第八話 蒼井が行方不明?!《前編》

 食事を一緒にとりたかったが、先に炎真は部屋から出ていってしまった。学食ルームへ行ったのか、どこに行ったのかはわからないが。


 蒼井も学ランに身を通し、学食ルームへと向かった。


 矢野はいないかな?と思い少し探してみるが、人が多くて見つからなかった。仕方ないので今日は一人でご飯を食べよう、そう思いお盆を手におかずを取る。


 空いている席を見つけ、一人座り食べ始める。


 魚に着いている小骨を丁寧にちょこちょこ取っていると、影がかかった。その影の正体を見ると物凄く可愛い女の子がこっちを見ていた。


「隣、いい?」


 と、空いている隣の席を指さしニコッと笑う。


「あ、は、はい!どう……ぞ……」


 ありがとうと言って隣に座る、甘い香りがふわっとする、可愛らしい桃色のロングヘアーだ、毛先がくるんと巻かれていて可愛さが倍増。つい可愛くて見てしまう。


「ん?どうしたの?」

「あ!ご、ごめんなさい!」


 蒼井は顔を赤くし謝罪する。


 その女の子は肘を机につき両頬に両手をやり蒼井に問いかけた。


「中等部にはいなかったよね?もしかして転校生?」

「は、はい!そ、そうです」

「ふふ、そうなんだ、私の名前は桃瀬 透ももせ とおる、ももちゃんって呼んで欲しいな?」


 そううるうるとした瞳で言われると胸が高鳴る。


「お、俺は蒼井 翼と言います」

「翼くんね♡ぜひももと仲良くしてね?」


 か、可愛い!!つい口に出したくなるほどの可愛さだ。


「一人でご飯だなんて寂しいね、同じ部屋の子と食べないの?」

「あまり仲良くなくて……今日も先に行っちゃって……」

「ふぅん……じゃあももが一緒に食べてあげる♡」


 優しいー……人の優しさが心に染み渡る、やはり炎真の心無い言葉は心に突き刺さっているようだ。少し会話を弾ませながら食事をしていると桃瀬は蒼井の箸使いに凄いねと褒めてきた。


「綺麗に食べるね、さんまさん」

「え?そうかな……気にしたこと無かった」

「ご両親の教えがよかったのかな?」

「“ご両親”……?」


 そういえば……蒼井はふと疑問が出た。


 俺の両親はどこにいるんだろう、と。


 記憶にあるのは地獄に落ちてからだ、その前の記憶がどうしても思い出せない。でも名前や誕生日など基礎的なことは覚えている……のに、両親の事やそれ以前の記憶がどうも出てこない、名前も顔も。


 なんて考えていると桃瀬が「大丈夫?」と問いかけてきた、慌てて蒼井は「大丈夫!ちょっと考え事しちゃって……」と誤魔化した。


 食事を済ませ、お盆を下げる。


「もも、四組だからここでバイバイだね」

「あ、そっか……じゃあ、また……」

「待って!LINE交換しよ?」

「LINE……?いや、俺は……」


 携帯なんて持っていない、そう答えようとした時、ふと右のズボンのポッケに振動を感じなんだろうと手を突っ込みそれを取るとスマートフォンがあった。


 スマートフォンなんて持ってなかったし、ポケットに入れた覚えもないのにな……と思い電源を入れると一通のLINEが届いていた、その宛名は“パパ”と書いていた。


 まさか……閻魔大王?そう思い中を開ける。


『蒼井君へ、サプライズ♡これでいっぱい友達作るんだよ』


 いつの間に……とびっくりしながらも、心の中で感謝した。友達リストは閻魔大王の一人だけかと思っていたら“二人”になっていた、名前を見るとそれは“炎真 眞斗”と書かれていた。


 これもまたいつの間に……俺の名前を見て携帯壊してないか心配だな……そう思っていると桃瀬が「翼くん?」と声をかけてきてハッとする。


「ご、ごめんなさい!えと、どうやって交換するんだっけ……」

「QRコード出して!……そそ!それそれ」


 ピッとQRコードを読み取り桃瀬は「ありがとね♡」と言い足早に学食ルームを出ていった。姿が消えたのを見送り自分も一旦部屋に帰ろうとスマートフォンをポケットになおそうとしたらブブッとバイブが鳴った。


 桃瀬からの可愛らしいうさぎのスタンプでそこには「よろしくね♡」と書かれていた。


 LINE上でも可愛い……と和んでいる蒼井だった。


 しばらくして、自分の教室へと向かう、そこには炎真はいなくて一限目のチャイムが鳴り出しても炎真は現れることは無かった。炎真にLINEで連絡をしようかな……なんて考えてみたが、きっと出ないだろうと思い今日はやめておくことにした。


