第4話 発覚する事実

「で、お前はなんだ?

 何をやってここに追放されてきたんだ?」


 服を着たことで落ち着いたのか、彼女の口調がやや柔らかくなっている。

 相変わらず上から目線という感じだが。


「あー、その前にあなたの名前をお聞きしても?

 俺の名前は砂原一人スナハラカズトです。

 日本語で話してもらえているのでわかっているんでしょうが、日本人です」


 とりあえず、彼女の名前を聞いてから自分でも名乗ってみる。

 俺が殺されるようなことがなければ、しばらくは一緒にいることになると思うし、自己紹介は大事だろう。

 ちなみに、今は崖の向こうからは戻ってきており、先ほど見つけた洞穴前の竈近くの岩の上に座っている。

 彼女はやはり、この洞穴を拠点としていたようだ。


「スナハラカズト?

 変わった名前だな、日本人というのも聞いたことがない」


「日本人を知らない?

 でも、さっきからずっと日本語でしゃべってますよね?」


「何を言っている。

 私はずっとアンセラル語でしゃべっているではないか」


「えっ?」


「えっ?」


 会話がかみ合わず、お互いに見つめあってしまう。

 というか、アンセラル語なんて聞いたことないんだけど。

 日本語のことをこのあたりではそういう風に呼んでいるのか?


 ……いや、都合の悪いことから目を背けるのはやめよう。

 どう考えても何かがおかしい。


「つかぬことをお聞きしますが、日本という国に聞き覚えは?」


「ないな」


「では、アメリカとかイギリス、ロシアや中国なんかはどうですか?」


「どれも聞き覚えはないな。

 お前が住んでいた場所にある国の名前なのか?」


「そうですね、住んでいた場所というか、俺が知っている世界の国の名前です。

 とりあえず、俺の中で有名だと思われる大国の名前を挙げてみたんですが……」


「そういわれても、やはり心当たりはないな。

 私としては、お前は亜人の国の人間なのだと思っていたのだが」


「えっ、亜人?」


 亜人なんているの?

 目の前にいる彼女は普通の人間にしか見えないんだけど。

 どう見てもテレビとかで見るような欧米の女優とかモデルとかにしか見えない。


 というか、亜人ってやっぱりあれなんだろうか。

 エルフとか獣人とかそういった感じのファンタジーな人たち。

 それとも、階級的に身分が低い人たちをさすような蔑称的なものなんだろうか。


 なんてことを考えていたが、あっさりと答えが語られた。


「ああ、アンセラル王国の跡地である魔の森をはさんだ大陸の東側には、エルフや獣人たち亜人の種族が各種族ごとに国を作っていると聞く。

 アンセラル王国が滅んだ時にほとんどの人間が西側に移り住んだが、西側に亜人がいないわけではないように、東側にも亜人とともに向かった人間がいたことだろう。

 お前はその人間たちの末裔なのではないか?」


 アンセラル王国、つまりアンセラル語というのはその滅んだというアンセラル王国で使われていた言葉なのか。

 で、その王国の人たちが移り住んだことで目の前の彼女もアンセラル語を使っている、と。

 いや、いい加減にはっきりさせておくべきだろう。


 滅んだと言っているが、大陸の東西に人間と亜人が移り住んでそれぞれが国を作る程度には大きかったであろうアンセラル王国を俺は知らない。

 エルフや獣人たちが国を作っているというが、俺はその存在を知らない。

 さらに言えば、その国々があるらしい場所は大陸と呼ぶべき大きさらしいが、俺はそんな大陸があることを知らない。


 地球上に存在する大陸については、衛星写真なんかもあって基本的にその存在を知られていないものはないはずだ。

 ムーやアトランティスみたいな空想上、伝説上の大陸についてはわからないけど、それは無視してもいいだろう。

 つまり、俺の常識に照らし合わせるのであれば、彼女が言う大陸は地球上には存在しない。


「えーっと、この星というか、この世界は地球ですよね?」


「地球?お前は何を言っているんだ?

 この世界は創造神クリメントが作りたもうた世界、アラルドに決まっているではないか」


「あぁ」


 そう小さくこぼして空を見上げる。

 目の前の彼女が俺のことをだまそうとしているのでない限り、やはりここは地球ではないらしい。

 目覚めたときは単純に運が良かったとしか思っていなかったが、よくよく考えると飛行機が海に墜落して大した怪我もなくどこかの島に流れ着くなんてありえない。

 仮にあったとしても、さすがに無傷というのは無理がある。


 つまり、俺は最近巷で流行っているという異世界転移、もしくは異世界転生といったものに巻き込まれてしまったらしい。

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