第2話 お出掛け準備

  朝食を食べ終えた司は洗面台で歯を磨いていた。

  そこに真喜子が入ってくる。


「ねえねえ司ちゃん、今日のデートこの服どうかな?」

 

 鏡に写る母親と目があう。


「ぶっふっ!!」

「ちょっと司ちゃん、急にどうしたの?」

「か、母さん。その格好は?」

「さすがにライダースーツで難波にはいけないでしょう。この前にね、お友だちと神戸の南京町で買ってきたのよ。ふふんっ♪♪」

「そ、それってチャイナドレスじゃないか。スリット深すぎじゃないか」

「そうでしょう。ママにぴったりだと思わない。ねえ、司ちゃん、この右胸の紐結んでくれない。自分じゃやりにくいのよね」

「や、やだよ。自分でやれよ」

「だから、自分じゃやりずらいから、司ちゃんに頼んでるんじゃないの。ほら、早くう。結んでくれなきゃこのままお出掛けするわよ」

「や、だからさ、チャイナドレスじゃなくてもっと普通の服でいいじゃないか」

「普通ってなによ。今は個性の時代よ。それにチャイナドレスは昔でた映画で着てたから思い入れがあるのよね。司ちゃんもみたことあるでしょう」

「あるよ。たしか吠えろ女ドラゴンだっけ」

「そううそう、吠えろ女ドラゴンよ。あれスタント無しでやったから大変だったのよ。あらずれてきたわ」

「か、母さん。お、おっぱいがこぼれる!!」

「は、早く結んでくれないから。お願い司ちゃん。ママのおっぱいポロリする前に、お願いだから」

「わ、わかったよ」

 きゅきゅっと司は紐を結ぶ。

「はーありがとう司ちゃん。おっぱいポロリせずにすんだわ」

「よかったよ。で、本当にその格好でいくのかい」

「ええ、そうよ。司ちゃん。他にはメイド服もあるけど夏はこっちのほうが涼しいのよね。せっかくチャイナドレス着るんだからお団子二つヘアーにしようかな。ねえ、洗面台かりるわよ」

「わかったよ。まあ、メイド服で町中でられるうよりはましかな」

「なになに、司ちゃんはメイド服に興味があるのかしら」

「ち、ちがうよ。僕が好きなのはナース服のほうが。はっしまった」

「へえ、司ちゃんはナースがお好きなのね。今度ママがナース服きてあげましょうか」

「か、勘弁してくれよ」

 司はふりむきもせずに洗面所をあとにした。




 髪型をととのえた真喜子がリビングで司にヌンチャクを見せる

「司ちゃん、これ見てよ」

「それってヌンチャク。そんなのも持ってたんだ」

「そうよ。これはね吠えろ女ドラゴンの撮影につかっていいたものよ。もう二十五年も前になるのね。なつかしいわ。それ、アチョー!!」

「か、母さん。あぶないよ」

 ぶんっぶんっと真喜子は華麗にヌンチャクを振り回す。

「アチャッー!!」

「母さんすごいよ。ヌンチャクめちゃくちゃうまいじゃないか」

「そうでしょう。昔とった杵柄ってやつね。それっバシッときまったわね」

ぱちぱちと司は拍手する。

「母さんやっぱりすごいや。今でもぜんぜんアクションできるじゃない」

「へへんっ。でしょう。もうヌンチャクさばきは体が覚えてるのよね」

「ねえ、それもう一回やってみてよ。ネット動画にあげようよ」

「あらいいじゃない。登録者一万人を記念してヌンチャクアクションを披露しようかしら」

「ちょっと待ってて。スマホとってくるから」


 司はスマートフォンをもってリビングに戻ってくる。

「さあ、準備いいよ母さん」

「それじゃあ始めるわよ。ううんっ」

 真喜子はヌンチャクを右脇に挟んでファイティングポーズをとる。


「それでは登録者一万人を記念して感謝のヌンチャクアクションを披露いたします。アチャー!!」

 ぶんぶんと真喜子はダンスをするように華麗なヌンチャクさばきを見せる。

「はい、オッケー。母さんお疲れさま」

「ありがとう。どれどれちょっと見せてくれない」

「うん、すごくきれいんいとれてるよ。やっぱり素材がいいからね」

「なになにそれもう一回いってくれない」

「もう母さんすぐ調子にのるんだから。一回しかいいません」

「もう司ちゃんはツンデレね。そういうとこも好きよ」

「そ、それって息子としてだよね」

「なに急にてれてるのよ。当たり前じゃないの。司ちゃんはママの大事な息子なんだからね」

「そうか、でもちょっと残念(小声)」

「なあに司ちゃん、なんか言った?」

「もうそういうラノベ主人公みたいのはいいから。ほらこれがさっきの動画だよ。見てみなよ」

「わーすごい。私のおっぱいぶるんぶるん揺れてるわね」

「そ、それもすごいけど、やっぱりヌンチャクアクションすごいよ。いつかロムにまとめてインテックス大阪の即売会にだそうよ」

「あら、南条司監督やっとやる気になってくれたのね。そうね、今度時間とってロムつくりましょうか。でも今日はお昼からはデートだからね」

「デートって。ただ難波に買い物いくだけだろう」

「ふふっ楽しみだわ、司ちゃんとのデート」

 そう言い、真喜子は鼻唄まじりにメイクをなおすのであった。

 

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