第35話 緋色
――ガチャン、と扉が開く。
「ふぇ......!?す、すごい!!なにこれ!?」
「ふふっ」
そこには広々とした空間が広がり、先程いた広い会議室を二つつなぎ合わせたような部屋になっていた。
天井、壁あらゆるところにカメラが設置されており、これが何の部屋なのか私は直感的に理解した。
「ここって、スタジオ......」
「そう。主に3Dでの配信で使われる部屋ね。......そして、私にとってはライブステージでもある」
ライブステージ......歌。この人、やっぱり。
「多くの人が集まるライブ会場。それこそ、ここは、時としてライブハウスやドームをこえる人数が集まる超大型のステージになるの......凄いでしょう」
「......はい」
――転生前、あたしはニゴニゴ動画で活躍していた。そして、その活動で数度、オフラインイベントに呼ばれライブをしたことがある。
「これって」
「......なに?」
「ここで、生でバンド演奏するってことですか」
「ええ、そうよ」
そのライブは当時、同じく活躍していた「弾いてみた」ジャンルのバンド演奏と共に行うことが多く、あたしはバンド演奏での歌唱が苦手だった。
けど、楽しかった。
合わせるのが難しい生の音。だが、全ての音色が一つへ集約され、魅せる色は......恐ろしいほどに美しかった。
「......」
ステージから見渡す景色。眼前に広がる客席こそは無いが、その数を遥かにこえる人々が集まるステージ。
バンド演奏、難しくて......緊張して震えて、怖かった。でも、あの高揚感と全てが一つになる一体感は、あたしが求める音の一つだった。
(......歌いたい。ここで、走り回って、飛び跳ねて......この体で、全身で音を受けて......思いっきり、歌を皆に届けたい......)
「......さて、そろそろ行きましょうか」
東城さんが時計をみて促す。
「あの」
「ん?」
「なぜここに、あたしを......?」
「え?......ああ」
――彼女は真っ直ぐ、あたしの目を見据える。
「いずれ立つ場所だもの。見といたほうが良いでしょう?」
「......え」
「早くしてね。どちらが上か、教えてあげるから......この場所、ステージで」
「東城さん......やっぱり、VTuberの」
東城さんが私の横を過ぎる。おそらくは彼女もまた歌に自信のあるVTuber。
「......あたし、歌は負けません」
「!」
「だから、必ず......この場所で証明してみせます。......
「......ええ、楽しみにしているわ」
彼女の瞳が妖しい光を放つ。
「――最強のVTuber」
◇◆◇◆
「......あ、美心」
「ただいま」
帰ってきた美心。
「もしかして、道に迷ってた?」
「......あ、はい。少し」
「なんだ。呼べば良かったのに」
美心はニコッと笑う。
「いえ。そんな事でママの手を煩わせる訳にはいきませんよ」
「......そっか」
遠慮すんなよ!って言おうと思ったけど何故かいえなかった。
(......?、美心の雰囲気が)
「せんせえ」
「あい」
不意に橋田さんに呼ばれ、ふぬけた返事をしてしまう。
「せんせえはどのゲームが良さそうだと思いますか」
「んー、難しいですね......無難なのはラリオカートとかクラッシュシスターズとか、無人島人狼ですかね。人気があって良いかなと。橋田さんは?」
「そーですねえ、確かに人気は重要ですよね。それと、あとは旬のモノが考慮されれば尚良いかと」
「旬のモノ?」
「はい、旬のモノ。流行りのモノ。今でいうと、最近発売されて人気を博しているノケモン新作、モンファン新作、ゲットイーター新作あたりかしら......ちなみに私はノケモン購入してます」
「ノケモンいいですよね。私も大好き」
ってか、そうか。言われて気がついた......考えが美心の方に寄ってて考えれてなかった。より視聴者を呼び込むには、今の流行を理解しそれに乗ること......基本中の基本だ。
「確かに。旬のモノをやれば普段みてくれてない人たちも興味をもってくれるかもしれない。そこが導線になってチャンネル登録してくれるかも......」
「ですです」
にこにこと橋田さんが微笑む。しっかし綺麗な人だよな。笑顔が眩しすぎる......。
「えっとー、休憩終わりです。席についてくださーい」
えまちゃんのマネージャーさんが呼びかける。
「では、何をするか決めますよ。多数決しましょう」
私は聞く。
「多数決ですか」
「多数決です!もう時間も押しているので、それでどんどん減らして、最終的に一つに決めましょう。何かあれば都度意見してください」
確かに時間が無い。予定日まであと5日だし、なにするかだけでも決めとかないとだよね。
「では、始めますね――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます