第62話 終わりへ向かうモノと、始まりへ進むモノ。



経営会議。



「......顧客離れが止まらない」


「これはかなり深刻な状況かと」


「従業員も辞めていくものが後を絶たちません」


「まあ、それはむしろ人件費の削減になる」


「問題は......どう顧客を取り戻すかだ」


「なにか打てる手は無いものか」


「最近流行りのVTuberはどうです?あれならば広告塔として機能するでしょう」


「うーむ、一過性の流行りだと私は思うがなぁ」


「あんなのでどう集客に繋がるのだ。広告なんぞに金を使ってる場合じゃないだろ。ここは昔ながらのコツコツと地道に歩き回り営業をかける......こんな時だからこそ、コツコツとだ!」


「そ、そうですな!いやあ、やはり社長のお考えは素晴らしい」


「だろう。我が社を1代で築き上げた先々代から受け継がれた血が私にもあるのだからな。流行りに流されず、堅実にだ」


――営業の人間を大幅に増員。一人ひとりにGPS機能のある携帯を持たせ、居場所を特定できるようにした。効率的に業務を行うためとされていたが、その真意はサボり防止。


茹だるような暑さの中、休憩も殆ど無く灼熱のアスファルトの上を行く。


そして、やがて一人の男が熱にやられついに倒れた。


朦朧とした意識の中。あいつの顔が思い浮かんだ。


(......頭、いてえ)


『君たちの営業にかかっている。なに、大丈夫だ。私がついている!だから命をかけてお客様を獲得してくるんだ!』


毎日のように社長が朝礼にあらわれ、長々と話をしていく。その間にどんどんと外の気温は上がり、俺たちは地獄のような猛暑の中外へ放り出される。


それを毎日、毎日。


後輩は営業に回される前に辞めた。この会社は狂っていますよ。と言い残し。


誰か、助けてくれて。西野、頼む。


精一杯の謝罪のメールを送るが、そのメッセージが届くことは無かった。そこで初めて終わっている事を理解する。


頼み込めば、人の良いアイツのことだ戻ってきてくれる......そう思っていた。


だって、あれだけ仕事を押し付けても文句も言わずにこなしていた女だ。また分かりましたの一言で戻ってきてくれると思ったんだ......。



セミの鳴き声が薄れていく。




会社の携帯が鳴っている。




動けない。




――......俺、は。






◆◇◆◇





――喫茶店。私は二人の姉妹とお茶していた。



ふんわりと心地よい冷房の風と、温かな二人の笑顔。


テーブルを挟んで向かいに座る彼女らは実に尊く、愛らしい。


「蓮華さん、改めてデビューおめでとう。初配信、たくさん人きてくれたね」


オレンジティーをストローで飲んでいた彼女。にこりと微笑み頷いた。


「ありがとうございます。りんママとお姉ちゃんのおかげです......ホントに感謝してます」


「うへへ、照れますなぁ!昨日の配信で3回目だっけ?」


「だね。でも、初配信してすぐ後にお姉ちゃんが私のこと紹介してくれたから、リスナーさんも優しくてやりやすいよ。ありがとう。それにりんママもイラストたくさん描いてくれて......」


「まあ、ママだからね。ちなみにいうとスレ民やパパも色々動いてたみたいだよ。あと、えまちゃん」


「!、えまさん」


「ライブ配信でリンネの事めちゃくちゃ話してたみたい。こんど良い子がデビューするんだ〜って」


「ほ、ほんとですか......お礼いわなきゃ」


「えまちゃん蓮華さんの事お気に入りだからね。そのうちコラボとかできるかもね」


「したいですね!あ、でも、あれだけすごい人とコラボするのは怖そう......」


「だーいじょぶ!あたしもいるから!」


「ふふっ、ありがとう」


笑顔が増えた。


顔が似ているから、ふとした瞬間に彼女を遙華と錯覚してしまう。


これは自己満足なんだろうけど、今幸せそうにしている蓮華さんを見ていると、私はどこか救われた気がして心が軽くなる。



――カラン、と氷が音を立てる。



美心と蓮華さんの笑い声が心地よい。


......あとは至乃夏のデビュー戦だな。


(そう言えば......昨日だったか企業から案件が届いていたな。悪い噂しか聞かないようなところだったから断ったけど)


かすかに救急車がサイレンを鳴らしている音が聞こえる。


「そういや、美心、来る前に言ってたお目当ての期間限定パフェ食べないの?」「食べるっ」


私の質問に即答する我が娘。


「蓮華さんは?私だすから食べなよ」「......あ、ありがとうございます。いただきます」


遠慮がちに答える我が娘。


「あの、今更なんですけど、りんママ」


「ん?他になんか食べたいの?」


「じゃ、じゃなくて!」


手をチガウチガウと振る蓮華さん。かわええ。


美心がそれをみてクスクスと笑う。かわええ。


「あの、私のこと......さん付けやめませんか?」


「え......呼び捨てが良いってこと?」


「お姉ちゃんの事は美心って呼んでるのに......なんだか距離があるような気がして」


「あ、そうか。......うん、わかったよ」


「はい!じゃあ呼んでみよー!」


美心がいう。蓮華さんが上目遣いでこちらを見ている。



「これからもよろしくね、蓮華」



「はい、りんママ......!」





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