04
「気にかけてくれるのは有難いね」
実際こうして声をかけてくるのは中々に有難いことだ。
別段寂しいと死んでしまう希少な人種と言うわけではないが、話し相手が無愛想な玲とアホなウィルしか居ないこの空間ではサクラとの会話は得がたいものだ。
『一昨日の晩、自室でクロイツ様が「陸装機兵イガイガー」のエロ本をハァハァいいながら閲覧していたのもしっかりと記録してありますのでご安心を』
気にかけてくれるのは有難い…が、そこまで四六時中見られていると思うと話は別だ。
あくまでAIではあるが、こうして話している間はどう見ても少女にしか見えない相手に全てが筒抜けになっているのは居心地も悪ければ心臓にも悪い。
「一昨日は俺の部屋には戻ってないんだが」
その辺は兎も角、一昨日は自室ではなく玲の部屋で過ごしたはずなのだが。
『少々お待ちを……失礼しました。同時刻に玲様とご一緒に部屋にいらっしゃるクロイツ様を確認しました。サクラやってしまいました、失敗失敗、てへ』
誰が教えたのか…多分ウィルだな、全くの無表情のまま、コツンと自分の頭を叩いて舌をペロッと出すサクラ。これがもう少し豊かな感情表現を行っていれば世のロリコン共は悶絶したのだろうが、言葉と姿がまるで一致しないために逆に不気味だ。
なんというか、頭を叩いたら反動で舌が出てしまいました、程度の話にすら見える。
『となると、あれは誰なのでしょうか。クロイツ様、心当たりはありませんか?』
「心当たりというか、ここにゃ俺と玲とバカの三人しかいないんだから、残ってるのはバカだけじゃないか?」
『マスターは確かにバカですが、サクラへの愛はアジア程度に広く日本海峡程度に深いと判断します。よって、もしエロ本をハァハァしながら閲覧していた人物がマスターであったと仮定した場合、エロ本の中身は「陸装機兵イガイガー」ではなく、「陸艇少女☆サクラちゃん」でなければなりません。したがって映像の主はマスターでないと判断します』
「いや…あのアフロはどう見ても見間違えないと思うぞ」
思わず苦笑してしまう程に思考が捻じ曲がっているのは流石ウィルが作ったAIといったところだろうか。というか、もしサクラの言うとおりだとしたら、ウィルは自分の娘に欲情した親父という立場になるわけだが…流石にそれは無いと思いたい。
『…サクラに搭載されている機能の一つ、「聞かなかったことに」が発動しました。直前までの会話データの一部を抹消します。―――何かいいましたかクロイツ様?』
「無駄なところが人間くさいぞサクラ…」
『より人間らしく成長すべし、とのマスターのお言葉を遂行できていると判断します。サクラがんばってます、サクラえらい』
「あぁ、そうだな、えらいえらい」
流石ウィルが作り上げたという人工知能なだけはある、非常に疲れる。半分聞き流しながら、立体映像の頭の部分をぐりぐりと撫でまわす仕草。
勿論、こちらにもあちらにも感触があるわけではないのだが、サクラは先程の無表情から一転し、頬を少し紅に染めながら、くすぐったそうに目を細めた。
「っ…!?」
まるで熱いものに触れてしまったかのような反射で、俺は思わず手を引いてしまった。
人が作り上げた造形であるが故に、サクラの顔立ちは非常に整っている。
だが、表情が無表情だからか、人形のような綺麗さはあるものの、人が持ちうる可愛らしさという部分は当然かけていた。
普段は感情を表に全く出さない、そんな少女が嬉しそうに目を細め表情をあらわにしたのだ、なでた側の性別など関係なく愛でたくなるのは当然だろう。
が、しかしそれがサクラであるなら話は別だ。
『こんな時の為にマスターより内密に頂いておいた、撫でられた時の為の表情プログラムを起動させてみました。いかがだったでしょうか?』
半ば混乱に陥っていた俺の思考を中断させるようにそう告げたサクラの表情は、いつもの無表情に戻っていた。
唐突に脳内に浮かんだウィルのニヤニヤした顔を全力でぶん殴りたくなった。
『ちなみに、告白された時に相手を傷つけない様綺麗に振る令嬢プログラムや、本当は渡したくて仕方ないのだけれども本音を知られるのが怖いので義理という名目をつけてチョコを強引に押し付ける幼馴染プログラム等も搭載しております』
淡々と話すサクラの声をBGMに、既に俺の脳内では複数の俺がウィルを四方八方からたこ殴りにしている映像が流れている。もはや原型を留めぬどころか、単なる肉団子になっているウィル。ざまぁみろ。
アイツとはもう一度じっくりと話し合う必要がありそうだ。
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