第6話 仕掛け
寒さで白く透き通った彼女の手が淡赤色に染まった頃、彼女は相変わらず名前も知らないあの人と楽しそうに話している。なんなんだ。拙い私の語彙力ではこの感情を表せないが、なんとなく嫌な気分になる。転校して半年が経ったが、未だに仲良く話せる人は彼女しかいなかった。もちろん、必要最低限ではあるが他人とも話すけれど、自分から話しかけたいなんて思うのは、やはり彼女だけだった。そんな彼女は私が来るまでは一人で本を読んでいるような子だったらしい。私が来てからは他人と話すようなったし、性格も気持ち明るくなったよ、なんて教えてくれた前の席の人。名前は知らない。「おはよう、今日も寒いね。」彼女はそう言って私の手を握ってきた。手まで赤くして、見るからに寒そうな彼女とは反対に、私の体は熱を帯びていく。はあ、どうしたら、私とだけずっと話してくれるの…?__あ、いいこと思いついたかも。放課後、私は花瓶を買いに行き、白い百合を生けた。これできっと彼女は私とだけ話してくれる。確信はないけれど、何故かそんな自信が湧いてきた。きっと、これで。
翌日、私が学校に着くと、教室がざわついていた。一人の女の子が泣き喚いていて、慰めていたり、じっと見ている人たち。まさに阿鼻叫喚。この空間だけ異様に重かった。私はその女の子を慰めに行く。彼女は眼を真っ赤に腫らし震えていた。彼女の机には白い百合が生けられた花瓶が置かれていたのだ。教室の生徒が使う机に花瓶なんて、普通は亡くなった人に向けて弔いの意を込めて置くものだ。それを生きている人になんて…。惨いよなあ。可哀想に。私は彼女を保健室に連れて行き、教室に戻った。…いやあ、「我ながら」タチが悪いとは思う。でも、これなら彼女は私の方を向いてくれる。助けがほしいだろ。__それから私は毎日、彼女の机に花瓶を置き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます