第四話 明るい友達ができました!

 朝、蒼井はふと目が覚めた。そのまま体を起こし伸びをする、時計の針は6:30を指していた。眠い目をこすりながら炎真の様子をこっそり伺おうとしたがベットにはいなかった。


 どこに行ったのだろう?と考えるより先にシャワーの音が聞こえた、どうやら朝風呂に入っているようだ。


 お風呂がすごく好きなのかな?なんて思いながら洗面所へ向かい歯を磨く。


 今日から高校生活の始まり、馴染めるかな?同じクラスにはどんな子がいるのかな?仲良くなれるかな、なんてふわふわ考えながらシャコシャコと歯を磨いていった。


 水を口に含みペッと吐き出すそれを数回。顔を洗いタオルで拭いて戻ろうとした時、ガラッと扉の開く音がした。うとうとしてたのがビクッと目が覚めた、どうやら炎真がお風呂から上がったようだ。洗面所とお風呂場はセットになっているので出くわしてしまった。


「あ、おは……」

「邪魔どけニンゲン」


 挨拶をしようとしたら足で蹴られ洗面所を陣取ってきた。


 もう用は済んだからいいんだけど…この人足癖悪い!!なんて本人に言ったら何をされるか分からないから何も言わずその場から離れた。


 クローゼットを開け、掛けられた学ランに手を伸ばす。今日から高校生の始まりだ、何が起こるかドキドキするけどいい高校生活を送れるといいな、なんて考えていた。


「ニンゲン」

「あ、はい、学ラン」


 後ろから声をかけられ、反射的に学ランを手渡した。炎真は数秒学ランを見て乱雑に奪い取り着替え始める。蒼井も同様に着替え始めた。


 朝食を頂くために学食ルームへと向かう。二人で向かうがこの空気感が凄く気まずかった。声をかけたら怒られそうで、でも沈黙のまま過ごすのもしんどい…。考えた結果勇気を振り絞って声をかけた。


「あ、朝ごはんなんだろうね」

「あ?」

「………」


 撃沈。


「お!赤い髪!チャラいねー」


 蒼井と炎真の間に入り込み肩を組まれた。急な事にビックリし蒼井はひょうきんな声を出した。


 炎真は赤い髪に赤い目、今思えばたしかに目立つ見た目をしている。


「触んな!なんだテメェ馴れ馴れしいな」

「おお怖い怖い、俺は矢野 晴道やの はるみち!高校デビューに金髪にしたんだけど、赤髪もいいねー!!」


 白に近い金髪、髪を低めに結んでいて解いたら肩につくくらいの長さだろうか、明るいテンションであの炎真に臆せず話しかけてくるこの精神力の強さ。


「二人とも、名前は?」

「お、俺は蒼井翼……あっ、待って」


 質問に答えず炎真はそそくさと先に行ってしまった、蒼井はその後を追いかける。その後を矢野はポッケに手を入れ足軽に追いかけた。


 学食ルームに着き、朝食が配られるのでお盆を受け取り炎真について行く、魚、味噌汁、ご飯、漬物などお盆に乗せて空いてる席を探す。


「あ、あそこ空いてるよ」

「なんでメシ食う時もニンゲンと一緒じゃないといけねぇんだよ、ついてくんな目障りだ」


 め、目障り…流石に傷つく…。炎真は蒼井を置いていきどこかへ行ってしまった。しょげていると肩をトントンと叩かれ後ろを振り返るとさっきの男の子、矢野だった。


「あっ矢野さん」

「気にすんなよ、一緒に食おーぜ!」


 優しい…!!と感激、でも炎真の事が気になり炎真の方を見るがもう姿は居なくなっていた。


 空いてる席、空いてる席……と探していたら丁度二人空いてるところがあったのでそこに一緒に行き座った。いただきますと言っておかずを頂く。


「な、赤髪の奴の名前なんつーの?」

「彼ですか?炎真眞斗っていう名前です」

「へー!炎真、変わった苗字だなぁ…かっこいいなぁ!!」

「ふふ、たしかに」


 もぐもぐと食べながら会話を交わす。


「見ない顔だし、二人共もしかして転校生?」

「あ、うん、そうなんです」


 なんで知ってるの?と聞く前に矢野は答えてくれた。


「昨日から盛り上がっててさ、二人も転校生が同時に来るってどんな奴なんだー!って」

「へ、へぇ……そうなんですね」

「そうなんです!……な、敬語やめね?堅苦しいよー」

「え!……う、うん、わかった…」

「あとさん付けも俺ニガテー…呼び捨てかあだ名で呼んでくれよ!」

「え、えと…えと……」


 あだ名、あだ名か……呼び捨てで呼んでもいいと言われたのにあだ名に気を引っ張られてしまった。あだ名、あだ名……


「……ハル?」

「おっ、ぴんぽーん俺皆からハルって呼ばれてんの!うんうんそう呼ばれんのがいいわーよろしくな!翼!」

「うん!へへ…よろしくね」


 少し照れくさくなって前髪を触る、もぐもぐと食べていた手を矢野は止めその手を蒼井の前髪にもっていった、サラッとまるでカーテンを開けるように開け覗き込む。蒼井の前髪は目にかかるほど長かったのだ。


「……綺麗な目」

「え?」

「すげー!綺麗な青い目だな!前髪で隠れてたから気づかなかった」

「そ、そうかな…?」

「そうだよ!……あ!」


 そうだ!と思いついたかのように矢野は手首に予備に着けていたゴムを取り出し蒼井の前髪を括り出した。蒼井はされるがまま「え?え?」と困惑。


「出来た!……ぷっ、あはは!似合わねー!」

「え!なになになに?!」

「見る?鏡……は無いし……あ!はい!記念に写真ー!チーズ!」


 すかさず矢野はポッケに入れていたスマホを取り出し2人仲良く?写真を撮った。


「はい、今の翼の髪型」

「な、なにこれー…」


 前髪はちょんまげのようになっていた。視界は良好だが格好はダサく恥ずかしい。すかさずゴムを取って前髪を直した。


「ははは!」


 写真に写っている蒼井も変な顔をしていて、蒼井はだんだんと恥ずかしくなってきた。


「消してよー!」

「やーだね!思い出思い出!大切に保存しとかないとね!」


 そんな事をしているとチャイムが鳴りだした。そろそろ教室に行かなくては行けない時間になってしまったのでお盆を返すところに置いて学食ルームを矢野と二人で後にする。


「転校生のこと知ってるってことは、二組だよね?」

「そーだよー?俺はこのまま二組に行くけど…アイツ探さなくていいのか?」

「う、うーん…先に二組に行ってるかも知れないから一度二組に行ってみる」


 そういい、矢野と一緒に二組をこっそり覗いたが炎真はいなかった、あの赤髪を見逃す訳が無いので確実に居ない。


 探さないと…!


「お、俺探してくる!ハルまたね!」

「んお?おお!早く見つけてこいよー!」


 矢野に手を振り蒼井は走って炎真を探しに行った。


「炎真……どこに行ったの……?」

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