第75話 相談




「でさぁー、5期生のアルネちゃんて子がサイカちゃんにライバル心むき出しなのっ。困っちゃうよね〜っ」


えまちゃんがやれやれと首を横に振った。


十分ほど前に私の家に来た彼女は、「聞いてよ〜」と言いクロノーツライブの新人、嶺花アルネさんというライバーさんの話をし始めた。


(うーむ、やっぱり大きい組織は大変だなぁ......私も前世で意味不明な因縁つけられて先輩に粘着されたことあったし。色んな人がいるもんだ)


「たしかに困っちゃいますね。負けず嫌いなのは良いことではありますが」


えまちゃんが来る前に来ていた蓮華もうんうんと同調する。


この子もつい最近まで会社勤めだったからその辺は痛いほど理解できるだろう。わかりみ深めで相槌を打っていた。


「まぁね。でも行き過ぎてる感があるんだよねっ、あの子」


「そーね。行き過ぎてるわ」


えまの横で赤髪ポニーテールの女の子が言う。腕を組み、無い胸を張り、ふんふんと鼻息を荒げている。


いや、誰やねんあなた!?なんかふつーにえまちゃんにくっついてきて、さも当然の如くあがりこんできたからフツーにお招きしちゃったじゃん!?


「あの、そろそろあなたが誰か教えて頂きたいのですが」


きょろきょろと周囲を見回す赤髪ちゃん。いやおめーだよ。


「いやあなたの事なんすけど......」


「むむっ、アタシの事かっ!?」


「他に誰がおるねん」


「確かにそうね、では自己紹介といきましょうか」


何この人すげえ独特!


「アタシの名は愛桜ナノマ!クロノーツライブ2期生よ!」


ふんす!とまたもや無い胸を張るナノマさん。てか、この人すげー雰囲気というか華があるな。


ツンと釣り上がっている気の強そうな眼。あつい唇、無い胸。キャラ立ってるなぁー。


「って、まて。クロノーツライブ2期生!?」


「あー!なんか声聴いたことあると思ったぁ!」


お手洗いから戻ってきた美心がそう言いながら両手を合わせた。可愛いは作れるというが......可愛さの錬金術師だったんかお前。


じゃねえ!こいつがあの伝説の......!!


「そんなに凄い人なんですか?私、VTuberにまだあんまり詳しくなくて......」


蓮華が聞くとえまちゃんが人差し指を立てた。


「ナノマ先輩は凄いですよ!チャンネル登録者数2490000人、VS視聴者ナリオカート耐久では全く勝てず泣きの6日連続配信、激辛ラーメン配信では初手噴き出し(咽て)配信ストップ放送事故(配信開始から3分で終了)、ホラゲ声を出したら即終了(いや声はだせよ!とマネからツッコミが入り終了)、死にゲーのブラックソウル配信では自分の下手くそさにガチ泣きしてナノマ慰め会耐久に強制変更(慰めるのに約1時間)......他にも色々、数え切れないほどの伝説を残してるっ!」


「え、えぇ......」


どやぁ!と鼻息を荒げるナノマさん。かっけえ。


「アタシはね、これからも伝説をつくるわ!今度ウモンガス人狼の大会を開くからあなた達も参加なさい!伝説をつくりましょう!」


「え、あたしもですか?」


美心が自分を指差す。するとナノマさんがニヤリと笑い頷く。


「勿論よ。リンネさん、あなたもきなさいな」


「!」


ナノマさんがまだ駆け出しのリンネを認知してる!?


「そして貴方もね。名無しの絵師」


「わ、私はVTuberではないが!?」


「だが、面白い。......あなたは伝説をつくれる器よ」


「いやぁ、それは流石に......VTuberの集まりにただの絵師が参加するなんて」


「ふふっ、アタシはあなたに可能性をみているの。参加なさい。どうしてもと言うのであればアタシのママとパパを紹介するわよ」


「!」


ママとパパを紹介って、あれか。私のVTuberモデルを作ってやるよと。自分で作るのが大変、もしくは嫌なら用意してあげるって言ってるのか。


「勿論、制作費はいただかない。どうかしら」


「......いや。私も一応絵師の端くれなんでね。やるなら自分で作る」


「良い心意気だこと。楽しみにしてるわね」


......あれ、なんかノセられた?


「って、だいぶ話がズレたな......アルネさん問題だったか」


「んー、ナノマさんから言ってもダメなの?仲良くしなさいっ!って」


「そうね。何度かマネージャーさんを通して言ってもらったけど効果は無いわね」


「直接は......?」


蓮華が聞くとえまちゃんが首を振る。


「それはねえ、あんまりしちゃいけないんだっ」


「なんで?」


「クロノーツライブのルールよ。後輩の子には必要時以外こちらからは接触禁止なの......彼女達が活動に慣れるまではね。ただし、活動についての質問等であの子達からこちらに接触するのはありよ」


「へえ。だから一方的に因縁つけられたのか」


「そーそーっ」


「なんとも生意気な後輩だこと」


「でもあれですよね。そういうのって地味に結構なストレスになりますよね......」


蓮華さんが悲しげな表情でいう。あー........いや、わかるよ。私もリーマン時代やられてたし。あいつ今どうしてんだろーな。


「ところで倫ちゃんっ」


「ん?」


「ここにサイカちゃんも呼んでいい?」




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