第68話 リベンジキャット 【秋葉寝子 視点】




〜数年前〜




「ここが、コミケ会場......東京ビッグ......」


呆気にとられる私。人混みに酔いつつも、その波に流されなんとかこの戦地へと辿り着いた。


緊張と期待、そして不安の中、私は新たに決意を抱く。


(頑張って、たくさん売る!)


そうして始まった初参戦のコミケ。初戦は一人での参戦であり、作った同人誌もあんまり数は無かった。


場所も勿論、今とは違って島中であり列など出来ないくらいの物だった。


そして、開会のコールがなされついに初のコミケが始まった。隣り合ったサークルさんとは挨拶をすませ、同人誌も綺麗に並べた。


しかし、私にはまだ済ませていない事があった。そう、今日一緒に売り子しようねと約束していたある人物。その人との挨拶だ。


連絡はついている。ただ、ここにはいない。今走ってきているらしい。そう、もうおわかりですね?


今日、ここで私と売り子をする予定だった岡部倫は寝坊をかましました。


(......仕方ない、か)


本人曰く普段はあまり眠れず、体力が限界になると寝落ちして眠るの繰り返しらしい。そして、タイミングの悪いことにこのコミケの前日もラノベのイラストを手掛けていたようで、そこで寝落ちしてしまったとのこと。


『ごめん!この詫びは必ずや!』


そうメールが入っていた。私は速攻で返した。


『それじゃあ今度のコミケはメイドコスで頼むわw』


『おーけーおーけー!すまんかった!!』


この頃、まだ通話もしてなかった。だから、会えるのを楽しみにしていた。


人見知りで、友達が全然いない私。正直いうと寂しかったんだと思う。仕事上で他の誰かとの付き合いはあれど、こうして気楽に話せるのは倫くらいだったから......なのに寝坊され、一人にされた。


仕方なかったのはわかる。わかるけど。


でも、だから......この後、私は彼女に意地悪をしてしまったんだと思う。


「こんにちは〜......あ、あの、秋葉さん?」


「あ、こんにちは!すみません、なんだか秋葉さん急用が出来たみたいで帰ってしまいました......私、フェイと言います。秋葉さんがすみませんと伝えておいてくれと」


「うわー、マジでか!......酷いことしちゃったな、私......謝らないと」


しょんぼりする倫。罪悪感が私の心を覆う。


「秋葉さんは怒って無かったですよ。だから大丈夫だと思います!ほら、倫さんちゃんとお手伝いに来てくれたわけですし!」


「う、うーん......でも結局、売り子できなかったからな」


「大丈夫、また今度のコミケがありますから!それにまだ片付けがありますし!」


「......ありがとう。そうだね。このお詫びは次のコミケで。今は残された仕事をしっかりしてく、だね」


「ですです!」


「しかし」


「?」


ジッと私を見る倫。思わずドキリと心臓が跳ねる。


(この人、顔立ち綺麗だから目が合うとドキドキするんだよな......こりゃコスプレさせ甲斐があるかも)


「な、なんですか?」


「えっと、フェイちゃんて秋葉とはどういった関係なんですか?」


「あー......えっと、同人誌仲間、的な」


「ああ、私の他にも友達いたんだ。......良かった。あの人の人見知りだから、私以外には親しい人居ないのかと」


「ですね。人見知りって言ってました......だから、お手伝いは他に呼ばないって」


うんうん頷く倫。


「まあ、でもフェイさんみたいな良い子がいてくれて良かった」


「私が良い子......」


今会ったばかりなのにそんなこと分からんでしょ。適当な人だなぁ。......なんて思った時。


「うん。だって、あの人見知りが友達にするくらいなんだもん。良い子に決まってるよ」


彼女と出会ったのはネット掲示板だった。イラストをひたすらアップしていた当時の彼女はどこか鬼気迫るものがあった。


その時は倫の事を男の子だと思っていた私だが、ちょっかいをかけ衝突をくりかえし、雑談をして、やがて個人的な繋がりを築けた頃に女性だということが分かり、そして理解した。


この人はイラストに命をかけている。


他の何をなげうってでも這い上がろうとする。それがイラストにあらわれていた。そして、それが昔の私と重なって見えた。


何かで稼ぐ。学校もまともに出ていないまともな職にもつけずにただがむしゃらに生きるために金になりそうな技術を身につけようとして奮闘していた私に彼女の生き方が似ていたのだ。


だから、私は彼女に手を差し伸べた。


(......忘れてた。この人はこういう奴だった)


私と似ている。生き方と思考。......多分、お互いに。信用できる人間だと思っている。


適当な人間なんかじゃない。倫はフェイではなく、私を信用しているんだ。


「ごめんなさい、多分......次のコミケには秋葉さんくると思いますので」


「え?なんでフェイちゃんが謝るの!?」


悪いことしたのは私の方だ。反省せねば。


そうだ、次のコミケ......倫はメイドのコスプレをしてくるはずだ。きっと一人では恥ずかしい。私も禊としてメイドコスプレをしてこよう。


そしてそこで打ち明けよう。私が秋葉なのだと。




〜次のコミケ〜



「うおっ、フェイさんメイドさんのコスプレ!?すげえ可愛い!!」


(*'▽')!?


「......あ、あれ?倫さん......コスプレは」


「え!?なんの話!?」


そう、倫は約束を忘れていたのだ。結果、私だけコスプレイヤーでもないのに謎の罰ゲームのようにコスプレをすることに。


「あ、あー!そっか......思い出した。けど、今日も秋葉来ないんだよね?なら、私がコスプレする必要も......良かったぁ」




◆◇◆◇◆




「そっ、そー言うことかああああっ!!?」


「ま、ママ......ひどい」


「......こういう人だよ、あなたのママは」


そんな目で見ないでええええごめんなさいいいい!!




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