第9話 女神リリーダによる説明(1)

『申し訳ありませんっ!!』


 普通に通話ボタンをタップしてスマホを耳に持っていこうとすると、画面からきれいな女性が飛び出し、開口一番そんなことを告げた。


「「……」」


 とりあえず、頭の横に持っていこうとしていた右手を動かすのを止め、そっと近くの石の上にスマホを置く。

 うん、さすがは異世界。

 スマホの通話がホログラムによるビデオ通話?になるなんて。

 俺はそんな風に若干現実逃避を始めていたが、クリスティーナの方はすぐに気を取り直したようだ。


「リリーダ様っ!!」


 そう感激したように叫び、跪いてスマホから飛び出している女神リリーダ(推定)に対して祈りだした。


『そう畏まる必要はありませんよ、クリスティーナ。

 貴女にも苦労をさせることになって申し訳なく思っています。

 ごめんなさいね』


「そんな、リリーダ様が謝られることなど。

 すべては私が至らなかったために起きたこと。

 謝罪すべきは私の方です」


 目の前で始まった謝罪合戦を一歩引いたところから眺める。

 とりあえず、あれが女神リリーダで間違いないようだ。


 リリーダ様の外見は、金髪碧眼というところはクリスティーナと一緒だ。

 だが、騎士だったからかビシッとした雰囲気のクリスティーナと違い、リリーダ様の方はフワッとした緩い雰囲気を纏っている。

 肩まで伸ばしているウェーブした髪がそう見せているのか、それとも豊満な胸部装甲によるものなのか。

 クリスティーナも結構なものを持っていることは知っているのだが、ストレートの髪をざっくりと短く切りそろえた外見が緩い雰囲気ではなくキツめの雰囲気に見せているのだろう。


 そんなことを考えながらしばらく眺めていたのだが、いつまでも謝罪合戦が終わりそうな気配がない。

 クリスティーナはともかく、リリーダ様があそこまで下手に出る必要はなさそうなものだが。

 まあいい、テンプレだと重要な話をしようとしたところで時間切れになるなんてことがままあるのだし、クリスティーナには悪いがさっさと本題に入らせてもらおう。


「あー、お取込み中申し訳ありません。

 できれば、リリーダ様から今回の件についての説明をいただければと思うんですが」


『っ、すいません、お待たせしてしまいましたね。

 クリスティーナ、この話はここまでにしましょう。

 今はカズト様へのご説明が最優先です』


「……はい、わかりました」


 クリスティーナは若干不満気な様子だが、リリーダ様はすんなりと切り替えてくれたようだ。

 こちらへと身体の向きを変え、視線を俺へと向ける。


『では、何から説明しましょうか。

 やはり、カズト様にお願いしたいことについてでしょうか?』


「あー、そうですね、正直ほとんど何もわかっていないような状況ですので、一通り説明していただけるとありがたいです。

 一応、クリスティーナからこの世界のことは少し聞きましたが」


『そうですか。

 では、なぜカズト様をこの世界にお招きしたのかからお話ししましょう。

 カズト様にはこの世界を救うためにご協力をお願いしたいのです』


「……世界を、救う?」


 俺が?冗談だろう?

 自慢じゃないが、俺はただの一般人だぞ。

 なんなら、少し前に無職になり、彼女に振られたニートだ。

 いや、再就職するつもりはあったから、さすがにニートではないか。


『クリスティーナからお聞きになっているかはわかりませんが、この世界はゆっくりと滅びに向かっています。

 過去にアンセラル王国が起こした精霊の暴走事故により世界樹が枯れ落ちてしまったためです。

 私たち女神も残った各地の精霊樹でどうにか対応できないかと模索してきたのですが、かの事故の爪痕は想像以上に深く、残念ながら有効な対策を講じることはできませんでした。

 ですから、最終手段として異世界からカズト様をお招きすることになったのです』


「なぜ、最終手段が俺をこの世界に招くことなんてことになったので?

 俺に与えていただいた、アーティファクトだというスマホをこの世界の人に、何ならクリスティーナに与えればそれで解決できたのではないですか?

 わざわざ事情の分からない、どこの馬の骨かもわからない奴を招く必要はないと思うのですが」


『確かに、事情を知らなければそうお思いになるのも仕方ないでしょうね。

 ですが、私たち女神や神はこの世界の者たちに対して過度な干渉ができないのです。

 カズト様にお渡ししたスマホをこの世界の者に渡すというのはそのルールに抵触してできません。

 ですので、私どもが力を与えることができる対象として異世界からカズト様をお招きしたのです』


 自分の世界のヒト達には干渉できないから、変なルールに縛られていない異世界人を招いたと。

 そして、それが俺だったということか。

 完全に納得できたわけではないが、神様は神様で色々なしがらみがあるのだろう、たぶん。

 ひとまずそういうことで納得しておこう。


「でも、ならなぜ俺だったんですか?

 自慢じゃないですが、俺は平凡な人間ですよ?

 何かに秀でているわけではないですし、特別な経験をしてきたというわけでもないはずです」


『それについては、カズト様が私たちの求めていた条件に最も合致したからとしか言いようがないですね。

 善良でこちらの世界に災いをもたらすことなく、こちらの者たちと理性的に協力できること。

 そしてなにより、こちらの世界で未練なく生きていくことができること。

 そういった条件に合致したのがカズト様だったというわけです』


「うーん、なんとなく条件としては無難な人材を求めていたのかなぁとは思いますが、だったら別に俺以外にも条件に合致する人はいくらでもいそうなものなんですが」


 そう問いかけると、リリーダ様は小さく苦笑をこぼす。


『自己評価が低いのですね。

 ですが、簡単そうな条件でも意外に合致する者は少ないのですよ。

 まず、善良なものというところでそれなりに数が絞られますし、災いをもたらさないというのも難しいのです。

 カズト様には失礼かもしれませんが、優秀すぎるというのも周囲との軋轢を生みかねないということで条件としては不適となるのです』


 優秀過ぎるのがダメというのは、まあわからなくもない。

 だが、イメージ的には日本人というのは突出したものはないが平均的にそこそこ優秀な人間が多いイメージだ。

 だったら、善良なものという判定で半数、いや善良、中立、邪悪と考えると1/3くらいか?それでも結構な数になると思うんだが。


『まだ、あまり納得されていないようですが、一番難しいのがこちらの世界で未練なく生きていくことができることなのです。

 確かに、能力的なことであれば他にも候補はいたかもしれませんが、この条件を満たすものは多くないのです。

 家族や恋人がいればそれは未練となりますし、仕事などで立場がある場合もそれはそれで未練となります。

 また、ただ未練がないだけというのもダメです。

 私たちは、元の世界を捨ててほしいというわけではなく、こちらの世界で協力して生きてもらいたいのですから。

 そういう意味で、残念ながら周囲との繋がりが途絶え、それでも新たに前を向いて進みだそうとしていたカズト様が最適だったのです』


 なるほど?

 未練がないだけの薄っぺらい奴はいらなかったと。

 でも、俺としてもただ傷心旅行に行こうとしていただけなんだけどなぁ。

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