第5話 歪曲

あの暑かった彼女との夏も過ぎ去り、9月になった。教室に入り、彼女を探したが、見当たらない。いつもなら自分の席で本を読んでいるか音楽を聴いているのに。今は8時20分。8時半から授業が始まるから、この時間にはすでにいるはずだ。廊下に出ると、すぐに見つけられた。その彼女は他の人と楽しげに話していた。いつもなら、私を見つけると直ぐに駆け寄ってきてくれるというのに、今日は会話に夢中でこちらに気づきもしない。私が1番仲いい友達じゃなかったの?私は君と話せればそれでいいのに、そうじゃないの?よくないであろう感情と混ざるように食べているキャラメルの甘さが麻薬のように私の思考をふやけさせていく。一旦落ち着かせて、彼女のことを考えると、それとはまた別の思いで脳内が蕩けていく。あ、彼女がこっちに来た。そうそう、そうこなくっちゃ。私は授業が始まるまでの7分間、彼女がどこにも行かないよう、なるべく会話を広げ続けた。こんな可愛らしい笑顔を他の人にも見せているのだと思うと、心が惑ってしょうがない。そのまま、私だけを見てくれたらいいのに。「そういえば、最近またいじめが起きてるみたい。君が来る前にもあったんだけど、君が来てからはなくなってたんだけどなあ。」「へえ、いじめねえ。どこにでもある問題だけど、どうせ私たちには関係ないね。もし君がいじめられたら、私が守ってあげるよ。」そんな事を言うと、彼女は照れくさそうに笑って、とてもうれしそうに礼を述べた。そんな彼女が愛おしすぎて堪らない。もう、どこにも行かないで、私の隣でだけ笑っていてほしい。いつから、私の愛はこんなにも歪んでしまったのだろう。でも、これが、私なりの精一杯の愛情なんだよ。彼女ならきっと、受け取ってくれる。…と、思っていた。

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