邂逅

01

 休憩を終えた一真達が、三つ目、四つ目とポイントを周り、五つ目に到着したところで先に感じていた一真の違和感がはっきりとした形を持って現れた。


『ここも…か』


 そう呟く一真が見つめるモニタに映し出されているのは、二つ目のポイントと同じ様に多くの残骸が散らばる戦場跡。


『五か所中三か所…か。こりゃーちょっとおかしな話だな』


 今までに一真達が回ったポイントは今回を含めて五か所。そのうち、最初と三か所目は恐らくパイルバンカーによる損傷と思われる機装が一機まるまる残っていた。

 一真達はこのパイルバンカーを用いているであろう機装を今回の騒動の主犯だと睨んでいる。故に、その痕跡が残されている事はなんら不思議ではない。その痕跡を追跡していたのだから。

 しかし奇妙な事に先の二か所目、四か所目、そして今居る五つ目と、計三か所が主犯と思われる機装の戦闘の痕跡では無い、別の痕跡が残されていた。

 勿論、ウィルの言う「外れ」が偶然立て続けで来ただけという可能性もある。

 が、それは、そのそれぞれが全く違った様子であった時の話だ。

 一真達が見てきたその痕跡は全て同じ特徴を持っていた。


『全部同じ…高周波ブレードの斬撃でやられてるさ』


 この場で【伏虎】が持ちあげた腕部の残骸もまた綺麗な切り口を見せていた。

 これが銃創であればまだ、大きな疑問になるわけでは無かった。

 現在の戦闘の主流は射撃戦。格闘戦を主体にしている機装乗りはそう多くは無い。また、機装メーカー側もそのつもりで兵器開発を行っている為、格闘戦武器の生産量は決して多くない。

 そんな格闘武器…しかも、ただでさえコストパフォーマンスが悪く、あまり好まれていない高周波ブレードによる損傷だ。

 五か所中一か所程度であればそんな偶然も有りうると思えた。だが、偶然は続けて起きないものだ。続けて起きたそれは、必然となる。


『おいクロイツ、こいつぁどーいう事だ?さっぱりわかんねぇぞ?』

『…俺も分からん』


 深く考えなければ、今回の件とは全く関係の無い何処かしらのヴァルチャーなりが珍しい事に高周波ブレードを用いて連続して何かを襲った、という事だろう。

 だがしかし、そこで問題になるのは、その何かを襲ったポイントだ。

 ウィルの情報収集能力は他のヴァルチャーさえも一目置く優秀な物だ。

 多少の外れはあるとしても、半分以上が無関係だったとは考えにくい。


『ウィル。今回の情報、信憑性は確かだったんだろうな?』

『当たり前だ。今回のは何時もみてぇな単なる雑魚ヴァルチャー相手じゃねぇってのは話を聞きゃ直ぐ分る。何時も以上に入念に情報の整理はしてあるぜ』


 一真とてウィルを信頼していない訳では無い。がしかし、ウィルの情報が適当だったと言う安直とも言える答えが欲しくなってしまう程に、彼も情報の整理が出来ていないのだ。


『私たち以外にも同じ依頼を受けた人が居る…?』


 風華の言葉を信じるならば、一真達が選ばれた理由は任務を遂行するに足りうる能力を持っていると判断されたからだ。同じように風華が認める能力を持つ者が居れば同じように依頼をしていたとしてもおかしくは無い。寧ろ、情報収集が目的であれば多方面に依頼を投げておくのが常識とも言える。

 だが、玲の建てたその仮説には疑問が残る。


『偵察ポイントで何度も争う必要性が無い』


 偵察対象となっている相手に遭遇したのであればやむを得なく戦闘になる事もあるだろう。その場合、どちらが勝ったとしても戦闘は一回のみのはずだ。

 一真達が探す偵察対象が勝った場合はその時点で終了。何があるわけでもなく、ただ機装がそのまま転がっている戦場跡が残るだけだ。逆に偵察に赴いていた側が勝った場合、依頼が完了するだけの話。仮にお互いに完全に撃破するに至らず撤退したとしても、やはり偵察側の依頼は完了するのだから、続けて戦闘を行う必要性は無いのだ。

