第26話 じゃれあい
――7月。13:22、昼。
「お姉ちゃんココ違う」
「んげっ、まじで」
問題集を解く姉の間違いを指摘する妹。何故かその妹の蓮華さんは「ふふっ」と微笑んでいた。
「な、なんで笑ってるの?蓮華ちゃん」
「え?ああ......あんなにしっかりものだったお姉ちゃんがこんなにポン、じゃなかった。ミスしてるのがちょっと面白くて」
「おい待てや今ポンコツって言おうとしたな!?」
蓮華さんは首を横に振って否定する。そしてニコッと微笑みこう言った。
「そんなこと言ってないよ、ポンコツ」
「てめえええ!!」
ガタッと椅子から飛びつき蓮華さんの脇腹に食らいつく美心。防ごうとする彼女だったが、紙一重で間に合わずくすぐりの刑に処された。
「あはっ、やめ、あははは、ちょ!お姉ちゃん、し、しぬ」
「ぶっ殺す!!」
美心と蓮華さんの件があってから早2週間。いまや蓮華さんはお姉ちゃんである美心にこうして冗談も言えるようになっていた。
美心も美心で寂しそうな雰囲気はもう無く、とても元気そうにしている。この姉妹間の問題はもう完全に解決したと言ってもいいだろう。
それにしても......今の切り返し。相手が姉だからっていうのもあるんだろうけど、キレがあって良い返しだったな。
この二人が雑談コラボなんてしたら結構な同接数が出るのではなかろうか。
(ん?)
はたっ、と美心と目が合った。ジト目の彼女。
「なんでママもニヤニヤしてるのさ」
「......いや、特に意味は」
「ママもあたしのことポンコツだって思ってるんだ!!」
「ちょ!まてまて!!言ってねえから!!助けて蓮華さ......はっ!?」
気がつけばフローリングの床に倒れ、ぴくぴくと痙攣している蓮華さん。ガッ!ガッ!と彼女の頭を邪魔だと言わんばかりにお掃除ロボットが小突いている。
「れっ、蓮華えええええーーーーッッ!!」
あ、呼び捨てしてもーた。まあ、良いか。......あれ、ていうかこの子歳いくつだ?と、そんな事に気を取られている隙に美心に押し倒された。
「ま、まって、話し合おう!まだわかり合えるはずだ!」
蓮華さんの頭が横にある。そして真上、至近距離には美心のかわゆいご尊顔が。くそ、どきどきしちまうだろーが!!
にやあ、と邪悪な笑みを浮かべその雰囲気は今にも襲い掛かる獣のそれ。
「――終わりだ、倫」
「ッッ!!?」
なぜ下の名前(しかも呼び捨て)!!?いつもはママと呼ぶ美心だが、どうしてだかドヤ顔で呼び捨ててきやがった。ドッドッドッ、とまるで心臓を直接ゴリラにドラミングされてるかのような心音と振動。
――ピンポーン。
わきわきと動かしていた、指。それを振り下ろす直前、インターホンの音が鳴った。
「......」
「......」
「......」
三人とも瞬時に息を殺した。そして同時に脳裏に過る「あれ?うるさくしすぎた?これ、怒られるやつ?」という恐怖。
こりゃふざけとる場合じゃねえぞ、といった具合に美心が私の上からどいてくれた。そーっと音を立てず、彼女は見たことの無いような真剣な表情で、インターホンのモニターを見据えていた。
いや、そりゃそうか。騒ぎ出したのは美心だもんね。怒られるなら君だものね。ニチャア。
(てか、まじで誰だろう)
そう思いつつモニターを覗き込むとそこには、ふわふわの栗色髪に幼い顔立ち、そしてくりくりとしたおめめ......まるで天使様のような女の子が立っていた。
(うわあ、何だこの子。小せえ......クソかわええ。ああ、語彙力死ぬぅ)
私はモニターのマイクをオンにして応答する。
『あ、遅くなってすみません。岡部です〜』
そう呼びかけると、インターホン前の彼女はパアッと表情を明るくした。その時、私は「ん?」と疑問を抱く。
『あーっ!こんにちはっ!わたし、隣に引っ越して来た白雪って言います!ご挨拶に伺ったのですがっ』
(......白雪?)
聞き覚えのある......が、しかし割と珍しい名字。そしてこの天使のような容姿......ああっ!?
『今開ける!ちょっと待ってて!!』
『?、はい!まちますっ!』
その言葉尻を合図にダッシュで玄関先へと向かう。そしてすぐにドアチェーンを外し、ロックを解除。ガチャリと開いたその先には彼女、白雪えまちゃんが居た。
「あ、初めまして、白雪......って、あれ?倫ちゃん!?」
目をまんまるにして驚くえまちゃん。いやこっちが驚く可愛さーいうて!
「......あの、お友達ですか?」
蓮華さんが後ろから顔を覗かせる。
「あ、うん!お友達でありお客様というか」
「イチ、ファンと言いますかっ!」
えっへんと胸を張るえまちゃん。なんやこいつ可愛すぎーっ!
「あ、なるほど。それじゃあ私とお姉ちゃんはそろそろ帰りますね......」
「え、なんで!?」
「お邪魔したら悪いので......」
蓮華さんが申し訳無さそうにそう言うと、えまちゃんが首を振る。
「いえ、今日はご挨拶にと思って来ただけなのでっ!また改めて遊びにこさせて貰おうかな?ね、倫ちゃんっ!」
「ん?おお、むしろ私がそっち行くよ」
ウチは美心の配信あるしね。バレてもあれだし。
そんな事を考えていると、えまの視線があるところへ釘付けになっている事に気がついた。その視線の先を追ってみると、そこには蓮華さんの後ろに隠れながらもジーッと様子を伺う美心の姿があった。
「あの子は......」
えまがぼそりと言う。
「ああ、彼女はそちら蓮華さんのお姉さんで美心っていうんだ。美心挨拶は?」
「......あ、はい」
借りてきた猫みたいに大人しくなったな、美心。人見知りとかするタイプでもあるまいに。もしや、えまちゃんみたいなタイプ苦手なのか?
「初めまして、美心です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる美心。その時、えまちゃんがボソリとこう言った。
「......美心ちゃんって、もしかして......VTuberの紅莉アリスさん?」
きょとんとする美心。何がおきたかわからずぼーっとしている蓮華さん。そしてドクンと大きく心臓が鳴り、平静を装いつつも内心ビビり散らかしてる私。
......え、なんで?声でわかったの?
三人とも誰も一言も発せずに固まっていると、えまちゃんが口を開き再び衝撃的な事を述べた。
「あ、あのねっ、わたしもVTuberやっててっ!薄氷シロネって言うんだけど、知ってるかなっ?」
......薄氷シロネって、え?もしかして、あの大手VTuber事務所の......え?
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