第20話 ある冬の日に。
――始まった歌配信。画面にアリスの姿、そして背景には雪に彩られた街並みが描かれている。
今回の為に私はいくつかイラストを描き下ろした。2日間まるまるを生贄に召喚したそれらはコストに見合った良いクオリティになっているんじゃないかと自分では思う。
ただ、まあ蓮華さんがこの配信を観てくれているかは賭けになるし観てくれてなければ話にならないんだけど。でも、やれることはやらなきゃ。......だって、やらずに後で後悔しても遅いんだから。
それを私と美心は痛いほど知っている。というか実体験であじわっている。
『え、なんで雪?』
『しかもクリスマスツリーある』
『冬歌縛りか?』
『どゆこと?』
『今、五月なんやが』
『ポン?』
『でも綺麗だな』
『ふつくしい』
『アリスのクリスマス配信か』
『何歌うんだろ』
『これはこれで良いねえ』
チャット欄では冬一色の背景に疑問の声が溢れていた。けれど、受け入れてくれているリスナーもちらほら居て多少気持ちが和らぐ。アウェーだと美心が集中して歌えない......。
そして、アリスが歌い出す。イントロの無い、冬の名曲。
『――♪』
『お』
『おおお』
『うめええええ』
『マジで高音綺麗すぎ』
『安定感もはんぱねえ』
『うま』
『やばい』
『この曲なに?』
『あれだろ』
『あ、知らんの?』
『名曲』
――『初めての恋が終わる時』
アリスの声色が温かい。切なさと優しい想いが混ざり合い、絶妙な聞き心地になる。そして、ラストのサビへと入る間奏。
画面が白い雪に覆われる。
『え、なに』
『真っ白!』
『放送事故か?』
『みえねえええええ』
――フッ、と雪が止む。
『は!?』
『すげえええええ』
『おおおおお』
『んだこりゃあ』
『新衣装!?』
『すげえ』
『これはやばい』
『すごww』
『ちょw』
ラストのサビに入ると同時に現れたアリス。その姿はショートボブのヘアスタイルと、ワインレッドのコート。
これはあの頃、遙華が着ていた服に似せて私が描いたデザイン。
そしてこの衣装への変身はパパに相談して案をだして貰った。
流石はアリスのパパだ。いざという時やる奴だぜ。
そして一曲目が終わり、次の曲が始まる。
前奏がゆっくりと流れ、アリスの背景が切り替わる。
大きな夕陽、照らされるビル群、歩く二人の姉妹が描かれているイラスト。
――『glow』
『ああああ!!』
『胸がくるしいい』
『あ、そういう事か。タオルもってくるわ』
『くっそ名曲』
『泣ける』
『あかん、これはあかん』
『もしかして泣かしにきてるんすか』
『駄目だ、上手いし泣く』
『これ好き』
『懐かC』
『久しぶりにきいたわ』
『ええなあ』
『俺この曲一番好き』
『アリスの声合うわー』
『気持ちこもっとるな』
『なんかいつもと違う感じするね』
『迷いが無くなったな』
『いいいい!!大好きいいいい!!!』
『すごい』
『あかん干からびるわ』
『目から塩水が』
『心に沁みるう』
――寂しい、そんな気持ちが込められた歌声。
きっと蓮華さんもそうなんだ。だから、姉の影を追い続けている......私もそうだった。
転生して、ずっと彼女の歌声を聴きながら生活し続けていた。
もう触れられない肌の温もりと、優しい声と、明るい笑顔。
目を閉じれば鮮明に。
こみ上げるこの思いは、言葉だけでは共有することは叶わない。
だから――
背景がまた切り替わる。暗い夜空、星が輝く冬の空。
浮かぶ月から涙が零れ落ちるように、流れ星が奇跡を描く。
それを見上げる二人の姉妹。
――『星に願いを』
バラード風に調整された『星に願いを』。優しいピアノの旋律が響く。
『あああ』
『いい』
『これはこれで良いなあ』
『素敵やん』
『さいこおおおおお』
『うおおおおおおあ!!これはあああああ!!いいぞおおおおおお!!』
『しみるわあ』
『綺麗な音』
蓮華さんは16歳の頃、遙華と二人で北海道旅行へ行ったことがあるらしい。その時にみた満天の星空がずっと記憶に残っていると、美心が言っていた。
それをイラストで表現してみた。美心に聞きながら、二人の見る景色が違わぬように、丁寧に確認して。
(観てるかな、蓮華さん.......)
――言葉だけでは届かない。でも、ゲドウツクルは......遙華は言っていた「そういう時のために歌があるんだよ。伝えられない想いを誰かに伝えるために」
今がその時。だろ?美心。
(......届け、美心の想い)
二人はもう一人じゃ、孤独じゃない。
――『星に願いを』が終わり、次の曲が始まる。
メロディが流れだし、リスナーが反応しはじめた。
『またもや懐かしい曲を』
『おお』
『毎回思うけどアリスは結構お姉さん?』
『これ聴くと昔思い出すわ』
『わしも』
『仕事してなかったわー、俺』
『俺は社畜でしにそうだた』
『懐かしいなあ』
『懐古厨だらけww』
――『ジェンガ』
多分、美心は歌うことであの頃を思い出し、辛く苦しくなっているんだろう。でも、それでいい。その気持ちを彼女へ伝えるんだ。
繋ぎ止めよう、君の......歌で。
大切な人を。
――曲が終わり、美心は深呼吸をする。そして......
『こんばんは、アリスです。みんな待ったかな?』
蓮華さんへの最後のメッセージを残すため、雑談へと入った。
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