第五話 ドタバタの転校初日!

 炎真は朝飯をささっと済ませ学校の屋上へと向かった。扉の前には「進入禁止」とテープが貼られていたがベリッと剥がし扉を開けた。


 風が気持ちいい、屋上のど真ん中に座り込み寝転がった。今日から始まろうとする人間界での高校生活、地獄に帰りたくて仕方がなかった。


「……そこにいんのはわかってんだよ、出て来い」


 「進入禁止」と書いているのに扉が空いていること、誰かが鍵を閉め忘れたか、先約がいるか、答えは後者だった。屋上には閻魔大王が居た。


「裁きはどうしてんだよ」

「みんな有能だからね、私が居なくても死者を裁いていってくれているよ」


 閻魔大王は炎真の隣に座りはぁとため息をこぼした。


「そんなに人間が嫌いかい?」

「……」

「私は人間も動物も大好きだよ、閻魔大王をしていてもそれは変わらない」

「……オレはテメェじゃねぇよ、押し付けんな」


 少しの沈黙が続いた。


「でもオレは子供じゃない」


 立ち上がり肩を鳴らして閻魔大王を見下ろした。

 

「お、やる気が出てきたかい?」

「アイツがうるせぇ、仕方ねぇから学生生活とやらを送ってやるよ」


 ちょっと成長かな?と閻魔大王は思い笑みを浮かべ炎真の頭をワシャワシャと撫でた。


「ガキ扱いすんな!」

「はは!……キミなら変われるよ、私は応援しているからね」


 そう言い指をパチンと鳴らすと閻魔大王は姿を消した。地獄へ帰ったのだろう。


 それと同時に屋上の扉が開く音が聞こえた。


「……ニンゲンかよ」

「はあ、はあ……い、一時限目始まっちゃうよ?」


 相当炎真を探し回ったんだろう、息が荒い。


「……」

「あ、えと……嫌かもしれないけど、えと……あの……」

「行くぞ」

「……へ?」


 蒼井の横を素通りし階段をおりて行く。「オレは行かない」なんて言うと思っていた蒼井は凄く驚きながらも後をついて行った。


 無言の中、自分のクラスに向かって歩いていく。蒼井はどうも無言が苦手な用で話題を何か出せないかななんて考え、うーん、うーんと唸っているとチャイムが鳴り出した。


「あ!チャイムが鳴り出しちゃった!」

「……?急がないとダメなのか?」

「このチャイムが鳴り終わる前にクラスに付かないと遅刻扱いになっちゃうよ!」


 初日早々遅刻はマズイんじゃないのか、と思い炎真を追い抜き走り出す。廊下は走っちゃいけないがそれよりも初日に遅刻はやばい!あと100m先なので急げば間に合う!


「たく……遅せぇ」

「え?わっ!!」


 炎真は蒼井の腕を引っ張り走り出した。物凄いスピードで蒼井は足が追いつかない、ほとんど引きずられている状態になってしまっている。だがそのおかげで間に合った。


「お前体力無さすぎだろ」

「はあ、はあ……す、凄いね炎真……ありがとう!」

「なんの感謝だよ」

「炎真のおかげで間に合ったよ!」


 これくらい当たり前だろと言わんばかりにそっぽ向いてしまった。そのまま炎真は扉を躊躇なく開け入る、その後をついて行き蒼井が扉を閉めた。みんな一斉にこちらに目を向けた。


