第6話 すり合わせ(1)
「すまない。
情けない姿を見せたな」
「いえ、こちらこそぶしつけなことを聞いてしまったようで申し訳ありません」
空を見上げて考え事をしている間に、王女様も復活したようだ。
こちらを見て声をかけてきた。
だが、さすがに出会った当初のような自信満々な態度ではない。
ひとまず平静を取り戻しただけといった感じに見える。
「まあ、私の方は先ほどのくだらない事情だったわけだが、お前の方はどうなんだ?
こちらも正直に事情を話したんだ。
先ほどのような訳の分からない説明ではなく、本当のことを話してくれるんだろうな」
いや、意外に元気かもしれない。
空元気かもしれないが、結構な圧で凄まれる。
「えー、あー、何というか、自分でも半信半疑なんですけど。
……どうやら異世界からやってきたみたいです」
「……ふざけているのか?」
ヤバい、感じたことがないはずなのに結構な強さの殺気を感じる。
なんだろう、さっきの話を聞いたせいか、被害妄想かもしれないけど、流刑地送りになったもろもろを含めた怒りをぶつけられている気がする。
「いやいやいや、ふざけてないです。
というか、俺自身も半信半疑ですし。
でも、王女様と話した限り、そうとしか考えられないような状況なんです。
なんで、できれば確認に付き合ってもらいたいというか、色々と教えてもらいたいという感じなんです」
「クリスティーナだ。
習慣でつい王女だと名乗ってしまったが、さっき話した通り私はもう国を追われた身で王女ではない。
だから、私のことはクリスティーナと呼べ」
急いで弁解すると、王女様が寂しそうにそう言う。
うーん、俺という第三者に改めて説明したことで状況を再認識してしまった感じだろうか。
俺としては、王女だとか騎士団長だとか巫女なんていう役職がついているよりも個人として向き合う方が楽でいいんだけど。
まあ、いいか。
「じゃあ、クリスティーナさんと呼べばいいんですかね。
それともクリスティーナ様とかクリスティーナちゃんの方が良いですか?」
「クリスティーナちゃん、だとっ!?」
さすがに元王女様にちゃん付けはまずかったか。
「あっ、すいません。
さすがにちゃん付けはなかったですね。
クリスティーナ様と呼ばせてもらいます」
「いや、少し驚いただけだ。
もはや様付けされるような立場でもないし、クリスティーナと呼び捨てで呼んでもらって構わない。
お前、いや、カズトの方が年上のようだしな」
意外にもフレンドリーな申し出をされてしまった。
これは立場の違いを受け入れようという気持ちの表れなんだろうか。
でも、俺のことに関しては未だに訳の分からないことを言う不審者でしかないはずなんだが、そんなことを言ってしまっていいのだろうか?
「クリスティーナですか。
そちらの方が良いというのであれば、そう呼ばせてもらいますが、良いんですかねぇ?」
「構わないさ。
どうせ私たち以外には誰もいないんだから。
……で、異世界がどうのという話だったか。
ふざけていないというのは信じるが、説明してもらえるんだろうな」
「ええ。
説明というか、さっきも言ったようにお互いに情報をすり合わせて状況を確認したいなと思っている感じです」
とりあえず、お互いの呼び方については呼び捨てということになるようだ。
今日会ったばかりの女性を呼び捨てにするのはなんとなくためらいがあるが、向こうが良いと言っているのだし気にしないことにしよう。
彼女の言うように他に誰がいるというわけでもないのだし。
問題は、本題の“異世界転移”疑惑についてだ。
俺の中では疑惑ではなく確信に近いんだが、彼女と確認していけば何か別の可能性が見えてくるかもしれない。
まあ、まずは彼女に信じてもらえるように説明を頑張ってみよう。
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