透明

よこやまみかん

第1話 空想

「ときみ」

この言葉は、さまざまな現在の現象から未来を予測する技術を指すが、その才能を持つ人間のことも言うらしい。…そういえば、怖いほど勘が当たるなんていうような人、たまにいるよなあ。道に迷った私の空元気な独り言に返事をするかのように、鬱蒼とした木々がざあっと揺れる。理由は単純。茶トラの猫を追いかけていたら、この通り未踏の地に迷い込んでしまったのだ。おい、そんなことあるかよ。我ながら馬鹿馬鹿しい。途方に暮れて道の在る方に進んでいくと、森の中にしては真新しい踏切が一基、ぽつんと佇んでいた。気がついたら引き寄せられるかのように早足で踏切へ近づいていた。その先には海が見える。少し大きめの建物もある。不自然に思いながら、歩いてきた方向は正解だったんだなあ、と根拠のない自信を持ちながら、踏切を渡っていたその瞬間______。

え?

今、誰か笑わなかった?…私の耳元で小さな笑い声が聞こえたような気がした。

ああ、この前買ったイヤホン、安かったもんなあ。それとも今聴いている曲から?いやでも、この曲からは笑い声なんて聞いたこともない。少し考えた結果、暑さのせいで聞こえた幻聴だという結論に落ち着いた。私はその声に聞き覚えがあった気もしなくはないが、そうでも思っていないと恐怖で戦慄してしまいそうだった。未踏の地に片足突っ込むことなんて怖い以外の何物でもない。そうして歩いているうちに陽炎がのぼるきらきらした砂浜と見ているだけで涼しくなりそうなコバルトブルーの碧海が視界を奪った。さらに衝撃を与えたのは、そんな景色には似合わないような古びた学校がそびえ立っていることだった。妙だなあと思いつつもどこに向かっていたかさえ思い出せなくなってしまったので端末で地図を開いてみたとき、驚愕のあまり思わず声が出た。

「ここ、行こうとしてたとこじゃん。」

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