「おー間に合ったな転校生」

「ふん」

「あはは……すみません」


 肩がこっているようで、自分の肩にバインダーをトントンと叩きながら炎真と蒼井に笑顔で話しかけた、この人はここのクラスの担任だろう。


 ザワザワとしだすクラスを先生は静かにーと言う。


「転校生の紹介を始めるぞー、どっちからでもいいよ、自己紹介してくれるかな?」

「は、はい!蒼井 翼と言います!」

「……炎真 眞斗」


 ザワザワは一向に収まらないようだ。質問タイムでは無いのに質問をし出す生徒が多発した。


「誕生日はいつですかー!」

「1月1日」

「その髪って染めたんですかー」

「地毛だ」


 と、質問が飛んでくる、蒼井が答える前に炎真が淡々と答えて言った。ちゃんと答えるんだーと思っているととある質問が飛んできた。


「あっ、あのっ、彼女っていますかー!」


 1人の女性生徒が放った言葉。


 流石にこの質問には答えないだろう……


「過去にいた、今はもう居ない」


 意外な回答に蒼井はビックリし、炎真を見つめた。


 質問した女子生徒はキャーキャーしだし「フリーなんだ!」とわちゃわちゃしている。炎真の外見はイケメンな方だからキャーキャー言われるのも無理は無い。


 過去に居たんだ……まあイケメンだし居ても不思議じゃないけど、人間嫌いな炎真に恋人が居たなんて想像ができない……もしかしたら人間じゃない、例えば地獄にいた鬼とかの可能性もあるよね、なんて考えていたら蒼井にも質問が飛んできた。


「蒼井くんはー?誕生日いつー?」

「あっ、10月10日です」

「カノジョはー?」

「い、いた事ないです……」

「好きなタイプはー?」

「えと……あの……や、優しい人?」


 疑問形かよ!とツッコミが入り皆は笑っていた。


 みんな優しそうでいいクラスっぽい……高校生活なんとか送れそう!と安堵しているとかったるそうに大きなため息が隣から聞こえた。


「はいはーい質問タイムは終了ー!二人は一番後ろのあの席に行ってねー、授業始めるぞー」


 えええー!と非難の声が上がるが先生は黒板に文字を書き始め授業が開始した。


 席に着くと机の中には必要な筆記用具、教科書、ノート等の物が揃っていた。黒板を見た感じ数学っぽいので数学の教科書を探していると机をトントンと叩かれた。前を見るとそこには矢野が居た。


「ハル!」

「よっ!後ろの席かー最高だな?よろしくな、翼、眞斗」

「うん!よろしくね!」

「チッ、めんどくせぇ……」


 なんとか初日無事に送れそうでよかった!と安堵しながら数学の教科書を広げノートも広げ授業に耳を向けた。暫く書いていると、ふと炎真のことが気になった。


 人間界の授業ってわかるのかな……?そう思いチラッと隣を見ると驚くくらい真面目に授業を受けていた。それはそれは真面目に、字も綺麗でノートは途中までしか書いてないのにわかりやすいと思ってしまうほど整えられていた。


 もしかして根は結構真面目な人なのかな……?なんて思い、自分も負けてられないと残り時間真剣に授業に取り組んだ。


 放課後……。


 授業も終わり、みんな帰る準備を始める……がやはり転校生が気になるようで、みんなこっちに来てわちゃわちゃしだした。色々質問をして炎真は素直に答える、少しは猫を被っているようだ、だがだんだんとイライラしだしてるのが伝わってきて蒼井はやばい、そろそろここから抜け出さないと……とワナワナしていると助け舟が来た。


「みんなそろそろ部活の時間やばくねー?」


 と、矢野がみんなに声をかけた。

 

「あ!やばーい!私顧問に早く来いって言われてたんだった!」

「俺もそろそろ行かないと、またな転校生!」


 と、みんな部活へと向かっていった。


 蒼井は一息ついた。こんなに人に囲まれるなんて初めてのことで疲れたみたいだ。


「はは、お疲れさん、俺も部活に行かないと」

「ありがとね、ハル部活やってるの?」

「んー……やってるというか……やってるんだけど部員が俺しかいなくてさ……あ!よかったら二人共来ない?」

「興味無い、帰る」

「まーまーまー、ちょーっと行くだけだから!ね!さっき助けてやったろー?まさかお礼もなしに帰る気かー?」


 そう言われたのが気に食わなかったのか、それはそれは大きなため息を零しカバンを蒼井に投げ渡した。


「連れてけ、これで貸し借りなしだわかったか?」

「はいはい、さー!いこーう!!」

「ちょ、炎真自分のカバンくらい持ってよー!」


 矢野がしている部活へと二人は向かうのであった。

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