02
モニタ上部でキラリと光ったのは玲が銃口を構えたからだろうか。
彼女の持つ【水破】は機装相手には少々扱いづらい武器だが、玲の腕であれば高機動タイプの機装であろうとも問題なく打ち抜けるだろう。事実、先日の戦闘ではキサラギの最新機装である【蛟】を見事二発でしとめている。
ガウゥン!
という【水破】特有の重厚な銃声とともに、正面の青の機装へと音速を超える銃弾が飛来し破壊の二文字をおいてくる…はずだったが。
「避けるか」
着弾の瞬間、拡大表示していた機装が瞬間的な横移動で危なげも無く回避していた。銃弾の速度は音速を超える。相手の発射を確認してからの回避ではどうあがいても避けることは出来ない。猪突猛進にこちらに向かってきているように見えて、しっかりとこちらの戦力と動向を把握しているようだ。
玲の【水破】は大口径の狙撃ライフルであり、一番の利点は相手の知覚外からの狙撃を行えることだ。特に上空からの射撃は回避が難しいため、玲の一撃ですべてが終わる事も珍しくない。が、狙撃ライフルであるが故の欠点もある。取り回しが悪く近距離戦闘では無力という事。故に先制打を外してしまった場合、足手まといになる可能性が高い。玲もそのことは十分承知しているようで、ガション、というリロードの音とともに通信が入る。
『カズマ、兵装変える?』
「そうだな…いや、そのままでいい。援護で狙撃してくれ」
『わかった』
玲に指示を出した直後、俺も【伏虎】を稼動させる。既に相手にとっても射程圏内。マシンガンの掃射をシールドで受けつつ相手に向けて【伏虎】を走らせる。先の【蛟】が携帯していたような小口径のマシンガンであれば【伏虎】の装甲であれば直線的に突っ込むことが出来たのだが、今回の相手はしっかりと対重機装を考慮した物を持ち出しているようだ。時折シールドで防ぎきれなかった銃弾が装甲に着弾し、ガン!という衝撃をコックピット内に響かせる。幸い装甲を貫通してはいないようだが、機体への被弾が続ければ流石の【伏虎】といえど長くは持つまい。
相手を中心に円を描くように機動を取る。相手が射撃主体の機装であればこの状態を打破するためには少々強引に中に切り込んでいく必要があるのだが、それは1対1であったときの話。今回は上空に玲が待機しているのだから、切り込みの基点を自ら作り出す必要は無い。
ガウゥン!
上空から二発目の銃声が響く。今回も危なげも無く回避してみせる相手だが、しかしここで一つの動きを見せた。旋回中の俺に向けて距離をつめてきたのだ。
射撃と近接のコンビネーションとして一般的なのは射撃による牽制と足止めから、近接機が強襲し一撃、そして離脱。近接格闘機のヒットアンドアウェイに合わせる形で射撃機がフォローするのがベターだ。近接武器の範囲内に長く居座ると射撃機からの誤射の可能性があるというのもヒットアンドアウェイを取る理由の一つだ。
相手はそれと逆のことを行おうとしていると見る。
つまり、
「格闘戦に持ち込んでタイマンにするつもりか?上等だ!」
相手に合わせるようにこちらも加速。お互いに距離をつめようと動けばその間は一瞬で埋まり、それぞれが持つブレードの範囲内へと。
先に動いたのは俺だ。
コンパクトに振りかぶった垂直の唐竹割り。狙いは相手の右肩の関節部。
いくら高周波ブレードといえど装甲面に対し斬撃を加えても大きなダメージは望めない。 出来る限り装甲の薄い関節部を狙うのがセオリーだ。
とはいえ、高速移動している相手の関節部を正確に狙うのは近接武器といえども難しい。 だからこその、
「挨拶代わりだ!」
牽制も兼ねた一振りはコンパクトに。
当たるならそれに越したことはないが、当たらないなら当たらないでかまわない。それを見越した上での先制打だ。踏み込んだ一撃に比べれば格段に威力は劣るが、相手の突撃に合わせたカウンター気味になるタイミング。相手の持つ運動エネルギーも加わりそれなりの威力になるはずだ。
予想される対応は二種。
相手も所持しているブレードではじく、若しくは受ける。
もう一つは横跳躍によって範囲外へと退避する。
ブレードにて対応されればそれはそれで良し。突撃の速度が乗った一撃を打たせなかった分牽制に大きな効果があったといえる。
回避された場合もそれはそれでよし。相手の目論見しとしては恐らく近接戦闘に持ち込む事で上空からの援護射撃を無力化させることにあるのだろう。離脱をするということはそれを覆さざるを得ないということだ。
どちらに転んでも問題はない…はずだった。
「そうくるかっ!」
正面、青の機装が一つの動きを得る。
左足を軸とした右回りの高速回転。振り下ろしたブレードを変則的なスウェイバックで避けていく。そしてその上で相手が右手にもつブレードが回転する力をその先端にためていく。完全に背を向けた形になる青の機装。細身の体を回すスピンは続き、そして迎えるのは速度の乗った左からのなぎ払い。やや上めに見える軌道は恐らく首を狙ったものだろうか。
「だがそれは!」
牽制のためと踏み込みが浅かった事が逆に仇となってしまった。深く踏み込んでいればそこから一歩踏み出せばお互いにすれ違うようにして刃の範囲外へとすり抜けられただろう。踏み出した右足が浅く、さらに左足を踏み出しても範囲外へと抜けることは難しい。
故にあえて逆に動く。
踏み出した右足を高速後退。こちらも対抗するように左足を軸とした右回転を行う。回転に合わせ振り下ろした刃を逆袈裟に振り上げる!
ギィイイイイイン
高周波ブレード同士の接触による鈍い音を立てながら、青の機装が放つ一撃とこちらの切り替えしが接触、瞬時に離脱。
「やるな」
青の機装は突っ込んできた勢いそのままに自分から見て右側へと流れていく。ある程度勢いがついた状態で急激なターンを行う事は難しい。機械的に難しいということもあるのだが、何よりパイロットへの負担が大きい事が一番の問題だ。こちらも相手の右手側へと流れていくように進んでいるが故に、一度仕切りなおしになるだろう。
相手の対応にはいささか驚きを隠せなかったが、結果としては密着しようとしていたと思われる相手の動きを潰すことに成功したと見ていいだろう。距離をとった後にお互いにターンし、同じように切り結ぶ展開になりそうだ。
もちろん、接触のタイミング以外は玲からの援護射撃が入る分、俺の方が確実に有利になる。先の接触で相手の力量もある程度は知れた。腕利きではあるが、1対2を覆すほどの圧倒的力量を持っているわけではなさそうだ。
右方向への回転を伴った切り上げを行ったため、その勢いを殺さず離れていく青の機装へと視線を向け、そして予想外の動きを目の当たりにした。
後方へと流れていくはずであった青の機装がその勢いをぴたりと止めそのまま切り返してきたのだ!
「んなっ!?」
なぎ払いを打ち払った切り上げは緊急時だったが故にモーションが大きく、相手の切り替えしに間に合わないっ!
『カズマっ!』
ブレードを振りかぶっていた青の機装に向け、上空の玲から援護射撃が届く。こちらを切り払うために―信じられない事だが―後方に流れているはずだった機体を強引に引きとめ、さらに機体のベクトルは前へと進んでいた相手にとってその一撃は完璧なタイミングに食らったカウンターになったはず。そのタイミングでの回避行為はどう考えてもパイロットへの加重がきつ過ぎる。
が、それは回避してみせた。
前方へと加速していたはずの機体をまたもやぴたりと止め、さらには即座に後方へのバックステップを踏んで見せたのだ。
「ど、どういうタフネスしてるんだ?」
高速で移動する機装を急激に停止させるということはつまり、高速で移動している最中に何かに衝突するのと同じ衝撃がパイロットに掛かっているはずだ。
その緊急停止を一度だけでも信じられないというのに、二度、同じように停止して見せた。もはや機装の操作技術云々よりもパイロット本人のタフネスに唖然としてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます