第47話 効いたぜぇ。
配信終了後、私は美心に聞いた。
「えーと、まずはお疲れ様」
「あ、はい。お疲れ様でした」
「それで、いつからこれ計画してたのかな?」
「こ、これというのは......?」
にんまりと私は笑みを浮かべる。美心の視線が左下に落ちた。気まずそうに出した水を一口飲む彼女。
「私がなんでコラボ出てるん?って話だよ!」
「ぶふっ」
私が声を荒げると美心は危なく水を吹き出しそうになっていた。肩を震わせ笑いをこらえる彼女。......こ、こいつ。
「しかも1日前に知らされるとか。有り得なさすぎて有り得ないんだけど......マジで脳が震える」
「いやいや、でもでもちゃんとできたじゃないですか!ママすっごく面白くてよかったです!!ノリノリで面白かった」
「おまえなぁ!」
「ママも楽しかったでしょ?ふふ」
「......そりゃ、まあ。ちょっとは」
「あたしもママと一緒で楽しかったよ!えへへへ」
にこーっ、と悪戯っぽさが潜む満開の笑み。卑怯だろこれ。美心の笑顔は全てを許せてしまえそうな力を持っている......これは卑怯。
「はあ、もう良い......次はでないからね」
「えーっ、そんなぁ!」
「そんなぁじゃねえ」
「でもでも、リスナーさん喜んでたじゃないですか!ほら、リスナーさんの望むことをしてかないと!」
「口が達者になったな、美心」
「へへっ、どもども〜。もしかして、ママに似てきたかな?うへへ」
こいつ......ちょっと嬉しいのが腹立つ。いやまって、私口が達者だと思われてるのこれ。
「でもでも、突発的にライブ配信でてあれだけ喋れるんですから、ママも配信者の才能ありますよー!やりませんかVTuber!親子でっ!」
「......いや、やらないけど」
「えーっ、絶体数字とれるのにぃーっ」
「ふふっ」
「?」
「やっぱり、美心はもう大丈夫だね」
「大丈夫?なにが?」
まだまだVTuberとしての日は浅くて、経験値も足りない。けれどいろんな物が見え始めている。中でも大切なのは、楽しみながら数字を取ること。
「私はさ、美心はクロノーツライブに行くべきだと思う」
「......!」
はっきりと、私は言った。これは今の私の本心だ。美心の為を思えば、これが最善の手。彼女にはここで燻っている暇なんか無い。
若い時間はあっという間に過ぎていく。ここで無駄にしている場合じゃない。
多くの人に愛され、多くのリスナーに彼女の活躍を見てもらいたい。
「美心がもし、クロノーツライブへいって......さみしいというのなら、またこうしてコラボしても良い」
「え......?」
彼女の為ならば、私は......どんなことでもする覚悟がある。
「私もVTuberモデルを用意するよ。それで、コラボしよう」
「......ふふ」
?、なんで笑った?
「ママにはそれほどの覚悟があるんですね」
「あるよ。だって、アリスを育てるって言い出したのは私だからね......美心には無いの?」
「ありますよ。というか、ママが言ったのは「アリスを育てる」じゃないです......「俺らがつくった子は俺らで育てよーぜ」って言ったんですよ」
「......」
「この間も言いましたけど、逃げないでくださいよ。なんでクロノーツライブへ行くように促すんですか」
「大きな箱にしか出来ないことがある。それは、このままでは出来ないことで、ここにいちゃ出来ないことだから......」
「例えば?」
「グッズ販売とかかな。人手も足りないし、ほかにも......」
「あ、グッズ販売なら大丈夫。スレ民にそういうのに詳しい人がいまして、やるならお手伝いするって」
「ええええっ、なんで......DMしたんか!?」
「え、しましたけど?ちなみに初配信に来てくれた方には皆にお礼のDMしましたけども。その時に皆が協力できることあるならするからって......」
「いやいやいや、あんまりそうほいほい接触したらだめだろ!」
「あー、はい......パパにお礼DMしたときにまったく同じこと言われましたね。あはは......ママかパパにそういうのは通してからやってねって」
パパーっ!!偉いぞパパ!!ありがとうパパ!!
「ごめんなさい、ママ」
「あ、いやパパが言ってくれたなら良いけど、危ないからね......グッズは良いとして、他にも色々あるだろ新曲出したりとか」
「あ、それはこないだ作ってくれたスレ民の方が居たじゃないですか。ちなみにライブするなら手伝ってくれるらしいですよ?」
「ああ、あの子か......いや、でも」
「でも?」
「数字......数字の伸びが違う」
「数字か」
ふんふん、と腕を組み頷く美心。どーした。
「でも......数字は大切ですけど、もっと大切なモノがありますよね」
「それはなに?」
「環境です」
「環境......それなら尚更でしょ。クロノーツライブのがライバーにとってやりやすいことこの上ない」
「なぜわかるんですか?」
「え?」
「それってママの想像での話でしょ」
「いや、それはそうですけど......」
「ならわからないじゃないですか」
「ううむ」
「でもそれとは反対に確かな事があります」
「?、なに?」
「あたしが今いるこの場所、ママやパパ、スレ民さんリスナーさんに囲まれてライバー活動ができる......この環境。それがとても楽しくて、やりやすくて、ストレスが無いと言うことです」
「......ああ」
心の負担、ストレスが無いのは大きいな。社畜で心を病んだ身としてはわかる気がする。
良いプレッシャーによるストレスとは違う......下手に溜め込むと鬱になるやつ。
たしかに、新しい環境がいいとは限らないか。
「それに多分、クロノーツライブじゃあたし伸びませんよ」
「え、なんで?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
「決まってる?」
――彼女の瞳が潤んだ気がした。
「......ママがいないから」
美心がテーブルにうなだれ手を伸ばしてくる。そして、マグカップを両手で持つ私の指先に彼女の指が触れる。
どこか、切なそうに。そして、愛おしそうに。
「美心はさみしいとダメになります」
――ズキン、と心に痛みが走る。
かつて、彼女の前から何も言わず姿を消した私には、その言葉が深く刺さった。
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