第69話 うはぁ、やべえわこれ!



「て、ていうかさ、その時点でキレてくれて良かったんだけど」


「一人コスプレ姿で怒り出したらヤバイ奴じゃん!しかもコミケ会場で空気悪くしたくないしさ!」


「ああ、ママ......これは完全にママが悪いかも」


「いや俺もそう思うよ」「あたしも」「約束は忘れたらあかん」「いちど破ってるしね」と、何故か外野にまで批判される私。いや、おまえらなんなん?


ぱん、と両手を叩く美心。


「ま、とにかくこれで決まりですね!」


「......な、なにが?」


何がとは聞いたものの、強烈な嫌な予感が私にそれを告げていた。美心のニヤケヅラとパパ秋葉のまるで罠にかけ倒れるLの体を抱きかかえる夜◯月のような顔。


今にも「僕の勝ちだ」とか言いそうな雰囲気が。


「次のコミケではコスプレですねえ、ママ!」


「いえーい!倫のコスプレいえーい!!」


ハイタッチをキメる娘とパパ。あれ、ふつー娘ってママの味方じゃ。あれ?育て方まちがえた?


「何のコスプレさせます?やっぱりパパの同人誌で描かれてる娘さんにしますか?」


「そーねえ、艦◯れだと倫に似合うのは誰だろーねえ」


キャッキャウフフと相談している二人。対極的に私は青ざめ刑の執行を待つ罪人。


「じょ、情状酌量の余地は......」


ぽん、と野次馬の女性が私の肩に手を掛けた。悲しげな表情で首を横にふる女性。勿論知り合いじゃない。え、なんなん?ノリよくねこいつら。


とはいえ、メイドあたりで留めていただきたいものだが。地味なやつ、地味なやつじゃないと嫌だ。だってこんな人の多い場所でやるんだろ?確実に視線で殺される。羞恥心がやばすぎる。


......でも口を挟める雰囲気じゃねえ。この周囲の外野がそれを再び止めに入るだろう。


くそ、こいつらに0.2秒の領域展開をぶち込んでやり......いや、普通に無量空処ぶち込んで廃人にしてやりてえ。


あ、いや冗談よ?ただ、ここ十分くらいの記憶が無くなれば良いとは思ってるけど。


「この子、雷ちゃんはどうですかパパ」


「いいですねえ。倫に似合いそう!」


「島風とかどうです!?」「雷いいねえー!」「電は!?」「え、じゃあ俺はねー」「私は......」「まてまて、島風にしよ?絶対にあうって!」「鹿島」「え、おまえらちゃんと考えて?このフェイスは響でしょ?」「あー」「頼むよ!後生だから睦月にしよーよ!」


やいのやいの盛り上がりだす外野。あの警備の方、そろそろ。


「わかりました、皆さん!この件、この場は持ち帰らせていただきます!後日、私、秋葉寝子ことF・ニャンニャンのPwitterにてアンケートを実施させていただきますので、よければそちらでぜひ投票なさってください!」


おま何言って......くそ、私が悪いから何もいえねえ!!つーか拍手起こってるけどなんの拍手なんだこいつら!他の来場者さんが何事かとこっちみてんじゃねえか!


しかし幸か不幸か、それをきに外野の方々は散っていった。「いやあ冬コミの楽しみができたわ」「たのしみー」「むしろそれが目的まである」「あの子可愛かったしな」等言っているのが聞こえてきたが、私は耳をふさぎ聞かなかった事にした。意味ねえけど。


「大丈夫、倫。ちゃんと選ぶ権利くらいはあげるから」


「ぐぬぬぬ」


「大丈夫だよ、ママ。ちゃんと衣装を可愛く作れる人探すから」


「ぐむむむ」


面白がりやがって。


「とはいえ......秋葉、あの時はホントに悪かった」


猫目をパチクリさせた秋葉。人差し指を頬にあて、視線が僅かに逸れる。


「いえもう気にしてませんよ。私もここまでウソついていたのも悪いしね......あ、でもコスプレはしてもらうけどねえ」


「それは勿論。ちゃんと秋葉の気の済むまでやってやるよ」


その言葉に目を輝かせる秋葉。そして娘もおおっ!と声をもらした。


「いやあ、男らしくてかっけーよママ!あたしそういう所も好きだよ〜!」


「そらどーも」


と、その時。閉会の時間が迫っている事に気がついた。


「秋葉、そろそろ片付けしよう」


「あいあい」


テキパキと片付けをする私と秋葉。幾度となくやりなれた作業をスムーズに淀みなくこなす。


「おー、さすがママとパパ......これが熟年夫婦のコンビネーションか」


「「おい」」


これまた黒い火花が弾けそうな位のツッコミが出た。


「あははは!すっごい息ぴったり!おもしろーい!!」


腹を抱えて笑う美心。なにわろてんねん。


「あ、そーいや秋葉打ち上げのお店予約した?」


「してあるよ。いつもの居酒屋だけども......って、あ!美心さん入れるかなぁ?ちょっと電話してみる」


「ごめん、ありがと」


「いえいえ〜......あ、もしもし」


こちらの意図をすぐさま察してくれる。確かにどことなく熟年の夫婦な感じがあるな。一緒にいるのも楽だし。


「な、なんだかすみません、予約しなおしさせてしまって」


「大丈夫。あ、てか聞く前にすまん。美心も打ち上げくるでしょ?」


「うん、行きたい!」


「――はい、はい......そうです。三名でよろしくお願いします」


秋葉がおっけーと私と美心に合図した。






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