第55話 仲良くしよーよぉ。......仲良いか。
美心がフンスと鼻を鳴らし「おもしろい」と一言そう言った。
え、おもしろくないよ?
対するえまちゃんがニヤリと笑い「でしょっ?」と返す。
もうやめましょうよ!!!もうこれ以上戦うの!!!やめましょうよ!!!てえてえがもったいだいっ!!!!
と、まあ、頭の中でパロディってる場合じゃないことは重々承知之助なんだけど、両者の大きな想いがわかっているのでちょっと口を挟む勇気が出ない。
問題の先延ばしと言ってしまえばそれまでなのだが、ここでこのライバル的意識を壊すのも気が引けた。たぶん、この関係性はいい方向へ向かう気がする。
「えっと......まあ、うん。二人の話に決着がついたところで、二人とも今日はもう帰る?美心タクシー呼ぼうか」
「まって倫ちゃんっ」
「え?」
なぜかえまちゃんに制止された。彼女の事だから、ライバルになった美心をさっさと帰らせたがっているかと思ってたんだが。
「ねえ、美心」
「なに、えま」
......怖えよ。いつの間にか呼び捨てになってるし。これ喜んで良いんだよね?そのうち美心さんえまちゃんにウスラトンカチとか言いだしたらどうしよう。
「今日はわたしのウチに泊まりなよっ」「......!」
「え!?」
思わずぎょっとしてしまった。ライバル認定した美心をまさかの自分のホームへご招待。いったいどういうつもりだってばよ?
「わかった、えまちゃんウチ泊まる」「やったぜっ」
やったぜ......あ、これあれか。ライバルだけど同い年だからもっと仲良くしたいんか。
「あ、じゃあ美心歯ブラシ持っていきな。あとパジャマ」
「うん、ありがとうママ」
美心がお泊りセットを用意し始めたのを見て、私は手元の携帯で彼女のお母さんにDMを送った。今日はお泊まりです、っと。
「気まぐれで嘘つき、か」
ジッと私を見るえまちゃん。その一言に私は彼女をほったらかしにした数年の年月の重みを感じた。
......いや、わかるよ。私もこのズボラでいい加減な性格が嫌いだ。転生前はこんなんじゃなかったんだけどな。
まあ、こんなんじゃ無かったから会社に使い潰されたんだろうけど。責任感、無責任......この世界はその塩梅が難しい。
「......嘘は無いよ。気まぐれだけど」
「ふーんっ、そ」
ベッと舌を出して見せるえまちゃん。いやいやおまえさぁ......クソカワイイやんけ。たまらんなぁ、このクソガキムーブ。
「でーきたっ!」
ウチにあった私の鞄をぶら下げ美心が戻ってきた。いや、それ私のやーつ!まあ、いいけど。
「いこ!えま!」
「うんっ!それじゃあ、おやすみなさい倫ちゃんっ!」
「おやすみー!ママ!」
「はい、おやすみー。なんかあったら連絡してね」
「「はーいっ!!」」
なんかこれはこれで姉妹に見えるな。かわよ。
二人が去った後、私はキッチンに向かう。すると先程までテーブルに突っ伏していたはずの至乃夏が再び酒を飲んでいた。オイ。
「なんで寝たふりしてたの」
「なんでって!お邪魔しちゃ悪いじゃないですか〜!二人ともおかりんのこと大好きなんですね?いやあ、愛されてるなあ!あははは」
「あははは、じゃねえ!面白がってからに......」
「すみません、すみません。いやあ、面白いなあ〜」
ジロッとジト目で睨むと、至乃夏は両手を合わせ「ごめん、ごめん」と平謝りする。
「けど大切にしないといけませんねえ」
「え?」
「美心さんとえまさんの気持ち」
「まあ、それは......そうだけど」
私の歯切れの悪い返しに首を傾げる至乃夏。
「いずれは答えを出さないとって思ったら、あの真っ直ぐな想いは眩しすぎるというか......つい、目を逸らしてしまいそうになる」
「あー、なるなる」
「どうしたものか......」
「んー、いっそ二人とも我が子にしてしまえば良いのでは」
「ああ、確かに......って、できるかーい!!」
「あはははは」
ダメだ完全に出来上がってやがる。
でも、確かに......どこかで何かがひとつ違えば、今の美心の位置にえまちゃんが居たかもしれない。
もしかすると、えまちゃんが急激に接近してきたのもそれがあるのかもしれない。想像の範疇で、あくまで私の妄想になるけど。
(寂しかったのかな......やっぱり)
――気まぐれで嘘つき、か。と言った時の彼女の瞳は.......。
「まあ、なんにせよあれですよおかりん!」
「ん?あれって?」
「どちらを選ぶにしてもその後のケアを怠らなければオーケーなところないですか?寂しくならないよーに!おかりんならできると思うなぁ、私」
「寂しくならないように......私が出来ること」
至乃夏が私のどこをみて出来ると言っているのかわからないけど、ただの絵師である私に出来ることなんてたかが知れてる。
絵師だから出来ること?それとも......。
「あの、おかりん」
「ん?」
「今日泊まっていっても良いですかぁ?なんか家までたどり着けない気がする〜!あははは」
「ああ、私も心配だから泊めるつもりだったけど」
「やっさしぃ〜!さっすがおかりん〜!」
「おわ!?」
がばっ、と急に抱きついてくる至乃夏。酒臭い!けど胸でけえな!地獄と天国が同時に襲いかかってきた。
「あははは!......ふぅ、さて、お風呂一緒にはいろっかぁ」
「え?」
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