02
結果だけを見れば、先の襲撃は大成功に終わったと言える。
何せ、こちらの被害はほぼ皆無でありながら、キサラギインダストリィの最新機装を一機丸々、無傷で入手できたのだから。
【蛟】二機を撃破した段階でハリネズミ側から降伏のシンボルである白旗が揚げられた。
中々古風な事をしてくれるじゃんか、と喜んでいたのはウィルだけだが。
実際には、ウィルの話では積んでいるはずだったビゼン製の特注パーツはおろか、積荷は一切なく、更には護衛に当たっているはずのオンボロ機装が実は最新鋭の機装だったりと、とんでもないデマ情報だったのだが、ウィルではないが結果オーライだ。気にしない事にしよう。
鹵獲した機装は自分達が使うという選択肢もあったのだが、俺は【伏虎】が気に入っているし、玲は空戦機装がお気に入りの為そのまま売却という流れになった。
もっとも、正規ルートで売却などできるはずも無い。
廃都に店を構える懇意のパーツショップ兼整備屋に引き取ってもらった。
表向きはまともな店を装っているが、俺達のような「オウル」は勿論、一部のヴァルチャーからも内密にパーツやら機装やらを買い取っている。
まぁ、買取価格は正規品の相場に比べればそれなりに安く買い叩かれるのが大半だが。
流石に今回の【蛟】に関しては物が良すぎたか、思ったよりも高い値段で引き取ってもらえたのが幸いだ。
これでしばらく「オウル」としての活動資金はまかなえるだろう。
世界が荒廃してから二百年。
荒廃した世界には法規などという概念は存在しなく、秩序という理は身を潜めた。
荒れた大地では食料の生産など追いつくはずも無く、食物は絶対的に不足し、飢えに苦しむ者たちがあふれ出る。
劣悪な環境が衛生環境を最低ランクまで引き下げ、周囲に疫病が蔓延し、薬品を求める者たちがあふれ出る。
そうした中で、それらの奪い合いが始まるのは当然の結果と言えるだろう。
自らは一切の生産的行為を行わず、他者からの略奪のみを行う者たち。
いつしか彼らは、狩りを行わず屍骸に群がるだけの無法者たち、
だが時代は進み、近年になって所謂ヴァルチャーと呼ばれていた無法者とは少々毛色の違う無法者が現れるようになった。
彼らは矛先を力を持たぬ者たちから、奪い取る側であったヴァルチャーへと変えた者。
未だ無法者=略奪するだけのヴァルチャー、という認識が一般的であり彼らを区別する者は少ないが、誰がそう呼び始めたのか、彼らは自らの事をこう呼ぶ。
決して日の光を浴びる事の無い狩人達、
別段正義感であったりとか、勧善懲悪の意思であったりとか、そういった面倒な事を考えた上で、俺がオウルと名乗っているわけではない。
気に食わない奴をぶん殴ってきたらそれがオウルと呼ばれる者たちと同じ行為であったというだけの事だ。
確かに傍から見れば荒くれもの、無法者と言う意味で俺達もヴァルチャーも差は無いとはいえ、単純な略奪集団のヴァルチャーと一緒くたにされるのは俺としても気分が悪い。
と言う事で、あまり乗り気ではないが、俺も自分達の事をオウルと呼称している。
仕事…と言う程褒められたことをしているわけではないが、普段は主にヴァルチャーの掃討や略奪品の奪還等の依頼を受け、報酬を得る真っ当な事をやっているつもりだ。
だが、オウルという存在が世に広がり始めたのはつい最近の事。そういった依頼が来る事は正直少ない。
そういったときは、先刻の様に独自に仕入れた情報を元に、ヴァルチャーを襲撃し、彼らから略奪する。
対象が変わっただけで、やってる事はヴァルチャーと変わらないというのが実情なのだが、対象が対象だからか、街での風当たりは意外と良好なのは助かるところ。
特に、キサラギインダストリィのお膝元であり、機装関連の技術が集中している廃都での行動に制限が付いてしまっては機装乗りとしては痛烈な痛手となる。
二百年前は世界でも有数の大都市であり、国という概念が存在していた頃は首都ですらあったその場所は、世界を荒廃させる原因となった争いの直後、見るも無残な姿となっていたらしい。
地域を管轄していたお偉いさん方は早々に廃都を見捨て他の地へと移住していき、残ったのは古くから廃都を拠点としていたいくつかの企業と、一握りの技術者達だったそうだ。
彼らが当時としては新しい技術である【機装】を開発し、街の復興に尽力した結果、現在のような機装技術の最先端を行く都市として名を馳せる事となった。
ちなみに、古い時代にその場所は廃都とは呼ばれていなかったらしい。
廃都が復旧していく様を見た、廃都から逃げ出した元お偉いさん方が負け惜しみを込めて「廃れた都市=廃都」と呼び出した、という話もあるが信憑性は無い。
ともかく、そんな経歴があるからか、廃都での技術者達の影響力は大きい。
キサラギインダストリィの様な大企業であれば言わずもがなであるが、小さなパーツショップや整備工場であっても、その他の職種に比べれば影響力は雲泥の差だ。
そのお陰で、世間からは無法者と呼ばれるような俺達でも堂々と街中を歩けている。
あちらとしてみれば、俺達のように機装をボカスカ壊す連中は金蔓だからだろうが、こちらもそのお陰で助かっているのだからお互い様といったところか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます