第7話 転落

7月18日。また暑い夏がやってきた。湿気が多く、蒸し暑い毎日にみんな苛々していた。もちろん私もだ。彼女はというと、学校には来ているが、誰とも話さなくなった。いや、話せなくなった。まあ、あんなことされたらね。皆も、気を遣っているのか、はたまた気味悪がって爪を突き立てているのか、今や彼女に話しかけるのは私だけになってしまった。最初こそよかったものの、彼女の顔からは日毎に笑顔が消えていった。最初は、私は彼女が私以外と会話をしなくなったことに優越感を覚えていた。これでいいんだ。でも、なんか違う気がする。本当にこれでいいのか?なんて考えるようになった。私は彼女の笑顔をもう一度見たい。でも今は、彼女の口角が上がることなんてない。違う。彼女の笑顔を奪いたいわけじゃない。でも、もしこれをやめたら?また彼女は私のもとから離れていってしまう。醜い感情が私の心を縛り付けている。君の名前を呼んでやりたいのに、もし呼んでしまったら彼女が消えてしまいそうな気がした。だから私はずっと「君」呼びのままなのだ。「ねえ、君は私のことどう思ってるの?鬱陶しく思ってない?」私は聞く。すると彼女は「君は友達。」そう一言だけ告げて保健室へ行ってしまった。授業が始まったはいいものの、どうも彼女のあの一言が引っかかる。初めて遊びに行った時は私も大真面目にそう思っていた。でも、今は?蝉の鳴き声がうるさく思考を邪魔してきた。ほんのちょっとだけ、私に好意をもっているんじゃないかって、期待していた自分が馬鹿みたいだ。頭がぐちゃぐちゃになりながらもなんとか授業を乗り越え、早く帰ろうと思っていたときに、最近は音沙汰もなかった彼女からの通知で端末が震えた。開くとなぜかたくさんの改行がなされていてなんだか不気味な雰囲気だ。最後までスクロールするとそこには「ありがとう」とだけ書かれていた。嫌な予感がしたのもつかの間、外から聞こえた鈍い音。「_____!!」あちこちから聞こえる悲鳴。私は教室の窓から音のしたほうを覗いたがよく見えない。外に出るとすでに先生たちがブルーシートを敷いていて中が見えないようになっていた。だが、その人の近くには、私のリュックについているものと同じ、千切れたキーホルダーと、それがついていた彼女の青色の携帯があった。その日は、私を嘲笑うかのように美しい青空だった。

 即死だったらしい。次に私が見たのは、白い服を纏い、白い百合でいっぱいの棺桶の中で穏やかに眠っているような彼女の姿だった。

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