明かされる真実


「さて、僕は、王様たちと兵士の皆さんにお伝えしたいことがあります。この方をご存じの方もいるでしょう」


 空の子どもに変わって、王たちが映った。


「これは皆さんの王様たちです。王様方、今、この時のあなた方が、映し出されているのがおわかりですか? この魔法、見覚えのある方も多いと思います」


 王たちは隣を見たり、手を上げ振ってみたりして、空に映る姿が自分たちであると気がついた。

 これまでに僕の魔法を見たことのある王家の者は、うなずいている。次に何が起きるのかもわかったようだね。



「真ん中にいる、ひときわ豪華な金糸刺繍の方、聖教会の頂点、エウスタキオ主座です。これは、今、現在を映していますが、過去の事も映し出せます。先日、僕と会話したエウスタキオ主座です」


 こちらを向いた椅子に座るエウスタキオ主座が大映しになり、僕の声が響いた。


『魔王と勇者のそもそも。あれを聖剣に使うことを考えた人の資料があればなにかわかるかも。誰が考えついたの?』

『……始まりの主座、初代主座のセロ様です』

『へー、セロ様ねー。その人、何考えてたのかなぁ。あれを聖剣として使うのなら……。その人について教えてよ。その人が何を考え、どうして聖剣にしたかとか、通路とか、魔王城とか。どこかに手がかりがあるかも』

『かしこまりました。……事の始まりは初代主座セロ様が、魔王を作り出したところから始まります』

『魔王を作り出した?』

『はい。太古種研究をしていたセロ様は、太古種の実験生物を使い魔王を作り出し、勇者を作り出して、世界の権力を握ることを考えられたのです』


「はい、一時停止! 驚きでしょ? 魔王は聖教会の初代主座、セロが作ったものだったんだねぇー。それも、世界の権力を握るためだなんてねぇー」


 王たちは隣のエウスタキオ主座を見つめて、一歩離れた。


『勇者も? 勇者も作ったの?』

『はい。作り出した魔王には強大な力が備わっていました。対抗させるために勇者を作り、太古種の武器で討伐するようにしました。普通の武器で魔王を倒してしまうと、復活しなくなってしまいます。肉体を滅ぼし魂を取り出す太古種の武器、聖剣を使い、魔王が復活できるようにしたのです』


「はい停止! 魔王の復活も、聖教会セロ主座が考えたことだったんだね」


『魔王と勇者を作り出し、聖剣で討伐させる……どうやって勇者を作ったの?』

『はい、聖教会の地下にある太古種の遺産に生物の魔力量を増大させる物がありました。……現在は壊れてしまい、新しい勇者を作るには……子どもに魔石を埋め込む方法しかなくなりました。いまは貧民たちの子どもを手に入れ、魔石を埋め込んで実験しています。ですが、なかなかうまくいきません。子どもがすぐに死んでしまうのです』

『……どのくらいだ。どのくらいの子どもを殺してきた』

『……何千、何万と。エルク様が、新しい勇者が生まれましたが、次の勇者を生み出すために実験は続けなくてはなりません。太古種の聖剣では、魔王を倒せば勇者は死んでしまいます。エルク様の聖剣がどのようなものか結果が出ていません。今後も実験は必要でしょう』



