第三章 綺麗事
「咲莉さん、スクールカウンセラーの先生に言っておいたから、休み時間に学習室来てね」
もうこの先生大っ嫌いだわ…。私が決めるっての!
ガラガラガラ。学習室の扉はあまり使われていないから立て付けが悪い。
「こんにちは。咲莉さんですか?」
「はい、そうです」
「お母さんがお亡くなりになったそうね」
「はい。病気だったそうです」
「咲莉さんは病気について聞かされていたの?」
「いいえ、昨日初めて知りました」
「そうなの。お母さんは、なんで言わなかったんだろう」
「お父さんは心配してほしくなかったからって言っていました」
「咲莉さんはどう思うの?」
心配してほしくなかったからなのかな。言ってたらどうだったんだろう。お母さんは…。
「えっと…その、分かんないです」
「お母さんは咲莉さんに辛い思いをしてほしくなかったんじゃないかな。もうすぐ死ぬって悲しいと思うよ」
思う、か。実際には分からないんだ。
…あんたに何がわかんの。綺麗事言うんじゃないよ…。信用ならないよ。
ガラガラガラ。
「ごめんなさい。先生の話は聞けません。ありがとうございました」
バタン!
…友樹くんは…どうなんだろう。
ーーー放課後。
「あのさ、友樹くん。聞いてくれる?」
「うん。何?」
「お母さん、病気だったみたい。でも私には言ってくれなかった。突然死ぬなんて悲しい。友樹くんは知らされてるけど、突然死ぬのと、知らされてるの。どっちが良かった?」
「…突然のほうが良かったな。毎日お父さんが明日死んだらどうしようって思いながら生きてる」
「…そっか。そうだね。そうだよね。ありがとう」
「うん」
前からだけど彼が言う言葉は綺麗事っぽくない。スッと聞ける。不思議な感覚だ。
「ねえ、咲莉、LINEやってる?」
「うん。それが?」
「連絡先交換しない?」
「いいよ」
家に帰ってすぐスマホを持って出かけた。
「あっ、咲莉!やっほー。スマホ持ってきた?」
「うん!」
彼のスマホに私のQRコードを読み込ませる。
「できたー」
「ありがとう」
早速うさぎの「よろしくお願いします」のスタンプを送った。
「咲莉っぽいスタンプだね」
「私っぽいって何?」
「あはは、確かに〜」
彼は「ニコッ」と微笑んでいるゆるキャラのスタンプを送った。
「え、このスタンプ超可愛い〜。女子力高っ。意外だわ〜」
「これは無料だったから…」
「うわっ、友樹くんらし〜」
「あはは」
「もう帰っていい?」
用はこれだけだったので家でお父さんのお手伝いをしたかった。
「…いいよ」
ちょっと残念そうに聞こえたのは気のせいかもしれない。
「うん、またね。またLINE送るねー」
「ばいばーい」
「ばいばーい」
私は彼に手を振りながら帰った。
「ただいまー」
お父さんの姿が見えない。どこだろう。ふと机の上に置かれたメモに気がついた。「6:00まで買い物といろいろ行ってきます。洗濯物取っておいてね」洗濯物…。洗濯物を取る作業はすぐ終わった。
ピロン♪
携帯がなった。「無事家に帰れた?僕は今晩ごはん中だよ」友樹くんからのLINEだ。にしても晩ごはん早いな。「晩ごはん早いね。帰れたよ」LINEを送った。
直接会えなくても彼が画面の向こうにいると思うと嬉しい気分になる。
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