「あれ?眞斗は?」

「うーん……朝から見てなくて……サボりかな?」

「ははっ、中々やるなーアイツ」

「おまえらー授業を始めるぞー」


 そう先生は言い、授業が開始された。


 ……


 ……


 四時限目も終わり、昼ごはんの時間になった。


「ふぅー疲れた……なあ翼!……あれ?」


 後ろを振り返ると蒼井の姿が居なくなっていた。いつの間に……と思いながらも学食ルームに先に行ったのかな?と思い気に停めず矢野は他のクラスメイトと共に学食ルームへと向かっていった。


 昼ごはんも終わり、授業が開始される。


 ……


 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムがなり放課後。結局蒼井はあれから帰ってこなかった。


「もしや眞斗の所にいるのかなー?……眞斗の行きそうなところと言えば……」


 ここだ!そう思い足早にその場所へと向かっていった。


 炎真はというと屋上で寝転がっていた。


「お?やっぱここにいんじゃーん、ヤンキーのたまり場と言えばここだよなー!」

「あ?んだよテメェかよ晴道、つか誰がヤンキーだ」

「おーおー覚えてたのか名前!」


 当たり前だろ、エンマ舐めんなよ何人の死者裁いてきたと思ってんだよ、名前覚えるくらい簡単だ。


 とは口に出して言わずそっぽ向いて寝転がったままだった。


「そーいやLINE交換してないよね?交換しよー」


 そう言い矢野はスマートフォンを取り出した。

 

「LINE?なんだそれ」

「またまたぁ……LINEを知らない若者はいないよー?」

「知らねぇ興味ない」


 そう言っていると、ブーブーと携帯の鳴る音が微かに聞こえる、矢野は手にスマートフォンを持っているので自分のものでは無いとわかった、じゃあ残るは……。


「眞斗のじゃないのか?」

「あ?……チッ」


 炎真はスマートフォンを手にし、画面を見ると嫌な顔をして画面をタップするとバイブ音は無くなった、どうやら切ったみたいだ。そしてポケットに入れ直しふて寝をする。


「もしかしてー翼?」

「……」

「あたりぃ?出てやんなよー意地悪だなぁ」

「めんどくせぇんだよ……ほっとけ」


 右に向いてふて寝をする炎真、左ポケットにスマートフォンを入れている……チャーンス。


「とうっ!」

「ああ!?テメ返せ!」


 ポケットにズボッと手を入れスマートフォンを奪い取る、パスワード設定をしていないようで簡単に開くことが出来た。炎真は起き上がり矢野を追いかける、だが矢野はさらりと避け蒼井に電話しようとする。


「余計なことするんじゃねぇよ!」

「電話だよー?なんか重要なことかもしれないじゃーん?蒼井、昼にLINE交換しようと思ったけどいなくてできなかったしー」


 着信履歴から蒼井を見つけタップする、プルルルルとコール音が二回し、出た。


「もしもーし!翼ー?っ、あ、ちょ!!」


 炎真はスマートフォンを蹴り矢野から取り上げた……というより蹴り飛ばした。カランカランとスマートフォンが転がっていく。


「あーあーあー……眞斗ー……」

「ふん」

「……け、て!!」


 飛ばした携帯から音声が聞こえてくる、どうやら矢野は蹴飛ばされる前にスピーカーをタップしていたようだ。スマートフォンから蒼井の乱れた息遣いと声が聞こえた。


「……翼?どうしたの?」

「はぁっ、はぁっ……た、助けて!!」

「あ?」

「なになに、何事??」


 飛ばしたスマートフォンに二人は近付いた、矢野はスマートフォンを拾い蒼井に問いかけた。


「どうしたの?」

「今っ、にげっーーー」ガチャガチャガチャ!!


 と、携帯の転がる音がして少ししてブツっと電話が切れた。


「翼!……これ……やばくない?」

「……」

「翼ってさ……謙虚じゃん?だから無駄に電話とかしてこないと思うんだよね……だからマジやばい状況かも」

「チッ!」


 炎真は屋上から出て階段を上から下へ飛び降りた。


「どこ行くんだよ!」

「うるせぇ!わかりきったこと聞くんじゃねぇよ!」

「ははっ、まーそうだよね」


 毛嫌いしてたから探しに行かないと思ってたけど、流石に心配になるよねー。なんて矢野は内心思いながら炎真の後を追った。

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