 動きを止めたエウスタキオ主座の姿が、王たちと一緒にいるエウスタキオに変わった。

 僕がエウスタキオ主座に念を押す。


「聖教会が、魔王を作り、勇者を作って討伐させ、再び復活させる。間違いないか、エウスタキオ主座」

「はい。間違いありません。人間の、世界のためを思っておこなったことです」

「なぜ、セロの野望、魔王と勇者の戦いで世界の権力を握ることが、世界のためになるのだ?」

「セロの……セロ様の野望? ……いいえそれは……」

「いくら聖教会を創設した者の望みでも、なぜ、はるかな時が過ぎてもその野望を後継者が持ち続けられる? 教典か?」

「……いえ……教典などは……」

「おまえ! エウスタキオ主座! その身に、初代主座、セロを宿しているな!」


「初代? 初代主座を宿す?」

「……なんのことだ?」


 僕の糾弾に、王たちがお互いを見合った。


「太古種の技に、魂を転生させずに、新しい宿主に移し替えるものがあった。お前はエウスタキオの身体を奪ったセロだな!」

「……わ、わたしは……エウスタキオ……セロ様では……な……」


 エウスタキオは胸元を強く押さえた。その口の端から長く涎が垂れた。


「なぜ、魔王と勇者を生み出した! 答えろ! セロ!」


 うつむいたエウスタキオから、低い声が漏れた。


「人……のためだ……人の世を平和に……人間の……人間の世界を平和にするためだ! 人間だけでよいのだ! この世に生きるのは人間だけでよい! 蛮族や獣人、魔族などいらぬ! 愚かな、劣った種族を滅ぼし、人間だけが生きればよいのだ!」


 エウスタキオは顔を上げ、大声で言い放つ。


「わたし、セロが望むのだ! 人間だけが優れている! 優れた人間だけがいれば、他はいらぬ!」


 王たちが、さらにエウスタキオから距離を取った。


「わたしが、このセロが、人間だけが生きるよう聖教会を作ったのだ! 他の種族を滅ぼすために聖教会はあるのだ! 魔王を作り、それに従うケダモノ、悪として滅ぼすのだ! 聖教会と、勇者に忠誠を誓う人間たちだけで生きる。他の種族はいらぬ……聖教会に従わぬ者もいらぬ……永遠に聖教会が人間を治め、人間だけの世が、永遠に続くのだ。変わることなく、永遠に聖教会の世が続けば、幸せなのだ!」



「王たちよ。聞いたか! 聖教会は、セロは、魔王を作り、勇者を作った。その目的は人間だけが生きる世を作るため。その人間にも干渉したのだろう? 王家にも!」

「いらぬ! 聖教会に逆らう王などいらぬ! 人間以外の血が入ってはならぬ! 不適格な者は抹消する! 王家であろうと聖教会に逆らう者は全て始末してきたのだ! 殺し、排除してきた! 聖教会に逆らってはならぬ! 受け入れ、従うのだ!」


「……」



 僕は、王たちを見て伝えた。


「聖教会に詳細な記録が残っていた。エルフやドワーフ、獣人、魔族と婚姻した王とその一族を殺した大量の記録が。そればかりか、魔術師、学院の博士、世を良くしようと改革を志した者、太古種を研究しようとした者も全て殺してきた記録が。詳細な記録が残されていた」


「必要なのだ。人間の世を、今の世を、このまま永遠に続けるために。変化など、いらぬ!」


 エウスタキオは焦点の定まらぬ目で周りを見渡した。



 僕は王たちに問いかける。


「さて、王たちよ。これでも魔王と勇者の不毛な戦いを、永遠に続けたいか? 魔王と魔王国はそれを望まない。だが、君たちはどうする? 王よ、どうする?」


 フラゼッタ王国王太子が、ノルフェ王国女王が、僕に答えた。


「望まない! フラゼッタ王国は望まない! エルク、争いなど無益なことだ!」

「ノルフェ王国も望まぬ! いつも不安に押しつぶされそうな国民が、安らかに生きる方を選ぶ!」


 王たちが、口々に「否」と言いたてた。



 空中に映る僕に、フラゼッタ王国ベランジェ王太子が尋ねる。


「だが、勇者エルク、あれを見ろよ。あの魔王軍と竜たちを。攻めてこられたら、我らでは勝てない。皆殺しになる。『魔王と魔王国はそれを望まない』とは本当のことなのか? 誰が、それを保証するのだ。勇者エルクがか?」


 空に大映しになった僕が、両腕を広げ討伐軍に向けて声高らかに宣言した。


「ああそうだ、僕が保証しよう。『魔王と魔王国はこの不毛な戦いを望まない』と。魔王国を代表する者として。あの魔王軍を、あの竜たちを統べる魔王として。この僕が、魔王エルクが保証しよう、ベランジェ王太子」

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