第54話 こうしない?
バチリと私と目が合う至乃夏。彼女はウィンクして、(頑張れおかりん!)と言うかのよう、狸寝入りを決め込む気満々だった。
完全に楽しんでやがる。この借りはいつか必ず返してやる、そう胸に誓い目を瞑るとえまちゃんが「こっちもーらいっ!」と私の左腕に絡んできた。
「ちょ!やめてよえまさん!あたしのだって言ったでしょ!」
ぎゅうっと美心に抱きしめられている腕が、より一層強い力で締め付けられる。
「ふふん、独占禁止法だよ〜っ!倫ちゃんは独り占めだめなんだからっ」
「!?」
えまちゃんが腕を抱きしめつつすりすりと頬ずりをする。なんだろうこういう猫のshort動画あった気がする。
「ていうかさ、あれだよね?まだわたし達子供じゃんっ!そんなこと言ったら倫ちゃん困っちゃうでしょっ?」
「......!」
むっ、と口を尖らせる美心。何か思う所があったのか私の腕を締め付ける力が緩む。......って、おーい!!えまちゃんどの口でその台詞いってんだよ!こないだ告白してきたやんけ!!
「で、でも、ママも同意してくれたもん......」
「ふふんっ、それはどーかなあ?美心ちゃんはアリスなんだよっ?娘との関係がぎくしゃくしたら嫌じゃん?」
「はっ、気を遣われたってこと......!?」
「え、いや――」と私が否定に入るとえまちゃんに口を手で塞がれた。
「まあ可能性の話ね。もしかしたらそーいう気持ちもあったかもしれないし、本心なのかもしれない」
「え、ならそのママの口を塞いだ手はなして聞いてみようよ。その方が早いよ」
「ちがうちがう」
いやなにがだよ。と心の中でツッコむ私。
「ほら、さっきの話を思い出して欲しいのっ」
「さっきの話?」
「わたし達まだ子供じゃんっ」
「うん」
「ん、そーいや美心は歳いくつなのっ?」
「あたしは17だけど......えまは?」
「おお!?わたしも17だよ!同い年じゃんっ!!」
「本当だーっ!!わあ嬉しい!!」
あれ、なんか別の所で盛り上がりだした?よ、よし、このままこの色恋沙汰は有耶無耶にしてもろて。二人が喧嘩するのを見るのは嫌だし。
「えまはどこの高校なの?」
「わたしは高校通ってないよっ」
「そーなの!?VTuberで頑張っていくから?」
「まあVTuberはずっと続けたいとは思ってるけど、でもあれだよ、通信の高校やってるけどっ」
「おお!?そうなん!?なんで通信?」
「わたしさあ、こうみえて対人関係苦手でさあ、集団生活とかほんと苦手なんだよね〜っ。それで中学の頃イジメられてたしっ」
「え、そうなんだ......」
「うんうん。まあ、そんな時に助けてくれたのが倫ちゃんなんだけどねっ」
「え、そうなんだ......!?」
「そうなの。倫ちゃんはわたしの命の恩人だからねっ......っていうかあとあれ、時間の融通がきくからVTuberの活動もしやすいのは良いねっ」
「命の恩人......」
むう、と思考する美心。複雑そうな表情を浮かべる彼女の心境はきっとこうだ。なんともただならぬ関係だ、こんどママに問いただ......事情説明してもらわねば。
「でもそうなんだ......通信制っていうのもあるんだね。この活動もやりやすそう」
「あ、でもそれだけで選ぶのはダメだよっ。わたしはこんなんだから通信じゃなきゃ無理だったけど。てか、ホントは高校はいらずにVTuberだけでやってこうと思ったんだけどね〜っ」
「そうなの?じゃあなんで?」
「いやあ、七海さんが高校は出といた方がいいってゴリ押しされちゃってさあっ」
「へえ、そうなんだ」
「うん。VTuberだってずっとブームが続いていく訳じゃないし、もしもの時にそれがあるかないかじゃ全然違うとかって......できれば大学も行ってほしいとか言ってた」
「へえ、なんかママみたい」
私はその話を聞いて感動していた。七海さん、なんて素敵な人なんだ、と。
担当するタレントに対してそこまでしっかりと考え、VTuberの仕事が万一終了したとしても困らないようにと配慮するその姿勢。
もしかしたら未成年にそういう風に学業を疎かにさせないというマニュアルがあるのかもしれないが、ここまで七海さんを見てきた感じでわかる。
七海さんはそんなマニュアルがなくともえまちゃんの事をちゃんと考えて進学を促す。まだ少い付き合いだが、周囲に対しての気配りや先程の蓮華さんの悩みを親身になって聞いている様からも、彼女の人柄の良さが出ていた。
(......えまちゃんがのびのびVTuber活動できているのは七海さんの力も大きいんだろうな。しっかりとタレントの事を考えて......尊敬するわ)
「え、美心も?倫ちゃんに高校行きなさいっていわれたのっ?」
「んーん。大学行きなさいって前に言われた。さっきえまが言ってた七海さんの理由と同じで、この先どうなるかわからないからってさ」
「ほほう、なるほど〜っ!倫ちゃんらしいねっ」
「え、で......子供だからなに?」
「そうそう!ここは付き合う付き合わないの答えは保留としませんかっ?」
「保留......?えっと、その心は?」
「だってさあ、わたし達が大人になるでしょ?その頃に倫ちゃんの心が変わらないとも限らないじゃない?だったら今答えだすのって倫ちゃんにとって酷じゃない?それにずっと縛られ続けるわけですしっ」
「え、あー......ううーん、確かにそうかも?」
「だったらわたし達が成人するまで決着をつけるべきではないんですよっ!ね!?」
「つまり、成人するまでにママの心を奪っていた方の......勝ちということ?」
「そう!そういう勝負っ!アピールしまくって、倫ちゃんに選んでもらう......そんな感じでどうでしょうっ!?」
......なにこの戦い。
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