第8話 メール
「どうした?」
スマホ片手に固まっているところに着信音が鳴ったからだろう、不審に思ったクリスティーナが俺に尋ねてくる。
「えっと、ちょっと待って」
ただ、俺としてもイマイチ状況がつかめていないので、はっきりとした答えは返せない。
とりあえず、何故か届いたメールを確認してみるだけだ。
『異世界へようこそ』
届いたメールの件名にはそう書かれていた。
そのままメールを開くと、本文には次のようなことが書かれていた。
『スナハラカズト様。
厳正なる審査の結果、カズト様を我らが主神であるクリメントが管理するアラルドへご招待する運びとなりました。
一方的なご招待となってしまい、カズト様におかれましては突然のことに不安や戸惑いを覚えられていることと思います。
ですが、ご安心ください。
我らとしても、カズト様にご安心いただけるように地球の文化を学んでおります。
このスマートフォンは、女神である私の力を注ぎこんだアーティファクトとしての機能を有しております。
つまりはチートアイテムであるということです。
また、カズト様のお身体についても、こちらへご招待する際に改良しております。
具体的には、肉体の若返りとこちらの世界の言葉を理解するための翻訳能力です。
これらを活用し、カズト様のこの世界での生活が幸多からんことをお祈りしています。
女神 リリーダ』
「…………は?」
とりあえず読んでみたけど、正直、それ以外の言葉がない。
この世界に招待されたということはわかった。
このスマホも多分書いてある通りアーティファクトと呼ばれるようなチートな道具なんだろう。
肉体年齢についてはイマイチわからないが、翻訳能力についてはクリスティーナと会話ができている以上、その効果は発揮されているはずだ。
だが、だ。
この世界での生活が幸多からんことを、と言われても俺にどうしろというのか。
はっきり言って説明が足りない。
招待したと書いているからには何らかの目的があると思うんだが、このメールからは読み取ることができない。
この世界でただ生きていればいいのか?
正直、いきなり流刑地にされている無人島らしき場所に放り出されて結構なハードモードっぽいんだが。
あと、このスマホもアーティファクトといっても何ができるんだよっ!!
その説明をくれよっ!!
「あー、大丈夫か?」
俺が心の内で荒ぶっていると、心配になったのかクリスティーナが確認してくる。
そういえば、さっきの問いかけにも答えてなかったし、けっこう怪しい行動をしていたのかもしれない。
いや、ただスマホに届いたメールを読んで、勝手に内心で荒れていただけだが。
「うーん、真偽はともかく、女神リリーダを名乗る人?からメッセージが届いたんだよ。
そのメッセージによると、俺はやっぱり別の世界からこの世界に来たみたいなんだけど、イマイチその目的とかがわからないんだよね。
招待したって書かれているだけだから。
あと、このスマホは女神様謹製のアーティファクトらしいよ」
とりあえず、そう答えてスマホの画面をクリスティーナに見せる。
当然のごとく、かなり不審げな表情だったが、一応近くに来て確認してくれるようだ。
「……これは、なんとも」
メールの内容を読み終わったのか、クリスティーナは困惑したような顔でそうこぼす。
女神リリーダの巫女だと言っていたから、何か知っているのかとも思ったがそういうこともないようだ。
「クリスティーナでもわからないか……。
というか、クリスティーナが読めたということはこのスマホの文字はこっちの文字なのか」
ふと気づいたどうでもいいことが口からこぼれる。
俺には普通に日本語で表示されているように見えたんだが、目で見たものを勝手に翻訳して認識しているのだろうか。
「そうだな、書かれている内容については意味がわからないところもあるが、文字についてはサグラスランド王国でも使われているアンセラル語だ。
まあ、それはともかく、カズトが別の世界から来たという話については信じてもいい気にはなっているぞ。
持ってみたことでわかったが、このスマホ?とやらからはリリーダ様の神気を感じるからな。
であれば、このメッセージもリリーダ様が書かれたものであろうし、そうであるなら、カズトはここに書かれているようにリリーダ様やクリメント様によってこの世界に招かれたのであろう」
おっと、予想外の方法で俺がこの世界から見て異世界人だということが確認されたな。
いや、延々と証明方法のわからないことを考えさせられるかもと思っていたから非常にありがたい話だが。
「じゃあ、さっきの言葉はどういう意味で?
やっぱり、俺がここに流れ着いていた理由?」
「ああ。
リリーダ様がカズトをこの世界、アラルドに招待したというのは理解したが、その目的がわからないからな」
やはり問題はそこか。
うーん、メールなんだし返信とかできるのか?
そう思ってスマホを確認してみるが、返信のボタンがない。
仕方なく新規メールで送れないかも確認してみるが、宛先に女神リリーダが登録されていないので送りようがない。
まあ、女神リリーダだけでなく、一切のアドレスが登録されていないのだけど。
そんな風にスマホをアレコレといじっていると、クリスティーナはクリスティーナで動いていたらしい。
気づいたら竈から離れた砂浜に石を積み上げ、その上に謎の木の人形、水、魚を置いて祈っていた。
あまりにも簡素なものだが、おそらくあの積み上げた石は簡易的な祭壇なんだろう。
となれば、あの木の人形は女神リリーダの像なんだろうか?
それにしては、何ともアレな姿だが……。
まあ人間だれしも苦手なことはあるだろう。
というか、単純に道具がなかっただけかもしれないしな。
そんなことを考えていると、目を瞑って祈っていたクリスティーナがその目を開く。
「リリーダ様に祈りが届いたぞっ!!
なんと、リリーダ様自らカズトに対して神託を下さるとのことだっ!!」
同時に勢い込んでそんなことを言ってくる。
いきなりすごいテンションになったが、そんなにすごいことなんだろうか?
イマイチ感覚がわからない。
それよりも俺に直接神託というのはどうやるんだろう?
メールには身体を改良したと書かれていたし、女神リリーダとの脳内会話もできるようになっているんだろうか?
そんなことを考えていたんだが、答えはあっさりとやってきた。
“~♪~♪”
さっきのメールの着信音とは異なるメロディーがスマホから聞こえてくる。
画面を見ると女神リリーダからの着信だ。
「まあ、スマホだしな」
そうつぶやき、なんとなく釈然としない気持ちで画面を見つめてしまった。
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