 一真達の依頼内容と全く同じだとすれば、追加報酬の条件として相手機装の撃破が盛り込まれてはいるが、その追加報酬も目がくらむような大金というわけではない。

 寧ろ偵察の成功報酬に比べて格段に少ない。下手をすれば機装の修理費で飛んでしまいそうな程度だ。その程度の金額の為に何度も危険な戦闘を繰り返すなど、一般的な常識で考えればあり得ない事。


『別の依頼で偵察じゃぁなく、撃破を目標としてるっつー可能性も…あー、いや、それにしちゃぁ、おかしいか』


 ウィルの言う通り、仮に高周波ブレードを使っているグループが撃破を目的としていたとした場合、おかしな点が残る。高周波ブレードによって撃破されている数が多すぎるのだ。

 今回の依頼は正体の分からない相手の偵察。つまり、依頼主のキサラギ側でも正体が掴めていないと言う事になる。となれば、当然少数の部隊になるのが必然と言える。部隊の規模が大きくなればなるほど、隠すのは難しくなるものだ。

 では逆に、パイルバンカー側が撃破を目標としているグループだったとした場合、これもまたちぐはぐな点が出てきてしまう。

 先にもあった通り、敵機を見逃しているような痕跡があるからだ。撃破を目的とするならば見逃す必要性など一切ない。

 また、相手が一機のみであったと言う可能性も、同じような痕跡を残したポイントが他にもある事から消える。

 ポイントを巡り情報を集め、あわよくば直接接触して生の情報を頂いて終了の依頼のはずが、思わぬ不確定要素の存在に雲行きが怪しくなってきた。

 よくよく考えれば、キサラギ程の企業が内密に依頼をしてくる程のものなのだ、一筋縄ではいかない事は明らかだっただろう。

 各自がそれぞれ思考を巡らせる沈黙の中、おずおずとユンファが声を上げた。


『あのさカズ兄。あたし思うんだけどさ、これってそんな難しい話じゃなくて、単純に―』

『会話の途中で申し訳ありませんが緊急事態だと判断します。12時方向、距離2000に機装反応を検知。まっすぐにこちらに向かっていると判断します』


 ユンファの言葉を遮ったサクラの報告で一瞬にして緊張が駆け巡る。


『なっ、2000だぁ!?なんでもっと早く検知出来なかったんだ』

『…申し訳ありません、マスター。特定はできませんが、恐らく強力なジャミングによるものと判断します』


 【桜花】の策敵範囲はさほど広く無いが、それでも距離5000までは正確に策敵出来る程度の精度は備えている。サクラが戸惑うのも無理はない。


『停止勧告は?』

『既に発信済みです。相手からの応答無しと判断します』

『あちらさんやる気満々って事かい。クロイツ、どうするよ?』

『…少々面を食らったが、目的の相手の可能性もある。迎え撃つぞ。玲は対空迎撃に注意しつつ上空へ。【桜花】は後退しておけ』

『分かった』

『ほいよ』

『【桜花】は後退後、バトルシップモードに切り替えます。敵機との距離1500。目視圏内に入ります』


 普段はちぐはぐなメンバーだが、こういった時の連携は手慣れたもの。一真の指示の元、素早く各自が戦闘状態へと移行していく。

 初動が遅いのが重力制御の弱点なのだが、【桜花】はその船体サイズが幸いしてか、陸艇にしては迅速に後退してく。船体の横に取り付けられた申し訳程度の対機装用銃座にも火が入ったのか、6銃身のガトリングがウィィンと音を立てて1回転する。

 玲の駆る青の【空牙】も初期動作はゆっくりと、だが出力を確保したのちは高速で上空を維持した。

 一真の【伏虎】も小型のシールドを展開し臨戦態勢に入る。

 2機と1隻の正面にはうっすらと土煙りと思われるものが見え始めてきた。

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