第2話 出会い
7月18日。世間一般で言えばもうじき夏休みだというときに、私は転校生としてこの「蒼湊高校」にやってくることになった。つい最近前の学校に入学したと思ったら、母の仕事の都合でこの有様だ。この学校は、近隣に海があることにちなんだであろう名前だけは流麗だと思うが、対照的に校舎はお世辞にも綺麗とは言えない。それにしても、転校なんていう初めてのイベントに緊張とワクワクを隠せない。しかし、私には「また」友達ができないままでこの蒼高なんて呼ばれている学校を卒業することになるのだろう。私は見た目は無頓着だし話すのが苦手なうえ、趣味嗜好も世間の流行りに乗っているといえるようなものではないから、きっと話していてつまらないのだろうな。気づけば私には音楽と本しか残されていなかった。だが、そんな生活は嫌いではない。人と話すのには労力を使うし、好きなものに囲まれて生きていける生活なんてこれ以上楽しい日々はない。強がりに聞こえるだって?そりゃそうだ、強がってんだもん。
私のクラスは1年c組らしい。はああ、この先に知らない人達がいる教室のドアを開けるなんて、他とは違う緊張感があるな。なんて思われるかな。自己紹介の声、裏返ったりしないかな。ふうう、と深呼吸をした途端、示し合わせたかのように担任の男性教師の声がした。若々しい落ち着いた声と口調で「それでは、入室してください」と、今までで一番体がこわばる合図が出された。もう一度、ふうう、と深呼吸をして、扉に手をかけ、ガラガラガラ、と私にしてはだいぶ勢いよく建付けの悪い扉を開けた。ざっと20人ほどが一斉に私に注目した。緊張の中、一通りの自己紹介を終えた後指定された席は、小柄でぱつっとしたショートカットに長い睫毛、白いセーラー服が似合う可憐な女の子の隣だった。可愛らしい。軽く会釈をして席についた。ちなみに返事はにこりとも笑わず「よろしく」の一言のみだった。意外にも愛想はそこまでらしい。最初から馴れ馴れしすぎた、嫌われたかもなどという様々な推測が脳内を駆け回っているけど、一旦置いとくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます