すぎる』
そこまで言われて、漸く俺もあの機装の不自然さに気づく事が出来た。
『そうか?普通の機装と大してかわんねぇと思うぜ?』
ウィルの否定。確かに相手の機装のサイズはそれほど細いようには見えない。が、ウィルの見立ては確かに間違いなのだ。一点、重要なポイントを見逃している。
『バカアフロ。良く見るさ。相手は重力制御方式による機動制御を行ってるさね。ということはどこかに重力制御装置が搭載されているはずなんだけど…【空牙】の羽根や【蛟】の尻尾みたいにそれらしい物は見当たらない』
『そういや確かにねぇなぁ』
恐らくユンファと一緒になってモニタ上に映し出されている青の機装をまじまじと見つめているのだろう。やっと気づいた、といわんばかりの返答が帰ってくる。
『【空牙】や【蛟】が重力制御装置を外に出しているのもちゃんとした理由があって、さっき言ったとおり、動力部やコックピットに加えて重力制御装置も胴体部に搭載してしまうとかなりの大きさになっちゃうのさね。だからあえて外出しにしてる。いくら小型化が進んでいるとはいえ、重力制御装置はまだ大きいものなのさ。だからたぶん機体の胴体部に格納されているタイプなんだけど…』
あの機体サイズではそのスペースが確保できないということだろう。
思い起こせばディオの乗っていたあの赤い機装も重力制御だったが、外出しの様子は無かった。偵察機とは思えないようなずんぐりむっくりな体格は内部に重力制御装置を搭載している故だったという事か。
距離をつめる隙をうかがっているのか、旋回運動を行いながら玲からの射撃を的確に回避している相手の機動性を考えればかなり高出力の重力制御装置を搭載しているはずだ。
ヘタをすれば空戦用機装と同等レベルのものを搭載していてもおかしくない。
『っつーことはだ、あれか?超小型化に成功した重力制御装置を積んだスーパー最新鋭機が目の前にのこのこと一機で来たって事か?じゃなきゃ古いアニメのポケットだ』
アニメがどうのは良く分からないが、重力制御装置の更なる小型化成功の話は聞こえてこないし、仮に成功していたとしてもそんなものを俺達にぶつけてくる理由が分からない。となれば、残りの選択肢はそれほど多くないだろう。
「いや他にも可能性はあるだろう」
つまりは、
『コックピットが無い』
動力部の排除はどうあがいても不可能。そして現状重力制御装置の超小型化の可能性は低いとなれば残るのは玲の言うとおり、人の居住空間が存在しないことだ。
『はぁ?無人機だっつーのか?そっちの方がありえねぇだろ!?』
「いや、それならあの急激な停止、加速も理解できる。生身の負担が無ければ機体の負荷だけを考えればいいからな」
『つっても、んな技術が…あー、いや、相手がキサラギならありえなくもねぇな。アレを実用レベルまで完成されりゃ可能か。となると…クロイツ、ありゃめんどくせぇぞ』
「面倒なのは既に体験済みだ。あの機動は厄介だ」
生身の人間を考慮しない機動というのがあれほど厄介なものだとは思わなかった。
いくら機装の自動化が進んでいるとはいえ、やはり戦場で頼りになるのは自分の経験だ。特に近接戦闘になると一瞬の判断の遅れが死に繋がる事も多く、考えるより動け、に近い形で動かしている事が多い。
その経験を一切合財ぶち壊された思いだ。
ガウゥゥン!
既に戦闘が始まってから何度目になるか分からない射撃音が響き渡るが、玲の【水破】が青の機装を捉えることは一向に無い。
いくら対機装向けではないとしてもこの回避率は異常だ。まるで玲の癖を読みきっているかのような回避行為。
『そうじゃねぇよ。いいか?仮にキサラギの無人機だととしたらだ、間違いなくアレ…【プロジェクトMMM】の遺産、
【プロジェクトMMM】の言葉を聞くたびに苦い思いがこみ上げて、ぎり、と歯を食いしばってしまう。
『ウチのサクラもあれを基礎にしてっけど、あれの特徴は文字通りの自己学習だ。仕込まれたルーチンで動くだけじゃねぇ。自分が記録したデータ、言うなりゃ記憶だな、それから自分の中で最適なルーチンを自己生成し行動パターンを無限に増やしていける。しかも人間様よりも記憶力が良いときたもんだ』
AIに関しては門外漢だったが、彼女達がD.F.C.Sを開発する際にAIを開発していた事は把握していた。恐らくそれの発展系なのだろう。
『何でそんな便利なのが今まで表に出てこなかったのさ』
『それが完璧っつーわけでもねぇんだよ。自分でルーチンを生成できるっつっても結局はルーチンで動いてんだ。だから咄嗟の判断ってのがどうしても苦手なんだわ。。後はあれだ、結局のところ1と0でできてっからな、外部からのクラックに弱い。中に潜られちまうと暴走しちまう可能性もある』
クラック技術とそれに対する防御技術は日進月歩のいたちごっこだ。プロテクトはもはや突破されてしまうものと考えた方が良い。
完全にスタンドアローンとして運用する分には問題が無いのだろうが、そうなると逆に無人機への指示を出すことが出来なくなる。どちらにせよ問題があるということか。
『それに、例の暴走事故、アレに使われてたのは恐らくSelAだ。元々はD.F.C.S開発で必要だった脳シミュレータの副産物だから、開発者は俺とユキになるんだが、基礎を開発した段階で止めてたわけ。それを強引に開発を進めた結果があの暴走だと考えると、おいそれと表に出すわけにゃいかねぇだろ』
雪華とウィルという天才二人が作り上げたAI。生半可な技術者では2年前のあの日のように暴走を起こしてしまいかねない。今のキサラギはそれを引き継いで完成させるだけの技術者がいるということか?
『まぁそうは言っても一度覚えたモノに対する対応力はダンチだぜ』
『じゃあもしかして玲の攻撃が当たらないのもその所為なのさ?』
『多分そうだろうな。どこかで【水破】の情報を学習したか…じゃなかったら直接玲とやりあった経験があるか、ってところじゃね?』
ウィルの言葉に思い起こされるのは、今回の件の発端となったあの出来事だ。
「そうか…あの【蛟】」
そう思い当たった瞬間、あの時感じていた違和感の正体に気づく事が出来た。
「あの動き、模範的ともいえる程にベターな動きをしていた。教科書通りは新兵の特徴なんだが、新兵特有の動揺した動きは見られなかった。あの時から既にAIのフォローが入っていたって事か」
『チッ…最初から最後まで全部仕込まれてたんじゃねぇか。フウの野郎、マジでやってくれやがったな。あの野郎が今更俺らを狙ってくる理由はわかんねぇけど、まずはこの状況をどうにかしねぇとだな。クロイツ、マジどうにかしろ』
「言われなくても分かってる」
ウィルの言う通りSelAが使われているとすれば、既に何度も体験している玲の射撃はあまり当てにならないということだろう。もう少し柔軟な動きが玲にも出来れば話は別だが、彼女とてまた経験は浅い。
(本来経験ってのはそうやって時間をかけて得るものなんだけどな)
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