第52話 不確実


「まあ、努力だけでは成功するとは限りませんが」


七海さんが言う。


「あーっ!なんでそーいうこと言うのさーっ!!」


「確かにえまの言うことはその通り。けれど、やるならばしっかりと考えねばなりません。無責任な事を言ってもしも失敗してしまっても私達には責任がとれないんですから.....」


「むーっ」


口を尖らすえまちゃん。七海さんの言うことは最もだ。


「でも成功確率はあげられますよ」


至乃夏がにこにこと赤い顔しながら言った。もう六缶あけてるんだが。


「人が何かをはじめてそれが失敗する場合、たいていその努力の方向性が違うという事が多いです。だから、方向性さえ間違えなければ成功率は高いんじゃないかなと、私は考えます......ねえ、おかりん?」


「「おかりん!?」」


バッ!と美心とえまちゃんが至乃夏に向く。二人からの視線が集まる彼女は頬に手を当て「ふふふ」とにこにこ笑っていた。


次に二人は私へジロリと視線を向けてくる。居心地の悪さに思わず口を挟む。


「どうすれば良いか......この場にはVTuberならそのノウハウを教えられる人ばかりだしね。私と七海さん、それにVTuberの美心もえまちゃんもいるし、YooTuberの至乃夏までいるんだから」


えまちゃんは蓮華さんに懐いてるからアドバイスしてくれるだろうな。七海さんはクロノーツライブのマネージャーだから難しいとして、至乃夏もアドバイスくれそう......美心は蓮華さんVTuberになるの嬉しがるだろうから、心配なし。


「......ありがとうございます。でも、ちょっと不安な事があって」


「不安?」七海さんが聞き返した。


「私、もう......30手前なんです。歳が歳なので、VTuberやれるか不安だなって」


「「30手前!?見えないっ!!!20歳くらいかと思った!!!」」


まったく同じ台詞を七海さんと至乃夏がハモらせた。


「す、すみません」


「あ、いえいえ......今日イチびっくりしたぁ」


「ほんとに、まじでびっくりしましたねぇ......」


七海さん至乃夏が椅子に座りなおす。その二人をみてえまちゃんが爆笑していた。


「いやいやいや、話戻しますけど歳なんて全然大丈夫ですよ蓮華さん」


七海さんが眼鏡の位置を直しながら言う。


「そうですかね。最近のアニメだとか漫画、ゲームなんて全然理解できてないのに......VTuberできるのかなって」


「いえいえ、そんなのどうとでもなりますよ。というよりそんなのなんのマイナスでも何でも無いです。むしろプラスにだってなります」


「プラス?プラスにはならないんじゃ......」


「いえ、なります。VTuberというのはイラスト以外では内面が見られます。その内面というのは、その人の人柄や生き様......人間性ですね」


「人間性......ですか、なら尚更私なんか」


「いいえ、そんな事は無いはずです。なんならえまや美心さんが出来ない配信が出来るはずですよ」


「二人が出来ない配信?」


「それは社会経験。これまでの経験したあなたの人生を使うんです......人は自分と同じ経験をしている人に親近感を覚えます。なので、同じ境遇にある視聴者さんにはあなたのそれは刺さるかと思います」


「......私のこれまで」


至乃夏が八缶目をプシュッと開けながら言う。


「ちなみにVTuberやYooTuberの動画で再生回数が伸びやすいモノというのがあります」


「伸びやすいモノ?」


「はい。それはずばりあなた自身の人生を描いたストーリー動画です。あなたがどういう風に生きて、そこに至ったのか。それを語った動画を撮るんです」


「......そ、それは、需要がないのでは......」


「ありますよ。あなたのように会社で辛い事を我慢して頑張っている人達は多いと思います。そういう方々はきっと蓮華さんに親近感を抱く......あなたの苦労話に自身を重ねて、きっと応援してくださるはずです」


意外にも七海さんがめちゃくちゃアドバイスしてくれてる。むしろ彼女の方が蓮華さんに自身を重ねているように見える。もしかして、クロノーツライブのマネージャーになる前は蓮華さんと同じような会社員だったのかな。


「そうですか......でも、なんだか、その気持ちを利用しているようで気が引けますね」


「蓮華さん、それは違うよ」


私は言った。


「リスナーは自分にそのライバー必要だから観に来てくれる。チャンネル登録して、スパチャも投げたりしてくれるんだよ」


「必要?」


「んー、蓮華さんにとっての美心みたいな感じ?」


「お姉ちゃん」


「そう。美心といると元気になるでしょ?それは美心のリスナーもそうなんだ。VTuberによって求められるものは様々だけど......蓮華さんは来てくれたリスナーに日々の仕事の疲れを癒せるような配信をしたら良いんじゃないかな」


「......なるほど。私がリスナーさんを癒やす」


蓮華さんは目を細め思案しているようだった。それは先程までの恐怖心からの迷いではなく、未来を切り開こうとする前向きな悩み......私にはそんな風に見えた。


けれど、これでもし蓮華さんのVTuber活動が成功しリスナーに受け入れられる事ができれば自己肯定感があがり彼女にとってかなりのプラスになるはずだ。


「あー、私あれ持ってますよ!あの耳かきする機材〜!」


至乃夏がポンポンと蓮華さんの肩を叩き「お貸ししましょうかぁ!」とにこにこしていた。


耳かきってASMR?



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