第22話 あいつかあああああ!!


――配信が終わり、美心が帰宅。私は珈琲を淹れPCの前、椅子に腰掛けボーッとしていた。


あの歌配信の後、蓮華さんから私にメールが着た。


『すみません。もう一度お会いしたいです。謝罪をさせていただきたいです。虫の良い話だとは思います。ですが、どうかお願いします』


それをチャットのメッセージと共に美心へ伝えると、わんわんと大泣きしてしまった。それを、なだめるのに実に一時間を要したが、けれど憑き物が取れたように穏やかになった美心の表情に私は安堵した。


(......がんばったね、美心)


流石私の娘だ。


けれど、こんな生まれ変わりなんて話しを相手に信用してもらう事は本来難しい。絆の強いこの二人だからできた事なのかもしれない。


だとしたら、私は......美心に信じてもらえるだけの絆はあるのだろうか。


それだけの物が、彼女と、遙華と築けていたのか。


言いようのない不安が心の端を滲ませた。


――その時、ポーンとメールが入った。差出人はパパである秋葉。


『上手く言ったようでなによりだな!』


今回の立役者。演出関係を調整、色々な案もくれてすごく助かった。


『ありがとう』


『いえいえ〜!』


秋葉には美心の姉妹喧嘩の話もしてある。勿論、美心の許可を得てだけど、それを知っていてもらった方が演出もやりやすいかと考えてこれを打ち明けた。


転生の話はしてあるけど、『なるほど』と一言で返されたことからあまり信じてもらえてないような気がする。いや、ふつー信じないけど。私は私自身が転生者だから受け入れられたけど、パパはそんなことないだろうから難しいところである。


『ところで例の件いーい?コミケの〜』


毎年恒例のコミケの売り子の話。このタイミングで聞いてくるのは流石だ。まあ、いつ聞かれても断らないけど。


それだけこの人には他の事でも助けられてるから。


『勿論。またいつもの可愛い子くるの?』


『おう、行くぜ。お気に入りだねえ』


『あの子と話すの楽しいからねえ』


『はっはっは。そりゃ嬉しいねえ。ほいじゃ8月頼むぜ』


『あいよ』


嬉しいねえ?もしかしてあの子、秋葉の姉か妹なのか?だとしたら名を名乗らないのにも納得がいく。毎回約束すっぽかす秋葉の姉妹と知られればちょっと気まずくなるよな。


(......気まずくなる、か)


美心と蓮華さん。これからまた会うことになるけど、大丈夫なのかな。あの蓮華さんから送られてきたメールの文面からして、結構激しく言い合ったようにみて取れるけど。


私もついていった方が良いよね。


ちらりとカレンダーを見る。5月16日。


(......そういえば、私もちゃんと謝らないとな。元はと言えばあんな喧嘩を招いたのは私が卑怯な作戦をつかったからだし。......蓮華さんと美心が会うのは来週、5月23日)


――ポーンと再びメールが入る。差出人はとある個人勢VTuber。


内容はコラボのお誘いだ。実のところ最近こういうお誘いが多い。おそらくは伸び方がえぐいアリスに乗っかろうとしているのだろうけど、こちらにはメリットが無いモノが多いためコラボの実現には至っていない。


美心はVTuberでお金を稼ぎたいと言った。ならば、そこは打算的にいくべきだし、欲を言えば美心が楽しめる相手がいい。


まあ、コラボに至らないのはそのどちらも考慮した結果でもある。


(どこかの箱とコラボできれば大きいんだけど......驚異的に伸びているVTuberであるアリスでも、さすがにそれは難しいだろうな)


まあ、色んなところにお誘いのDMはしているんだけどね。とりあえずやれることはやる精神で。



――登録者数63339。



破竹の勢いで増えていく数字。その時、ふと思い出した。


「あ、そういえば......忌魅子の仔さん!やばい、最近ばたばたしてて完全に忘れてた!」


忌魅子の仔さん。Pwitterフォロワー10万人越え。YooTube登録者数73万人越えのYooTuber。


そしてアリスの生配信で切り抜きを制作し、Pweetで拡散してくれている人。


ふと、思った。この人、女性だよな......コラボ相手に良いのでは?


(......今度、美心に聞いてみよう)


そんな事を考えながら私はお礼のメールを忌魅子の仔さんへと送った。ふう、と一息つき珈琲をあおる。するとすぐに返事が返ってきた。


『ご丁寧にありがとうございます。こちらこそいつもお世話になっていて、とても嬉しく思っております。スレではいつも仲良くしていただいて、感謝しています』


いや、すごく丁寧。『うおおおお!こちらこそおおお!!』とかきたら引いたけど、ちょっとイメージと離れすぎた丁寧さでびっくりした。マネージャーかな?


そう思いながらも最後までメッセージを読み進めると、ある部分でひっかかった。


......スレではいつも仲良くしていただいて?


「え?」


もしかして、スレって......お絵描きの?あそこの住人てこと?この人。


『すみません、スレってお絵描き板の事ですか?ちなみにマネージャーさんですか?』


――ポーン


『いや!!おれだぜえええええ!!!うおおおおあおおお!!!......キャラ作っててすみません。これウケるので』


あいつかあああああ!!!




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