第53話 ライバル


蓮華さんの人生相談(?)の後、色々な話をした。これからこの業界がどういう方向に向かうのかだとか、特にVTuber人気はどうなるのかだとか。


七海さんの言っていた「良くも悪くもVTuber次第」という言葉が私の中に響き残る。


そして、それはVTuberを支えるマネージャーや企業の後ろ盾や協力が必須である事は言うまでもない。


(......私、このままで良いのかな)


美心と蓮華さんをVTuberにして、その先......どこへ向かおうとしているのか。そろそろ考えなければならない所に来ている気がする。


そんな事を考えながらちらりと時計をみれば、もうそこそこいい時間になっていた。


「さーて、そろそろお開きかな」


私が言うと美心と蓮華さん、そして七海さんがせっせと片付けを始める。えまちゃんはベロベロになった至乃夏に水をあげている。普段はクソガキムーブ(良い意味で)かましてるのにこういう時しっかりしてるよな、この子。


「わたし、ちょっと至乃夏心配だからいよっかなっ」


「ん?至乃夏は私が見とくから大丈夫だよ、えまちゃん」


幸せそうにムニャムニャいってる至乃夏を不安げな表情で見ているえまちゃん。


「えま、もう時間も遅いですし、ここは岡部さんに任せて帰りましょう」


「ううん......わかった。でも、もうちょっとだけ。ダメかなっ」


すがるような目でこちらを見てくるえまちゃん。とても胸が締め付けられます。きゅんとするわ。


「わかった。良いよ」


「!、ありがとう、倫ちゃんっ!」


「すみません、ウチのえまが......面倒かけますね、岡部さん」


「いえ、面倒だなんて......むしろ酔い潰れた至乃夏の面倒を見てくれて助かりますよ」


「ふふっ、ありがとうございます」


微笑む七海さん。いったいどういう笑いなんだ?と不思議に思いつつ私もにこりと微笑み返す。七海さんは初対面ではクールなイメージがあったが、実はそうでもない事がここ最近の付き合いでわかった。


結構頻繁に笑うし、さっきもそうだったけど親身になって話をしてくれる。それと、あと美人だ。


「では、私はこれで。えま!ちゃんと勉強してね!」


「うおっ、あ、はーいっ......」


弱々しく返事を返すえまちゃん。


「ママ、蓮華ちゃんと片付け終わったよ〜!」


「お、ありがとう。それじゃあ、また」


七海さんに小さく手をふる。背後ではバイバーイ!と美心がびょんと飛び跳ねていた。


七海さんが帰り、蓮華さんも時計を気にする。


「私もそろそろ」


「「えー!帰っちゃうのおおおー!?」」


美心とえまちゃんの声がシンクロする。シンクロ率100%。


後ろで至乃夏をみていたえまちゃんと顔をみあわせる二人。仲良しッッ!!


「ふふ、また今度遊びましょう、えまさん。お姉ちゃんはどうするの?」


「んー、私はもう少し居よっかなあ」


「明日、学校でしょ?」


「うん。だからもう少しだけ!」


「そっか......岡部さん、お姉ちゃんの事お願いしますね」


「うん。了解!蓮華さんも帰り気をつけてね」


「はい!今日は色々とありがとうございました......おかげで心が軽くなった気がします」


やわらかな笑顔。......やっぱり、遙華にそっくりだな。


「また皆でお話しましょ。話すだけでもスッキリするもんだしね」


「はい、ありがとうございます!ではまた......!」


「またね、蓮華ちゃん!」


「蓮華さんまたねーっ!」


――バタン、と扉が閉まる。


「楽しかったね、ママ」


「うん......」


さて、酔っぱらい......至乃夏はおそらくもうダメだろう。泊めるか。


そう思い寝室のベッドを綺麗にしようと一歩踏み出した時、右腕に違和感を覚えた。


違和感というか、温もりというか柔らかさというか、美心さんが私の腕にくっついて胸が押し当てられていたっていうだけの話なんですが。


「え?」


「えへへ〜」


にこにことご満悦の美心。ハッ、としてキッチンの方、えまちゃんと至乃夏が眠るテーブルに目をやると、なんともいえない表情でこちらを注視するえまちゃんが見えた。


あれは......いや、どーいう表情?おくちポカーンと開いて(・o・)←こんな顔してるんだけど。


「えまさん」


美心がおそらく放心状態の彼女へ呼びかける。


「ママはあたしの。オーケー?」


ハッ、と我に返るえまちゃん。そして美心の質問にこう答えた。


「ノーーーーっっ!!!」


首が取れるんじゃないかってくらい横にぶんぶん振るえまちゃん。大丈夫か......。


「り、倫ちゃんは......」


こちらに視線を移すえまちゃん。その顔は捨て猫のような悲壮感が溢れていた。庇護欲を掻き立てられる悲しみに満ちたうるうるとした瞳。


や、やめろ!そんな目で私を見るなーっ!!


「えっと、ごめん......えまちゃん、私は――」


「はい!ストーップっ!!!」


「「!?」」


はあ、はあ、と肩で息をするえまちゃん。そして首を横に振り「これはなまらピンチ」と小声で呟いていた。


「美心ちゃんっ」


「......うん、はい」


「フェアにやりませんかっ」


「......?」


フェアに......どーいうことだってばよ。


その時、私はある事に気が付き驚愕した。それは、テーブルに突っ伏し、酔い潰れていた至乃夏。


奴は目を覚ましこのちょっとした修羅場のような状況を楽しむようにニヤニヤと微笑んでいた。


(こ、こいつ......!)



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