第46話 詰めの甘さ 【コラボ】



―― 一定の距離を保ちながら並走するアリスと名無しの絵師。道中にある背丈を越える大岩や、腰まである草原をブラインドにし疾走していく。



『おおおお』

『さすがアリス!』

『うま』

『上手に逃げるなぁ』

『これなら行けるんじゃね?』

『でも辿り着いても浄化する時間ないんじゃ』

『た し か に』

『いやいやアリスががんばってるんだから応援しよーぜ』

『がんばれーーー!!』



名無しの絵師(いやマジで上手いな......【鬼】の方が足は僅かに早いはずなのに、障害物を上手く使って私に距離を詰めさせ無い......でも、まあ。だったら)



――ふと、アリスが気がつく。



アリス『あっ』



『あれ』

『アリスそっちじゃなくね』

『?』

『どーした名無しの絵師』

『真っ直ぐに走り出したぞ』

『もしかしてアリスじゃなくて他に行ったか?』

『あー』

『やべえじゃんww』

『どーすんねんw』

『鬼の方が早いから追いかけても捕まらんぞ。オワタ\(^o^)/』

『いや捕まえるとか出来ねえだろ』

『あ、終了ですかね』



アリス『......くそおおおおお!!』



叫ぶアリス。その大声は他プレイヤーが認識できるほどのモノだった。



『あああ』

『失敗』

『負けかぁ』

『あー』

『残念』

『名無しの絵師のが上手でしたなぁ』

『ううむ』



――しかし、その時。


名無しの絵師『あ』


彼女の足が止まった。


その目が見据える先、結界の水晶。それが既にもう完全に浄化済みだった。



名無しの絵師『やられた』



『どゆこと!?』

『あーららぁ』

『え、浄化されてる』

『なんでぇ!?』

『じゃきんじゃきん』

『どーしてえー』

『なんでアリスそっち走ってたん』

『これはもしや』

『わざとか』

『名無しの絵師が追いかけるのを止めるのを読んだ!?』

『うわあ!お姉ちゃんすごい!』

『さすがアリス』

『すげーな』



アリス『へっへっへーい!!うへへへー!!』



『笑い方ww』

『すでに近場の水晶に!!』

『忌魅子の仔もおる!!』

『最初からこっち浄化するつもりだったのか』

『わらいかたー!!』

『なるほどあたかも浄化してない水晶に走ってるとみせて、こちらが本命。先回りしようと動く名無しの絵師をハメたのか』

『アリスもしかしてさっき水晶の位置確認してから戻ってきたのか?』

『やるやん』

『多分、浄化の進行度も確認してたんじゃね』

『ええええ』

『ポンのくせに』

『やるときはやる系ポン』

『賢い娘さんですね?』

『わしの誇りです』

『ぱーぱ居るww』

『パパは出られないんすねww』

『いや出たいw地味にゲーム好きだからでたいww』

『出たいんだw』




名無しの絵師『......やるじゃない』



完全浄化された水晶。


その周りにはアリス、シロネ、忌魅子の仔、七海が集まっていた。



シロネ『アリスちゃん!うちらの勝ちだねっ!』

七海『まあMVPはアリスさんでしょうが』

忌魅子の仔『いやマジで凄い逃げっぷり』

アリス『ふへへへ、めっちゃがんばったよぉ』



『いや笑い方ーっ』

『ってあれ?』

『おまえら』

『んんん』

『これは......』

『まさか』

『あーららぁ』

『ん?青キジいね?』

『やばくね?』

『やるときはやる系ポン』

『わしの誇りです』




――カウントが始まる。




アリス、シロネ、忌魅子の仔、七海

『『『『え......あ!』』』』




ゲーム終了のカウントが目に入り、悠長に話をしている場合じゃないことを瞬時に理解した。


殆どの場合、時間切れまでゲームが長引くことは無く、やり慣れた忌魅子の仔すら劇的勝利の余韻にそれを失念する。



――そして、名無しの絵師はその隙を見逃さない。



七海『――しまっ』



タイミングをはかりジリジリと距離を詰めていた名無しの絵師。七海が気がついたその瞬間、間合いに入る。



そして――



――ザシュッッ!!!



巨大包丁を一閃。真っ直ぐ横へ薙ぎ払われたそれは、奇しくも1列に並んだアリス、シロネ、忌魅子の仔、七海を斬り裂いた。




そして、その瞬間。


彼女らの画面には髑髏のマークが現れ、ゲームが終了した。





勝者、【鬼】名無しの絵師。




シロネ『なーんでえええっ!!?』

名無しの絵師『ふぁーっはっはっは!!油断してんじゃあああねえええぜ!!?』

アリス『ああっ、あーあ......やらかしたぁ』

七海『ううぅ』

シロネ『くやしい、くやしすぎるよっ』

七海『......あんな幸せそうに鬼に運ばれといて?』

アリス『た、たしかに』

シロネ『ぎ、ぎくぅ』

忌魅子の仔『いや口で言うなしww』




――一回戦終了。





それからこのコラボは更に大きな盛り上がりを見せ、四試合を終えたところでお開きとなった。



クロノーツライブの人気ライバー、薄氷シロネ。インフルエンサーであり人気YooTuber忌魅子の仔。何故かマネージャーでありながらクロノーツライブのファンに多大なる人気を得ている七海。



彼女らとのコラボによりアリスのチャンネル登録者数は脅威の伸びを見せ、ついに30万を越えた。



そして、このライブでの同時視聴者数は10万人を記録。多くの人に視聴され後にそれがさらなる呼び水となり、アリスの人気はより飛躍的に伸びることになる。



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