第六話 柔道部へようこそ
廊下をぬけ、三人は歩いていく。とある教室を指さし「ここだよ」と言って入っていく。矢野に続いて二人も入る、そこは少しホコリっぽく壁には何十枚もの畳が立てかけられていた。
「一人だから畳を運ぶのに何日もかかっちゃってさ、まだ部室って感じはしないけど、ここが俺の部室、柔道部!」
「柔道部……?」
確か校長先生と閻魔大王と炎真の四人で学校内を見て回っていた時、部活の話になった時があった、その時柔道部の名前も上がっていたような。
「あと一週間で部員全員合わせて三名になれば正式に部活として活動してもいいって言ってくれてるんだけど……この高校は中高一貫で中学からそのまま部活を続ける子が多くて、中々入ってくれる子がいないんだよね」
「そうなんだ……ハルが柔道してるのってなんだか意外」
「へへ、そうか?」
「くだらね、帰っていいか?」
そう炎真はいい扉に手を伸ばすがそれを阻止するかのように矢野は扉の前に立ち両手を広げた。
「まーまー、試しに俺と一戦交えないか?」
「オレとオマエとで?誰がやるかよ」
そう言い矢野の肩を押しのける。
「負けるのが怖いんだー!」
ピクっと炎真は反応した。
「そんなんじゃねぇよ!」
「じゃあやる?」
「ああやってやるよ勝負だ!!」
炎真って……挑発に弱いみたい。
隅にしかれている数枚の畳の上に矢野は上がった、学ランを脱ぎ蒼井に渡す。
「だ、大丈夫なの?」
「まー……見てな?」
「おい!終わったらオレは帰るからな!」
「わっ」
続けて炎真も学ランを脱ぎ蒼井に向かって投げつけた。
畳に上がり、お互い見合っている。矢野は蒼井に勝負の合図を求めるために目を合わせ頭を少し下げた、蒼井は理解し緊張の中声をあげた。
「しょ……勝負開始です!」
蒼井の声はなりきれていない部室に響いた。最初に勝負に出たのは炎真だった、早くこの勝負に決着をつけるという意思が強く伝わってくる、胸ぐらをつかみ押し合う。
しかし矢野は冷静で、鋭く、丁寧に交わしていく。
炎真の技が乱雑に見えるほど、矢野の攻撃は丁寧で正確だった。が故に、勝負は見事に決まった。
足を軽くひっかけそのまま倒す、それを阻止するかのように片方の足に力を入れる炎真だがそれは見破られていた、ブラフだったのだ、矢野は炎真を華麗に背負い投げした。
衝撃的な場面に蒼井は声を出すのが出遅れた。
「勝負、あり……」
「ふう……、ど?くだらないか?」
「……げ……」
投げられた炎真は右手で地面を殴り立ち上がった、矢野に手を伸ばす。このままだと乱闘になる!と蒼井は焦り二人の間に入ろうと近寄った。が、それは必要なかったようだ。
「すげぇなオマエ!」
「え、炎真……?」
「なんつー技名なんだ?やられてんのにスカッとした!すげーよ!オマエも見ててそう思っただろニンゲン!」
「え、あ、う、うん!凄かった!!」
「ははは!投げるのも気持ちいいぜ?この機に入らねぇか?柔道部!」
流石に入らないだろう……と炎真の方を見ると見たことの無いキラキラした目をしていた。
「入る!」
「ええ?!」
「よし決まりな!蒼井は?」
「お、俺……体力ないし……」
せっかくのお誘いだが、蒼井は人並みより体力もないし運動能力は低めだ。だがしかし矢野はこれならいいだろう!ととある提案を渡した。それはマネージャーだった。
「マネージャーならどうだ?」
「マネージャーってなにすんだよ」
「まー言い方悪いけど雑用かな?」
「はっ!ニンゲンに丁度いいじゃねぇか、オマエやれ」
「ええ!!」
そんなぁ……なんて思っていると教室の扉が開いた。
「お?矢野ー転校生を早速勧誘か?」
「まーね!」
「あれ?先生!」
入ってきた人物は、さっきまで会っていたクラスの担任だった。
「よ、転校生、丁度いい、俺の自己紹介がまだだったな」
扉を閉め、こほんと咳をし自己紹介を始めた。
「俺の名前は
「そんなそんな……」
「センセー!部員三人になったよ!これで部活として活動できるよね!」
