第57話 焦り
私がぽかんとしていると、至乃夏は天使のように微笑みこういった。
「VTuberたのしそうだなって思って」
僅かな違和感。今、至乃夏が言った理由は嘘じゃないけど、多分他にも何かある気がする。さっきみせた陰りのある表情......彼女もまた何かを抱えているんじゃないか。
でも、まあ世話になっている人の希望だ。協力しよう。それに私は至乃夏を仲間だと思っている。スレからの付き合いで喧嘩して泣かされたりしたけど、大切な存在である事に変わりない。
「うん、良いよ。わかった。......でも蓮華さんのが先になるから時間はそれなりにかかるけど、待てる?」
至乃夏は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにまた笑顔になる。そして二度ほど頷き私の手を握った。
「はい、勿論それで大丈夫です!ありがとう、おかりん!」
「でも、さいごに聞いておきたい」
「はい」
「しつこくて嫌かもしれないし、言いたくなければ言わなくても良いけど......他にVTuberになりたい理由はある?」
これは好奇心だとかそういう物じゃない。単純に心配になっただけだ。あの表情は以前、蓮華さんがみせた表情と同じ様な気がした。だから、他にもなにかできるのなら、出来ることをしたい......彼女は、至乃夏は私の大切な仲間だから。
(まあ、お節介すぎるのもあれだけど......万が一という事もあるしな。手は差し伸べられるうちに出しとかんと)
すると至乃夏はニマニマしはじめた。え、どゆこと?
「やっぱりおかりんはおかりんですね。昔からそうだった。スレでも......口はアホみたいに悪かったけど、誰かが困っていたら親身になって話してくれる」
口が悪いのはおめーもだろ!とツッコミたかったけど、話を円滑に進めるためおくちにチャック。スティッキィ・フィン◯ーズ!!ドドドド!!!
そしてその甲斐あってか彼女が静かに語り始めた。
「......私、怖いんですよね」
「なにが」
「先の事を考えるのが」
「先の事って......仕事の話?」
「はい。......私って、今はモデルって事で一応やらせてもらってるんです。それがYooTuberとしての武器にもなっているところが大きいとも思っていて......でも、それが怖いんですよね」
「?、ストーカーとか?」
「あー、まあそれもありますが......そのリスクは承知の上で始めたのでそこはまあ、あれなんですが。どちらかといえばその逆ですね」
「逆?」
「......年を取って、容姿に魅力が無くなって誰にも相手されなくなるのが怖いんです」
そんな事は無いんじゃ......とは安易に言い切れない。これはおそらくモデルさんに限らずアイドルや容姿を売りにしている人達皆が抱えている悩みなんだと思う。
「なるほど......それでVTuber」
「はい。まあ、それだけじゃなくて、美心さんやえまさんを見ていて楽しそうだなって思ったのが大きいですけど。でも、その悩みにたいしての対処法として可能性があるのかなと......私は感じたので」
「でも、言い方は悪いけど、至乃夏の最大の売りであるその容姿は捨てざるえない......そうなると今のように多くのフォロワーやファンを獲得できるかはもうわからない。それでもやるの?」
彼女のファンの殆どは、彼女の容姿が好きでファンになったはず。ならば、VTuberの方にそのファンを誘導することは出来ない。
「やります......頑張ります、私」
至乃夏の瞳に光が差す。これは決して逃げではなく、前進。彼女は彼女の望む未来をつくる権利がある。これは彼女の人生であって他の誰かのモノじゃない。
だから、私は彼女が望む未来へと進めるよう、精一杯の武器を作り渡そう。
「わかった。それじゃあ、VTuberのモデルを描くにあたってどういうのが良いか考えて。それをもとに私が描くから」
「!、ありがとうございます、おかりん!大好き!!」
「おあっ!!?」
がばっと抱きついてくる至乃夏。なんかデジャヴ感が......けど、嬉しそうな彼女の笑顔を見ていると私まで嬉しくなる。
ふふ、蓮華さん......至乃夏と二人からの依頼。忙しくなるぞー(白目)
しかし、この二人のVTuberモデルを制作したら、三人手掛けた事になるな。これからどんどん増えていったりして。
ふと至乃夏の顔を見ると、またニマニマしていた。このニマニマはおそらく自分のVTuberデザインを考えているニマニマかな?と、想像しつつ見ていると、彼女は「うん」とひとつ頷いた。
「私、頑張りますね。残りのモデルやYooTuberとしての仕事を......ちゃんとやり遂げて、ファンの皆にもしっかりお礼を言って、それで......VTuberとして生まれ変わります」
「うん。大丈夫、至乃夏ならできるよ。努力家でがんばり屋なあなたなら」
にへらあっとする至乃夏。そして流し目でこちらをみてこういった。
「あらあら、美心さんとえまさんが居るのに......私まで惚れさせるつもりですかぁ?罪な人ですね」
「あ、そう。じゃあもういわねーから」
「ご、ごめんなさい!」
「ふん」
「「あははは」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます