02

『さっきとは全く別方向だなぁこりゃ』


 ウィルの集めた情報から絞っていたいくつかのポイントの二つ目は、ウィルの言葉通り先のポイントとは全く違っていた。

 大きな残骸こそないものの、排出された薬莢、欠けた装甲片、切り落とされたであろう脚部と頭部パーツ等など、多くの戦闘の痕跡が残されていた。


『凄い散らかってるさね。結構激しい戦闘だったって事?』

『いや、これくらいが普通…よりはまぁ、少しごっちゃしてっけど、普通っつー範囲に収めても問題はねぇな。さっきのポイントが異様過ぎただけだわ』


 ウィルの言う通り、戦闘後はこの程度の残骸は転がっていてしかるべきなのだ。

 そもそも機装という物はかなり高価な物だ。

 先の【蛟】の件しかり、無用な略奪行為は控えている一真達にしてみても戦利品として機装を入手している。ごく一般的な常識に当てはめて言えば、襲った側、襲われた側のどちらが勝利を収めたとしても機装一機がそのまま放置されているという事態が有り得ない話。


『一応集めた情報からポイントは絞ってっけど、今回は外れだったくせぇな』


 つまらなそうに呟くウィルの声からは早くも次のポイントに行こうぜ感が漂っている。

 【伏虎】のメインカメラを回し辺りを見渡すもとりわけ変わった風景が見られるわけでもないのは一真としても同意出来る。

 とはいえ、完全に外れだと決めつけるには流石に早すぎる。各種残骸へと手を伸ばしその詳細を確認していく。


『切断面は鋭利だな。千切れ飛んだ、というよりは断ち切ったと言った方がいいか』

『大分綺麗に切れてるね。関節部を狙って切ってはいるけど、いくら関節部とはいえ丸裸ってわけじゃないさ。これだけ綺麗に切れるとなると…カズ兄のブレードと同じ高周波ブレードだろうね』

『単なるヴァルチャーにしちゃいいもんもってんなぁ』


 ユンファの言う高周波ブレードはその名の通り刃が超高速で振動し、通常のブレードよりも高い威力を発揮するよう設計された武装だ。近接武器としては最も強力な武装であると言っても過言ではないが、その反面やはり欠点はある。

 一般的な合金では耐久力が足りないため、通常のブレードよりも格段に刃こぼれが早く壊れやすい。かと言って、特殊合金を用いればそれだけ価格は高くなる。

 どちらにせよ、近接武器にしてはコストパフォーマンスが悪いのだ。

 そもそも、加速力はあっても機動性は決して高く無かった旧世代の機装は銃撃の被弾率も高く、近接攻撃を行う必要性が無かった。そのため、それら近接武器の開発はあまり積極的に行われていなかった。

 重力制御による高機動性を確保した昨今、射撃の命中率も低下傾向にあり、格闘戦も見直されつつあるものの、やはり主体は射撃戦にある。

 格闘戦を主体とする一真としてはもどかしい話だが、近接武器の開発は二の次になっているのが現状だ。そのため近接武器そのもののコストも高いのだ。


『何も使ったのはヴァルチャーだと決まったわけじゃないだろ』


 綺麗に切り取られた脚部を投げ捨てながら、比較的大きな残骸の頭部へと手を伸ばす。

 こちらも脚部同様に鋭い刃で切り取られた形跡があった。


『首ちょんぱねぇ。クロイツクラスの使い手って事かね』

『こっちは…ビゼンの【孤狼】の二式…いや、三式、かな。足の方は流石に特定はできないけど、多分同じ【孤狼】シリーズのどれかさね』

『あらあら、クロイツの【伏虎】の弟分じゃねぇか。兄貴よりも出来がいい弟がこのありさまじゃぁ、こいつらをやった連中と鉢合わせしたら逃げ出すしかねぇな』

『機装の性能の差は戦力の差じゃないさ』


 ケタケタと笑い声を上げからかうウィルに僅かにあきれ顔をしながら答える。

 負け惜しみの様に聞こえる台詞ではあるが、最新式の【蛟】を手玉に取った一真だからこそ言える台詞でもある。

 また、事実としてここ数年の機装の性能はそこまで大きな差が出ているわけではない。

 重力制御による機動力向上は確かに大きな転機ではあったが、それも最新鋭の機装のみに適応される事象だ。重力制御装置の小型化はここ数年で漸く形になり、機装に搭載出来るサイズにはなったものの、性能に関してはまだまだ発展途上にある。今後、更に技術が発展してくればその性能差は大きくなるだろう事を予測するのは簡単ではあるが、現時点においては重力制御も、ブレードローラーも、そう大きな差は無い。

 勿論、それぞれの長所と短所は正反対とも言える為全く同じというわけではないが、短距離走が得意な者と長距離走が得意な者とでどちらが優れているのかを競うようなものだ。

 先の【疾風】が未だに現役で活躍出来ているのもこの辺の事情が関係していると言える。


『玲、何か気になる事はあるか?』

『…あまり』


 前のポイントで機装の残骸のみが転がっている違和感を突き止めたのはほかならぬ玲。

 今回のポイントについても何かしら気付く事があるかと問いかけてみたものの、玲としても特に気になるところは無い様だ。


『まぁ、単純に外れだったっつー事でいいんじゃね?あんま深読みしてもしゃーねーぞ』

『それもそうなんだが…』


 ウィルの言葉に同意する一真ではあるが、その胸中には何かもやもやとしたモノが深く根付いていた。

 それが一体なんなのか、当の本人でさえはっきりとしないものだったそれが解消されるのはもう暫く先のことになる。

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