「お、転校生柔道部に入るのかー?」
「えっ」
声が漏れてしまった、三人一斉に蒼井を見た。違うのか?という東雲の目と、入ろうよー!というキラキラした矢野の目と、さっさと決めろとギラギラした目……蒼井の出した答えは。
「入り、ます……俺マネージャーです」
押し負けた……。
「よし!先生!いいよね!」
「約束だしなぁ……こりゃ先生の賭けの負けだな、まさか入る奴がいるとは」
やったー!と矢野は喜び炎真と蒼井の肩を組み「ありがとう!」と言った。炎真は「馴れ馴れしい!」とすぐさま離れた。蒼井は照れながらもマネージャーとしてこれから支えていこうと思ったのであった。
「顧問は俺が引き受けるから、とりあえず……部活として申請してやる、後はこの教室を部活できるように綺麗にしろよー?」
そう言い東雲は教室から出ていった。
かけ違えたカーテン、隅にはほこり、敷き詰められていない立てかけられた畳、柔道をするにはまずは掃除をしなくてはならない。
「よし、ニンゲン、雑用の時間だ」
「ええ?!」
「こらこら眞斗、流石にみんなでやるよー」
「はあ?!オレはやらな」
「掃除が終わったらさっきの技の仕方教えてあげよう」
「……さっさとやるぞ!」
矢野は炎真の扱いが上手いようだ、まずは雑巾掛けからだ。蒼井はそそくさと教室を出ていった、そして直ぐに戻ってきて水いっぱい入ったバケツを持ってきた。
「ありがとう翼!よし、雑巾掛けをするぞー!」
「さっさとすんぞー」
雑巾がけがおわり、カーテンのかけ直し、そして畳を敷いていく。丁度教室に敷き詰めれる分の畳の量だったのでちょうどよく敷き詰めれた。畳を敷きつめるまでに結構な時間がかかった、時計を見ると18時04分をさしていた。
「はぁ、疲れたねー……技明日教えるでいい?」
「ああ!?今教えろ!」
「えぇぇ……疲れたよー……」
「オレは疲れてない」
「……眞斗って体力おばけ?……あれ?」
周りを見たら蒼井の姿がなくなっていた。
「翼は?」
「あ?アイツまさか帰ったんじゃ」
ガラガラガラ!と教室の扉が開いた。
「お疲れ様!ジュース買ってきたよ!」
「おおおー!流石マネージャー!ありがとう!気が利くねぇ」
「いえいえ、近くに販売機があったの思い出して……はい、炎真も飲んで?」
炎真はしばらくジュースを見て乱雑に奪い取った、そしてごくごくと飲んでいく。
「さっき東雲先生とすれ違って、校長先生から正式な部活動の許しが出たって!」
「よし!」
「あと、学寮にそろそろ帰るようにって」
「もーこんな時間だもんな、という訳だまた明日なー!」
「あ!?おい!!」
学ランを肩にかけてカバンを脇に持ち逃げるように帰っていく矢野に怒号を浴びせるが矢野は気にせず帰ってしまった。
「チッ」
「あ、あはは……炎真もお疲れ様」
「……おう」
「俺達もそろそろ帰ろ?」
仕方ねぇな……と学ランとカバンを持ったと思ったら蒼井に押し付けて教室を出ていこうとする。
「だ、だから自分で持ってってー!」
「うるせぇ!さっさと帰るぞ」
自分のカバンと炎真のカバンと学ラン、流石に重いが仕方ないので持つことにする……が、重い。
「オマエホントに体力無さすぎ」
「だ、だって……」
「……チッ、もういい自分で持つ」
そう言い炎真は自分のカバンと学ランを奪い取り歩き出した。
「あ、ありがとう」
「あ?馬鹿かよ、感謝するところじゃねぇだろ」
「あ、た、確かに……」
「ホント馬鹿、オマエみたいなタイプはいつか利用されて捨てられる」
「ひ、酷いこと言うね……」
「事実だろ」
しょぼくれる蒼井に炎真は鼻で笑った。
……廊下の奥、物陰から二人を見る人物がいた。
「あれが噂の転校生?ふふっ、私のタイプ……炎真眞斗くん♡」
謎めいた人物が、炎真をじっと見つめ妖艶な笑みを浮かべていた。彼女はいったい……?
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