プロポーズ
藤泉都理
プロポーズ
空に地にと火の花を咲かせ、触れても危険ではなくここの草原にしか咲かない火薬玉花を求めてやってきた花火師は、この状況を訝しんだ。
この状況、と言うのは。
多種多様な動物たちが一か所に集まっているこの異様な状況だ。
カッコウ、ヒバリ、プレーリードッグ、キジ、ヒョウモンガメ、トラフズク、コミミハネジネズミ、ゴールデンハムスター、アルマジロ、タンチョウ、スカンク、キツネ、クジャク、シマウマ、インコ、ブンチョウ、ジョウビタキ、ビンズイ、トビウサギ。
「いや。多種多様だけど、やたら鳥類が多いな」
「まあ、顧客の要望だからよう」
「おう、ターザン」
「おう、花火師」
横に並んだこの草原の案内役兼管理者であるターザンに、花火師は顧客の要望って何だと尋ねた。
「おう。彼にプロポーズする為にな、自分たちの好きな鳥類を集めてくれって顧客に頼まれたんだよ。まあ、集まったのは鳥類だけじゃなかったけどよお」
「へえ。プロポーズか。それはめでたいな!」
目を爛々と輝かせた花火師に、ターザンはそのセリフはプロポーズが受け入れられてからだろうと苦笑した。
いやいや。
花火師は首も手も振った。
「プロポーズをしようってところがすでにめでたいじゃないか。うん。めでたい」
「そうかあ?」
「そうだ。だからプロポーズが受け入れられようが拒まれようがどうでもいいんだよ」
「いや。どうでもよくないだろう」
「いやいや大変だ!」
「あ、おい!花火師!」
突然駆け出したかと思えば、即座に振り返って元の位置まで戻って来た花火師は、プロポーズは何時にするんだと、ターザンに尋ねたのであった。
「いいいやっほお!!!」
三十分後。
プロポーズをする彼女の許可をもらい、事の成り行きを見守っていた花火師は飛び跳ねながら、本日採取予定数の火薬玉花五本を全部咲かせよう、として、はたと気づいた。
咲かせ方をまだ師匠から教わっていなかったのだ。
よしそれならば。と花火師は散り散りに去って行った動物たち、とりわけ鳥類の代わりに、祝福の舞いをターザンと共に彼女と彼に捧げたのであった。
三年後。
「あら」
一枚の写真付きポストカードを郵便ポストから手に取った彼女は微笑んだ。
ドローン、いや、鳥類か、もしくはターザンが空中から撮ったのだろう。広大な草原ばかりか大空さえも飾り立てる大輪の火花が一輪、見事に咲いていたのだ。
「あ~。プロポーズしたいなあ~」
彼女は呟き、カンカン照りの空に向かって写真を持った手を伸ばすと、写真の端に飛行機雲が見えたのであった。
(2023.7.22)
プロポーズ 藤泉都理 @fujitori
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