第51話 才能の在り処
――カチーン!と鳴るグラスの音。乾杯の音頭を無理やりとらされた私は、食事会の開始を告げた。
キッチンのテーブルにえまちゃん、私、美心と並びその向かいに同じ順で七海さん、至乃夏、蓮華さんが並ぶ。
私は七海さんが買ってきてくれたピザを切り分けながら、美心に皿をとってきてと指示する。えまちゃんがにこにこと笑いながら「わー、蓮華さんおるーっ!嬉しいなぁ!」と声をかける。
「ご、ごめんなさい、私関係ないのにお邪魔してしまってて」
「あら、そんなこと無いですよ〜!蓮華さんは美心さんのお姉さんなんですよね?お世話になってます、私は至乃夏至乃夏です。YooTuberで忌魅子の仔として活動してます」
自己紹介をした彼女に引き続き、七海さんも流れに乗り名乗った。
「あ、私は七海麗奈と言います。そこのえま......VTuber薄氷シロネの担当マネージャーをしております。よろしくお願いします」
「あ、えっと、西野蓮華です。よろしくお願いします......あ、それと、美心は私の姉です」
「「姉?」」
七海、至乃夏はキョトンとした顔で蓮華をみた。そしてその後すぐに美心へと顔を向けた。
「そう。あたし、おねーちゃんです。へへ」
得意げに言う美心に対し、2人は頭上に「?」を浮かべたまま思考していた。そりゃそうだ。いくら見た目若そうに見える蓮華だろうが、高校2年生の妹にはどうみても思えない。
ちなみにえまちゃんは以前このくだりを終えているので、なんとなくだけど事情を理解してくれている。詳しくは説明してないけど。
(さて、どう説明しようかな......)
「なるほど、勘違いしました。ごめんなさい、美心さん」
そう至乃夏が美心に言う。すると七海さんも「あ、そうなんですね、すみません」と続いた。
おそらく腑に落ちてない部分はあるのだろうけど、二人の関係に何かあることを察してかそこはツッコまない流れになった。
あとで上手いこと説明しないとな......いや、難しいな。
「蓮華さんは今日はお仕事だったんですか?」
七海さんがふいに切り出した。特に意味もない話題振りだったが、私は蓮華さんに目配せをした。
(......大丈夫?話題かえようか?)そんな意味を込めた視線に彼女は首を横に振る。
「えっと、今日はそうですね......一応」
「えーっ、会社行ってきたのっ!?」
驚きの声をあげるえまちゃん。彼女は蓮華さんの事情を知っている。だから早々に退職したものだも思い込んでいたのかも知れない。
「えまちゃん、その話はまだ進んでないんだよ。これから」
「あ、そーなんだ......でも心配だなぁ、蓮華さんのコトっ」
美心はポカンとした表情で会話を聞いていた。そして、至乃夏が蓮華さんににこにこ微笑みながら聞く。
「もしかして、転職されるんですか?蓮華さん」
「!、ええ、まあ......その予定です」
至乃夏聞き方が上手い。この人結構気配り上手なんだよな。
「えー!!蓮華ちゃん転職するの!?わあ、すごーい!!」
「あれあれ、美心ちゃん聞いてなかったのっ?」
美心とえまちゃんが顔を見合わせる。
「むっ、確かに......あたし聞いてないな?なんで教えてくれなかったの蓮華ちゃん!?」
「ごめんね、お姉ちゃん。心配させたくなくてさ」
「いやいや、むしろ安心したけど!蓮華ちゃんいつも疲れた顔してたから......お仕事大変なんだなって思ってて。無理してないかなぁってずっと思ってたんだ」
美心は蓮華さんと再開してからずっと心配してたもんね。いや、つーか美心のバイトも大概やぞ。
「お姉ちゃんありがとう、ごめんね。......というかお姉ちゃんのバイトの入れ方も心配になるんだけど」
言いたいことを言ってくれる妹、蓮華。
「あたしは大丈夫!大変だけど、リスナーさんに元気貰ってるしさー」
「あーっ、わかるわかるっ!雑談とかお話すると楽しいしストレス解消になるよね〜っ」
「ね!」
美心のその言葉に、えまちゃんがうんうんと頷いた。
「たまに皮肉られて虐られてムカついたりするけどねっ」
「あーあるある」
今度はえまちゃんの言葉にうんうんと美心が頷いた。なんかいつのまにか仲良くなってない?これコラボ効果?
ふふっ、と笑う七海さん。二人に問いかける。
「でもそういうのも楽しいんですよね?えまも美心さんも」
「「うん!」」
皮肉られて虐られてってのはいわゆるリスナーとのプロレス。仲の良い友達とかとふざけ合ってじゃれあうみたいなもので、本当に嫌なら彼女らもそれ相応に対処することもできる。
ふたりの様子からもそれがアンチによる嫌がらせの類には見えなかったから、まあそういう事なんだろう。つーか、美心の配信に限っては私が常に観てるし、観れなかったものもアーカイブで確認してるから大丈夫だけども。
(やべーやつがいれば私のスパナで臓物をブチ撒けろ!するから大丈夫)
「美心も、えまさんも本当に楽しそう......勿論、VTuberが大変なのは想像がつきますけど、羨ましいです」
「ふふっ、なら蓮華さんもVTuberをやってみてはどうですか?」
本日三缶目のビールをプシュッと開けた至乃夏。にこにこと蓮華さんへと飲みながらそう言った。......ペース早くね?まだ十分経ってないが?
「......えっと」
ちらりと私の方に視線を送ってくる蓮華さん。えまちゃんがピザを頬張り幸せそうな顔をしている。美心は蓮華さんの雰囲気に、「?」と言った顔をしている。
理由はわからないけど、言いづらそうにしている蓮華さん。私がかわりにそれを答えることにした。
「ああ、蓮華さんね、VTuberに興味あるんだよ」
その言葉に七海、美心、至乃夏が瞬時に反応する。
「おお!」「えーっ!?」「マジで!?じゃあやりましょー!?」
「あ、あ、でも、自信がなくて......皆さんみたいに才能とかないし」
「才能、才能......うーん」
えまちゃんが唸る。七海さんが「どうしたの、えま?」と問いかけると彼女はこう答えた。
「美心ちゃんも至乃夏も、勿論わたしも才能なんか無いと思うけどね〜っ」
「ちょ、えま!失礼なこと言わないで!?」
慌てる七海さんを置いてきぼりに話を進めるえまちゃん。
「だーって、みんな才能だけじゃここまでこれてないと思うしっ。例えば美心ちゃんは歌が意味不なくらい上手いけど、それって最初からそうだったワケじゃないじゃんっ?」
「まあ、ですねえ。最初はむしろ下手だったけど褒められるのが嬉しくて......気がつけばこんなんなってた感じですね」
「ねねね?だからね、これは才能じゃなくて好きなことに対しての努力の結果なんだよ〜っ。至乃夏の持ってるものもそうだとわたしは思うなっ」
「まあ、そうかもしれませんねえ。興味を持ったものをやっていたら結果が出た、みたいな?まあ、えまさんの言った通り好きなことをやり続けた結果ですか」
どこかホッとした顔の七海さん。えまちゃんって結構物事をはっきり言うところがあるからな。マネージャーさん結構そういうところのケアで神経削れるんじゃなかろうか。
えまちゃんがうんうん、と頷く。
「でも、それは.....努力できるのが凄い才能ということでは」
「あー、かもねえ。けど、わたしは蓮華さんできると思うけどなあ」
「......?、わたしなんか、そんな......だって会社勤めですらまともに出来なかったんですよ。ミスばかりして」
「蓮華さん、それ楽しかったっ?」
「......え?」
「蓮華さんお仕事楽しかったの?」
同じ質問を繰り返すえまちゃん。言いたいことはわかる。
「仕事ですから、楽しくは無かったですよ......でも仕事だから」
「すごいじゃんっ!」
「え?」
「だーって!そんなに楽しくもない事でこんなにぼろぼろになるまで頑張ってさぁ?わたし達にはできないもん、そんなのっ」
「でも、それは......生活のために」
「うんうんっ、そーだねっ。でもさ、それが頑張れたなら好きなことに努力する事も出来るんじゃないっ?」
「......それは」
「楽しいし事って努力できるよっ」
にこっと微笑むえまちゃん。
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