第24話 最初の一歩が重要。
『――だから違うってぇ!』
楽しげな雑談が繰り広げられ、それを私と蓮華さんが横から見ていた。どんな風に配信が行われているかに興味があるらしく、それならばと美心が誘い配信部屋に来て彼女の配信を二人で見ていた。
(......立ちっぱなしだけど、蓮華さん辛くないかな)
横目でちらりと蓮華さんを見ると、アリスとリスナーのやりとりに「くすくす」と笑う彼女がいた。
配信中なのもあって両手で口を覆って声が漏れないよう配慮していたが、こんな風に笑うんだなと見たことがなかった笑顔に私は少しドキッとした。
『えー、NAR○TOの忍術が使えたら何が良いか?んー、そーだなあ......あたしは多重影分身の術かな』
『え、推しの忍術じゃないんだ』
『千鳥じゃないのかw』
『え』
『あら?』
『なぜ』
『どうしてw』
『唐突な影分身』
『だってさあ、多重影分身の術ならたくさんバイト掛け持ちできるじゃん!!』
『バイトw』
『あー』
『なるほど』
『死ぬぞww』
『忙しいもんね』
『確かにチャクラの限り稼ぎ放題だなww』
『なおチャクラを大量に消費する模様』
『え、禁術...』
『素晴らしい着眼点』
『え、天才か』
『いいやん』
『アリス吸血鬼の姫だからチャクラ多いのでは』
『いいじゃん』
『流石』
『すげー稼げるw』
『でしょー!なんなら一人コラボも出来るし!!』
『分身と!?』
『それはコラボなのか』
『面白いかも』
『草』
『それは草』
『分身で人狼!?』
『でも皆ポンでしょ?』
『え、『皆ポンでしょ?』?......今、あたしの分身に忍具持たせて君の家におくったから!今夜は震えて眠ってね!!』
『ヤバい』
『怖い』
『怖ッ』
『www』
『いやウェルカムだろ』
『うちにも送って』
『幾らっすか?』
『頼む送ってくれ!!』
『いくらでも払うぞ』
『きてくれええ』
『皆今のうちに予約しとけww』
『えええっ!?なにそれ!?全員応募者サービスみたいな!?......仕方ない、わかった。サービスで起爆粘土もつけとくわ!』
『やべええええ』
『家が吹き飛ばされるww』
『起爆粘土はいらん』
『いらないwそんなサービスはいらないww』
『いや怖いわ』
『ええええ』
『マジで!?』
『なんという』
『今から入れる爆発保険ってありますか』
『え、ここ戦地?』
『だれかああああ!!雷遁つかえるかたああああ!!』
――同時接続数68963。登録者数86339。
◇◆◇◆
――美心をタクシーに乗せ、彼女の家へと送る。ご両親との約束で配信等で帰宅が遅くなる場合、タクシーで直接家へと送ることになっていた。
美心が帰宅し、部屋には私と蓮華さんだけが残り、彼女は私のPCを眺めていた。
「......なんか珍しいですか」
私が彼女へ問いかけると、こくりと頷いた。
「これ、絵を描く機材ですよね?」
「ですです。私、一応イラストレーターでして」
「それじゃあ、もしかしてアリスのモデルも岡部さんが?」
......言っても問題は無いか。いや、というよりあんまりこの人に誤魔化したり嘘をついたりしたくない。
「ですね。......ちなみに自分のイラストモデルを描いた絵師のことをVTuberはママって呼ぶんです」
「あ、だからお姉ちゃんは岡部さんの事をママって」
「ですです。ちなみにパパというのも存在していて、そちらは別の方で、VTuberの動きを担当している2Dモデラーという人ですね」
彼女は両腕を組み「ふむふむ」と相づちをうつ。
「ただ、アリスのデザインは私が考えた訳ではないですけどね」
「......?」
首を傾げる蓮華さん。可愛いな。
「蓮華さんはAチャンねるというネット掲示板をご存知ですか?」
「!、それなら耳にしたことがありますよ」
「私、そこでお絵描き系のスレを立てていて、そのスレの皆でデザインを出し合って生まれたのがアリスなんですよ」
「......それって、みんな顔も本名も知らない誰かって事ですよね」
「ですです。ネット掲示板なので......あ、ちなみにこんな感じですよ」
私はPCを操作し、いつものお絵描き掲示板のスレを表示した。
「......たくさんの人が書き込みをしてるんですね」
「はい。皆、ここに描いたイラストを貼ったりして、アドバイスをしたりしてもらったり、切磋琢磨して上手くなっていく......そういう場所なんです。まあ、関係ない雑談も多い気もしますが。ははは」
話しながら過去のスレッドを開いていく。すると、アリスの初期デザインが現れた。
(......懐かしいな。と言ってもそれほど昔じゃないが)
最初の頃はよくアリスを獣人か聖女か、はたまたエルフにするかで意見が割れていたな。結局はそのどれでもなく、吸血鬼のお姫様に......しかも猫耳つきになった。
今思えば猫耳をゴリ推してきたのは美心だったんだよな。
「......凄いですね」
「?」
「本当にみんなで......案を出し合って、試行錯誤しながら作っていったんですね。アリスは」
「ですです。だから、みんな自分の娘のように可愛く思ってますよ。ちなみに初配信ではほとんどがここのスレの人間でしたね......いや下手するとスレ民だけだったかも」
「ふふ、楽しそう」
ぼそりと一言。蓮華さんがそう言った。
「......蓮華さんもこういうのに興味出てきました?」
「え、あ......その。なんですかね、ちょっと仕事で疲れてて......イラストレーターとかVTuberとか、好きなことでお仕事できてる人って楽しそうで良いなって」
......ああ、そういう。そうか、美心と同じか。
「あ、いや、違うんですよ!変な意味じゃなくて、凄いなって!......好きなことを仕事にするなんて、私には絶対無理だから」
「そんな事無いですよ」
蓮華さんが顔をあげ、ぱちくりと瞬きをした。
「試しに......やってみますか?VTuber」
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