死神

01

『相対距離5000。接敵まで3分と判断します』


 サクラからの報告を受け接敵までの時間を試算。あまり時間はないが接敵までに思考をめぐらせる。ディオの言う鈴だが、発信機の類と予想がつく。自分達が使う機装の整備については基本的にユンファに任せているので、彼女が発信機を取り付けたのでないとすれば、可能性は多くない。


「サクラ、停止勧告に対しての返答は?」

『一切無しと判断します。既に戦闘態勢に入ってるようです。話し合いによる解決は不可能と判断します』

『やるき満々どころか、向こうとしては既に始まってるって感じかねぇ?』

『今更で申し訳ありませんが、桜花のシステムをステルス航行モードからバトルシップモードに切り替えましたところ、クロイツ様の機装から特定周波数帯に用途不明の微弱な通信を検知いたしました。ステルス航行モードのパッシブセンサーでは検知できなかった物と判断します』

「それが鈴って事か」

『ったく、めんどくせぇもん付けられやがって。つか、どこで付けられたってんだよ』

『カズ兄の機装はこの間あたしがメンテナンスしたけど、外部に付けられた程度ならその時に分かるさ。だから多分内部…何かパーツに偽装して…あっ』

「キサラギか」


 おそらく、風華から提供されたパーツの中に発信機の類が組み込まれていたのだろう。クライアント側が前報酬の代わりとして各種機装のパーツや武器類を提供することは別段珍しいことではないため、気が抜けていた…ということか。ディオの言うことも尤もだ。


『ちっ、やっぱフウの野郎は油断できねぇな!クロイツ、これどうすんだ?クライアントに完全に裏切られてんぞ?』

「スタコラサッサと逃げ出したいところだけどな…この距離じゃ【空牙】と【伏虎】を回収してる時間が無い。やるしかないだろう」


 仮に【桜花】に帰投せずに撤退したとしても、例の鈴が存在している限りどこまでも追いかけられるだけだろう。後顧の憂いは絶っておく。


『それじゃ教官、僕は後ろに下がってますから頑張って』

『あぁ?ディオてめぇ、てめぇが呼び寄せたようなもんじゃねぇか。ちったぁ手伝え』


 と無茶な要求をさらっとしてのけるウィル。普段弄られ役な事が多いからか、ここぞとばかりにディオを弄り始めたらしい。


『ちょっと言いがかりはやめてくださいよ。それにこの機装、完全に偵察用で…ほら、丸腰状態なんですから。そんな機装が戦闘に参加なんて自殺行為ですってば』


 そういってお手上げ、といった風に両手を挙げるディオの機装を改めて見ると、確かにディオの言うとおり兵装らしきものは見当たらない。いくら偵察機とはいえ小型マシンガンの一つも持たないというのはそれはそれで不自然さを感じるが、今はそれを追求している時間は無い。


「ウィルその辺にしておけ。確かに丸腰でうろうろされても邪魔なだけだ。後退していてくれ。ただし、桜花には近寄るなよ。お前の手癖の悪さには懲りてるんだ」


 教官としてディオの教育担当をしていた際、良く研究用サーバなどにハッキングされ悪戯されていた事を思い出し、ちょっとした小言を付け加える。


『僕ってば信用無いなー。まぁ仕方ないか。じゃ、邪魔にならないように下がってるよ』


 インカム越しの声だけのはずだが、インカムの向こうでディオがやれやれといった風に肩をすくませている姿が目に浮かぶようだ。そんな他愛も無い思考と打ち切るように、上空に待機していた玲から通信が入る。


『カズマ、見えた』

「あぁ、こっちからも確認した」


 モニタの正面、拡大表示したそこには青の機装が一機映し出されている。既に片手にブレード、片手に中型のマシンガンと思わしき銃器を携えて戦闘態勢に入っているようだ。巻き上がる粉塵の量からして、ディオの偵察機と同じく重力制御による機動だからだろう。

 スラリとしたシルエットは高機動タイプと思われるが、しかしそのシルエットに該当する機装を思い浮かべることが出来ない。新型か?鈴の出所がキサラギだとすればおそらくあの機装もキサラギの手のものという事になる。確かに言われてみればキサラギっぽい感じがあるようなないような…ユンファに聞けばすぐ答えが出るだろうか。


『あのブレード…カズ兄のと同系統だね』

『っつーことはあれか、死神の正体はこいつだったってことか?』

「そう考えてよさそうだな」


 先のポイントを巡っている内に遭遇した奇妙な戦闘形跡。二種類あった形跡の内、パイルバンカーによる損傷を残した方が死神だと、俺達は考えていた。しかし、この状況を見るに、実はあの高周波ブレードによる損傷を残した痕跡の方が死神の痕跡だったのだろう。


『カズマ、先手は私がやる』

「任せた」

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