第3話 進展
ジリジリと照りつける日差しに反発するかのような蝉の鳴き声が耳に入る。その声を聞いていると、暑さが増すような気がする。ああ、もうすっかり夏なんだなあ。夏には毎年憧憬の念を抱いているのだ。日が長くなり、太陽の眩しさに自分まで照らされて、今なら何でもできそうだ、なんて思える。あと、花火。花火はすごく好きなんだ。一瞬にして散るくせに、あんなに色とりどりで、儚くも燃える、群青色の夜空を彩るこの華が。そんなことを考えているうちに、放課後を知らせるチャイムが思考を遮ってきた。帰る支度をしていると、先程のショートカットの女の子が声をかけてきた。「あのさ、連絡先交換しない?」理解するのに少々時間がかかった。私なんかと連絡を取り合いたいなんて言ってくれる人、初めてだった。それでも出たのは、「うん、いいよ。」なんて冷ややかな返事。私のほうが愛想なんてものは持ち合わせていなかったようだ。彼女はクールな印象とは裏腹に、飼っているという茶トラの猫をアイコンにしていたし、文面上では感嘆符やら顔文字やらをよく使ってきた。2時間近く経って、このやり取りは終了した。不思議と疲れはせず満足感だけが脳内を支配していた。何より私が好きな音楽、本の趣味がとても合うのだ。私自身が他人にこれ好きなんだーみたいなふうに教えることはあっても、教える以前からそれらを知っている人なんて初めてだった。いつの間にか、時計の針は1を指していた。そろそろ寝ないと。明日も学校だ。明日に希望を持ち、ベッドに身を投げて眠りについた。翌日、彼女は私にすごく積極的に話しかけてきた。昨日のあれは仮面でもつけていたのだろうか。でも悪い気はしない。彼女と話すのは癒しになるし、楽しい。気づけば私達は、授業前後の休み時間、昼休み、放課後と、たくさんの会話を重ねていた。それでもまだ話し足りない。もっと、ずっと、話していたい。___そういえば、まだ彼女の名前、聞いてないや。
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