第23話 姉妹だから。


「お、お邪魔します......」


「いらっしゃいです。どーぞどーぞ」


5月23日、22:12――


私の部屋で待つ美心の元へ蓮華さんが到着した。仕事帰りなのだろう、あの日と同じスーツ姿で少し疲れた表情をしている。......つーか、思えば初めて会ったあの日、休日出勤だったんだな。


ふと蓮華さんが口を開く。


「あの、メール......そのすみませんでした。私、無視してしまって」


視線が泳がせ、右手で左の袖をギュッと握りしめている。


「それは気にしなくて良いですよ。......というか、こちらこそごめんなさい。私のせいで......」


私のせいで......どういったら良いかわからないけど。伝わったようで、蓮華さんが首を振る。


「いいえ、岡部さんのせいじゃないです。警戒して当然ですし......私が悪かったんです。なのに八つ当たりみたいなことしてしまって......本当にすみません」


その時、頭を下げる蓮華さんが気がつく。居間から覗いている美心の視線に。


「......あ」


今日まで二人共、お互いに気が引けてしまったようで連絡を取り合うことは無かったみたいだった。


目が合うと、蓮華さんが逸らす。


「......えっと、美心さん......あなたにも、酷いこと言ってごめんなさい。少し気が昂ぶっていて......言い方、傷つきましたよね。だから――」


美心は、一歩一歩と蓮華さんへ歩み寄る。私の横を通り過ぎ、やがて蓮華さんの元へたどり着く。そして


「――わ、私ができることならなんでもします、だから......許してください」


――ぎゅむ、っと。


美心は、蓮華さんの頭を抱えるように抱き締めた。


「......許すよ。だって、あたし蓮華ちゃんのお姉ちゃんだもん」


その言葉を聞いた蓮華さんも、やがてゆっくりと美心の体を包むように腕を回した。ポロポロと落ちる涙の粒と、漏れる嗚咽に堪えていたものが流れ出し、こうして二人の姉妹の喧嘩は終わった。


――ピーッと炊飯器の音が鳴る。


「......ご飯、食べていきます?」


「いえ、それは悪いので......って、今から夕飯ですか?」


時計を見る蓮華さん。時刻は22:21。


「あー、いや美心がね。配信終わったらお腹空くみたいで、それように」


「ママの作るご飯めーっちゃ美味しんだよ!」


得意げに誇る美心。ちなみに言うと今炊いたご飯の余りは明日の美心の朝ごはんになる。おにぎりね。


「なるほど......」


「蓮華さんもうご飯済ませてました?」


「あ、いえ、夜はいつも食べて無くて......」


「えー、それじゃあ食べようよ!」


蓮華さんの手を握り美心が目を輝かせる。


「......うん。それじゃあ、少しだけ」


美心の笑顔に折れる蓮華さん。なんとも微笑ましい光景である。てえてえ。


「蓮華さんは苦手な物ありますか?」


と、私が聞くと。


「椎茸!!納豆!!オクラ!!」


美心が答えた。目を丸くする蓮華さん。


「そうなの?」


「は、はい......それと」


「「トマト」」


重なる美心と蓮華さんの声。美心は蓮華さんの顔を見てにやりと笑う。ドヤ顔である。


「......あの、美心さん」


「ん?トイレはあっちだよ」


「や、違くて」


もはや自分の家レベルで物を言う美心。いや娘だしもはや家族レベルに思ってるから良いんだけど。


「なに、蓮華ちゃん」


美心が聞く。すると蓮華さんは俯き、言いづらそうにしていたが、やがて口を開きボソリとこう言った。


「......その、美心さんのことお姉ちゃんって呼んでも良いですか」


「うん!!」


ノータイムだった。美心は満面の笑みを浮かべ、蓮華さんに答える。


「でもさあ、それだったら敬語やめて欲しいんだけど」


「.......あー、わかりました」


「ん?」


「......わ、わかった」


「うんうん」


撫で撫でと蓮華さんの頭を撫でる美心。照れてる蓮華さんかわええなあ。


それを横目に私はご飯の支度をする。メニューは昼間こさえた豆腐ハンバーグ。それに玉ねぎサラダと、麦飯(炊きたて)。


ジューッ、と油を敷いたフライパンに落とされたハンバーグの音が鳴る。焼け目がついたらひっくりえして、蓋をして蒸す。


これ、ネットでみつけたレシピ。少し検索すればこんなに美味しいレシピが簡単に見つかるなんて。いい時代になりましたなあ。


(.......あとは麺つゆと片栗粉でソースつくって完成)


「お姉ちゃんはなんでVTuberになったの」


「寂しかったから」


「そーなんだ」


「いまのあたしん家ね、結構貧乏なの。それでバイトしまくりの毎日なのね。でもでも、周り見たら遊んでる友達ばっかでしょー、だから寂しくってさあ。でもでもVTuberって色んな人とお話できてさ、しかもお金も稼げるというじゃーないですかッ!それに歌も歌えるし、良いなあって!」


「そうなんだ。すごいね、ふふっ」


めっっっちゃ喋るな美心。すごい楽しそう。


「はい、おまちどー。美心、ご飯よそって」


「はーい!」


蓮華さんの前にハンバーグとサラダを置きつつ、美心にお願いする。


「......ありがとうございます」


「おあがりよ」


私はドヤ顔をした。その時蓮華さんが小声で「......ソーマか」と言ったのを聞きいて(え、知ってるの!?)と内心テンション上がっていた。



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